舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第18章

第176話 myself is yourself

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 窓が揺れる。風が吹いているようだ。月夜はソファから立ち上がり、窓の傍に立って外を眺めた。先ほど自室でも同じ行動をした。何も意図しているわけではないが、何らかの理由があるかもしれない。

 人は自分が自分で考えて動いていると思っている。自分で、考えて、動いていることは確かだが、しかし、考えるというのは、脳に血液なり電気なりを流すということであって、物理のルールに則って行われる。そして、血液や電気は物質だ。血液や電気は思考そのものではないが、血液や電気の流れ方は周囲の環境の影響を受ける。

 そうすると、本当に自分の思い通りに考えているかといえば、そうとは言い切れないということになる。個とは他から切り離された唯一絶対の存在ではない。他も同時に個だからだ。

 現代では、自分から、自分で、ということが強調されているように思えるが、まず「自分」の定義をしっかりとしなければ、そのような議論にはほとんど意味がないといって良いだろう。「自分」の場合だけでなく、「平和」や「幸福」、「公平」などの場合でも同じだ。それらの定義が曖昧なまま議論をしても、ただの綺麗事しか生まれない。

 ということを考えている、自分、を、意識する。

 しかし、意識したのは自分でそうしようと思ったからではない。

 背後で気配がした。

 月夜は後ろを振り替える。

 暗闇に浮かぶ二つの瞳と目が合った。

「あれ、月夜?」ルゥラが目を擦りながら言った。「あああ。私、眠ってた?」

「眠っていた」月夜は応える。

 リビングの中を進んで部屋の照明を灯した。たちまちルゥラが眩しそうに両目を手で覆う。その隣で丸まっていたフィルが、顔をむくりと上げて周囲を見渡した。それから、何事もなかったかのようにまた自分の前脚を枕にして眠り始める。否、眠ってはいないはずだ。

「何これ」ルゥラがテーブルの上のものを指さして呟く。

「料理」月夜は答える。

 ルゥラは振り返って月夜を見る。

「何の?」

「何の、とは?」

「私が食べていいってこと?」

 奇妙な推論だが、結論は正しかったので月夜は頷いた。

「そうだよ」

「月夜って、料理できたんだね」

「最近、ずっと作っていた」

「あ、そうだっけ?」

「忘れたの?」

「いや、覚えているけど」

「もう、冷めてしまった」月夜は言った。「電子レンジで温めましょう」

 唐突な敬語、笑。
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