舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第21章

第202話 赤走箱

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 バスを降りて学校に向かう道中、何度か階段を上り下りする必要がある。バスロータリーの傍には駅があるが、そこは現在工事中だからだ。本来なら、地続きとなっている道を進むことで学校に行くことができるが、工事している場所を迂回するように進まなくてはならない。

 気温はまだそれほど高いわけではないが、どういうわけか、大気中に含まれる水分の量が多いようで、蒸し暑さが感じられた。これは、人間は水分と関係がある、ということを意味する。反対に、水分と関係のない動物を見つけるのは難しい。典型的な問題だが、ないことを説明するのは、あることを説明するよりも困難だ。

 階段を上って駅の建物に入ると、屋根の影響で暑さが少々緩和された。しかし、彼女はもともと体温が低いので、おそらく、ほかの人間に比べれば、暑さは感じられないことが推察される。けれど、もともと体温が低いから、外気との気温差が顕著になると考えることもでき、ここら辺のことは、どのように考えれば良いのかよく分からない。

 階段を下りたら、あとは線路に沿って真っ直ぐ進むだけだ。左手には小規模だが住宅地が広がっている。立ち並ぶ家々はどれも古風だが、それがこの辺りの景観を彩る要素となり、全体として雰囲気は伝統的な方向に傾いている、といえるかもしれない。

 まだ人通りは少なかった。時刻は七時を少し過ぎた頃なので、当然といえば当然だ。しかし、高校には部活動という文化があるので、それに所属する者はこの時間から登校している。そうすると、彼女も何らかの部活動に所属している可能性が浮上するわけだが、そのような事実はなかった。彼女は好きでこの時間に登校している。別に、特別好きというわけでもなかったが。

 歩きながら、色々なことを考えていた。

 こういうときに考えられることは、大抵の場合関連性がない。関連性がないことが一つ二つと思い浮かべられ、一つ二つと姿を潜め、また一つ二つと新しいことが思い浮かぶ。

 ということを、今は考えている。

 右手に続く線路の上を、赤い車体の電車が通り過ぎていった。なんとなくそちらに顔を向け、横に長い直方体が大地を平行移動する様を見る。

 電車は走り去っていく。

 遙か遠くまで、その姿見えなくなるまで、彼女はそれを見つめていた。
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