舞台装置は闇の中

彼方灯火

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第18章

第173話 to do

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 ルンルンが突然笑い出す。何が面白いのか分からない。その前に数秒間の空白があったため、笑いが部屋に木霊して余計に目立った。

「まあ、いいさ」唐突に笑いを止めてルンルンは月夜を見る。「私は私がするべきことをするだけだ。邪魔はさせない。お前はお前のするべきことをすればいい」

「私がするべきこと?」月夜は首を傾げる。

「私は物の怪の力を奪う」

「ルゥラを守れと言いたいの?」

「言いたくはないね」ルンルンは両手を無意味にふらふらとさせる。「自分が何をするべきかは、自ずと見えてくるものだ。何も動かなければ見えてこないがな。お前が動いているのか止まっているのかは、私には判断しかねる」

 月夜は視線を下に向ける。

 ルンルンの言っている意味を考えた。彼女は自分と対話をしようとしている。つまり、猶予を与えようとしているのだ。一方的にルゥラを傷つけようとしているのではない。むしろ逆だろう。ルゥラを傷つけるのは、彼女の言う、彼女がするべきことを実行するに当たって、致し方なくそうせざるをえないのだ。

 顔を上げたとき、すぐ目の前にルンルンが立っていた。彼女は月夜よりも少し背が高い。見下ろしているのに上目遣いのような目つきをしていた。

「今日のところはお暇しよう」急に低い声になってルンルンが言った。「でも、また来る」

 月夜が口を開きかけると、突然、ルンルンが月夜の方に体重を預けてきた。押し倒され、攻撃されるのかと思ったが、違った。そのまま月夜の肩に手を回し、硬直した。自分のものでない体温と息遣いを感じる。

 次の瞬間、ルンルンの身体は崩れ、いつか見たように、黒い粒子の群れになって窓の外に飛び出していった。

 月夜は呆然として窓の向こうを見つめる。意識ははっきりとしていた。その分身体が動かなかった。

 窓の傍に近寄って遠くを見る。しかし、すでにルンルンの姿は見えなくなっていた。

 暫くの間その場に立っていたが、やがて傍にある椅子を引いて勉強机の前に座った。机の上にはまだ皿が大量に残っている。その内の形が綺麗に残ったものを手に取り、月夜はその表面を見つめる。もう片方の手で表面をなぞった。

 自分がするべきこととは何だろう?
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