舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
上 下
223 / 255
第23章

第221話 問い

しおりを挟む
 休日が明けて、平日がやって来た。

 リビングでご飯を食べていると、フィルがよたよたと部屋に入ってきた。どうやら、今になって起きてきたらしい。らしい、というのは、彼はときどき眠る振りをするので、今の今までそれをしていた可能性もある、ということを意味する。

「おはよう」箸を口の一歩手前まで持ってきたタイミングで、月夜は言った。

「やあ」フィルが応答する。

「眠っていたの?」

「どう思う?」

「たぶん」

「何が、たぶんなんだ?」

「たぶん、眠っていたのでは?」

「自分では確認できないからな」

「何が?」

「眠っていたか否かが」

 それがごく自然な流れだとでも言うように、フィルは座っている月夜の膝の上に乗った。月夜はご飯を食べているだけなので、それで邪魔になるということはない。

 フィルが欠伸をする。映画一本分ほどの壮大な欠伸に見えた。

「眠いの?」

「いや、別に」フィルは首を傾けて、手を舐める。「少々、眠いだけだ」

「頭が回っていないみたい」

「今、捻っているんだよ。同時にはできないだろう?」

「捻りつつ、その勢いのまま、回すことは可能では?」

「さっさとご飯を食べたらどうだ?」

 フィルに言われて、月夜は止まっていた手を動かす。

 今日はよく晴れていた。晴れすぎているといっても差し支えない。つまり、外は完全に真夏の様相だ。それに合わせて、月夜も真夏の服装をしていたが、それはいつものことなので、何も特別ではない。問題は、夏の間は、寒くても夏の服装をしなければならないという点だ。月夜が寒さを感じることはあまりなかったが。

 フィルは月夜の膝の上で丸くなる。なるほど、これがネコと呼ばれる所以か、と月夜は納得する。

「散歩へは行かないの?」

「お前が学校に行くときに、一緒に行く」

「学校に?」

「散歩に」

「私は行かない」

「学校に行くんだろう?」

「行く」

「退屈な一日の始まりだ」

「退屈な一生の場合、すでに毎日がその性質を受けている」

「退屈なのか?」

「うーん、どうかな」

 日々を退屈と感じたことはなかった。そもそも、毎日ファンタスティックな出来事が起こるはずがない。そういうふうに生きている者もいるらしいが、それは、きっとファンタスティックの意味が違うのだろう。

 ファンタスティックに生きたいだろうか?

 言い換えれば、ファンタスティックな死を望んでいるということになるだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。 おいしいご飯がたくさん出てきます。 いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。 助けられたり、恋をしたり。 愛とやさしさののあふれるお話です。 なろうにも投降中

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

聖少女暴君

うお座の運命に忠実な男
ライト文芸
あたしの人生はあたしがルールだ!シナリオを描くのはあたし!みんな準備はいい?奇跡のジェットコースターだよ! 【週末金・土・日定期更新】 天文部を舞台にした女子高生×ガールズラブ=eスポーツ⁉ どうしてこうなった⁉ 舞台は都内の女子校、琴流(ことながれ)女学院の天文部。 主人公である鳴海千尋(なるみ ちひろ)が女子校に入学して、廃部寸前の天文部で出会った部員たちはみんな一癖あって? 部長であるロシア人クォーター姫川天音(ひめかわ あまね)は中学生時代『聖少女』といわれるほど容姿端麗、品行方正な美少女だった。しかし陰で生徒たちから『暴君』とも呼ばれていたらしい。姫川天音は天文部の部室で格闘ゲームをする問題人物だった。 姫川天音は聖少女なのか? 暴君なのか? 姫川天音は廃部寸前の天文部を隠れ蓑にeスポーツ部を立ちあげる野望を持っていて? 女子校を舞台にした女の子ゆるふわハチャメチャ青春ラブストーリー! ※この作品に実在のゲームは登場しませんが、一般に認知されている格ゲー用語『ハメ』『待ち』などの単語は登場します。この作品に登場する架空の格闘ゲームは作者の前作の世界観がモチーフですが、予備知識ゼロでも楽しめるよう工夫されています。 この作品は実在する人物・場所・事件とは関係がありません。ご了承ください。 この作品は小説家になろうサイト、カクヨムサイト、ノベマ!サイト、ネオページサイトにも投稿しています。また、ノベルアッププラスサイト、ハーメルンサイト、ツギクルサイトにも投稿を予定しております。 イラストレーターはXアカウント イナ葉(@inaba_0717)様です。イラストは無断転載禁止、AI学習禁止です。

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

正義のヒーローはおじさん~イケてるおじさん三人とアンドロイド二体が事件に挑む!?~

桜 こころ
ライト文芸
輪島隆は55歳のしがないおじさん、探偵事務所を営んでいる。 久しぶりに開かれる同窓会に足を運んだことが、彼の運命を変えることになる。 同窓会で再会した二人のおじさん。 一人は研究大好き、見た目も心も可愛いおちゃめな天才おじさん! もう一人は謎の多い、凄技を持つ根暗イケメンおじさん? なぜか三人で探偵の仕事をすることに……。 三人はある日、野良猫を捕獲した。 その首輪に宝石がついていたことから大事件へと発展していく。 おじさん三人とアンドロイド二体も加わり、探偵の仕事ははちゃめちゃ、どんちゃん騒ぎ!?

こちら京都府警騎馬隊本部~私達が乗るのはお馬さんです

鏡野ゆう
ライト文芸
ここにいるおまわりさん達が乗るのは、パトカーでも白バイでもなくお馬さんです。 京都府警騎馬隊に配属になった新米警察官と新米お馬さんのお話。 ※このお話はフィクションです。実在の京都府警察騎馬隊とは何ら関係はございません※ ※カクヨム、小説家になろうでも公開中※

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

尾道海岸通り café leaf へようこそ

川本明青
ライト文芸
咲和(さわ)は、広島県尾道市に住む大学2年生。 ある日、アルバイト先である海岸通り沿いのカフェの窓から、若い男性が海に落ちるのを目撃する。 マスターや通りがかった高校生らによって助け上げられた彼を、成り行きで少しの間お世話することになってしまうが、彼の正体とはいったい……。

処理中です...