舞台装置は闇の中

彼方灯火

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第19章

第181話 失踪する日常と到来する異常

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 布団の中で目を覚ました。布団の中で眠ったのに、天井に張り付いて目を覚ましたら怖いので当たり前だ。怖いというのは精神的状態だが、精神的状態は肉体的原因があってこそのものだ。

 アラームが鳴る前に身体を起こした。おそらく、あと数秒でけたたましい音が鳴り響く。

 肩から垂れた毛布を退かそうと思ったが、それが誰にも引っ張られないことに違和感を覚えた。

 いつもそこにいるはずの彼女がいない。

 唐突にアラームが鳴り響く。予想していた通りの展開だったが、ほかに予想していなかった展開があったから、意識がそちらの方に持っていかれた。

 布団の中にいるのはフィルだけだった。

 ルゥラの姿が見当たらない。

 立ち上がって、勉強机の上にあるアラームを手に取り、その頭を軽く抑えて鳴り止ませる。とりあえず、服を着替えた。学校には行かないから私服だ。少し寒いような気がしたので、シャツの上にパーカーを羽織った。

 階段を下りる。

 リビングに入ったが、ルゥラの姿はなかった。

 洗面所にもいない。

 顔を洗って再びリビングに向かい、硝子戸のシャッターを開けてウッドデッキに出る。

 陽光が眩しい。

 なぜ、眩しく感じるのか?

 光が多く目に入るから。

 では、なぜ光が多く目に入るのか?

 多いという言葉は、何らかの基準がなければ用いられない。

 つまり、平常時と比べている。

 平常時と比べて光が多く目に入る。

 それはなぜか?

 足もとを見る。

 白い破片が転がっている。

 月夜はその場にしゃがみ、それを手に取って見つめる。

 手に持っている物に焦点を合わせることでぼやけていた背景が、白く歪んでいることに気がついた。

 庭の向こうに続く道路。

 黒いはずのその表面が、いつか見たように白く染まっている。

 月夜は立ち上がり、ウッドデッキを下りて庭に出る。

 道路のすべてが白く染まりきっている、というわけではなかった。蛇が這うように、道路の中心を皿が線状に並んでいる。皿は、綺麗な形で残っているものもあれば、破片になっているものもあった。

 リビングに戻る。

 階段を上って自室に向かった。

「フィル」

 布団の中で丸まっている彼に手を伸ばし、その柔らかい身体を左右に揺する。すると、フィルはすぐに目を開けた。誰かみたいに瞬きをすることも目を擦ることもしない。

「何だ?」

「ルゥラがいなくなった」

 月夜の言葉を聞いて、フィルは彼女をじっと見つめる。

「どういう意味だ?」

「どこかに行ってしまった、という意味」

 つまり、left。
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