舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第17章

第169話 夢物語

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 ルゥラは眠ってしまった。疲れていたのだろうか。疲れていなくても目を閉じると眠くなるので、そうとも限らない。外部から内部の状況を推測するのは意外と難しい。

「俺は出かけてこよう」そう言ってフィルが立ち上がった。

「どこへ?」月夜は尋ねる。「今、出かけてきたばかり」

「散歩をしに行くんだ」

「今、散歩をしてきたばかり」

「それはお前たちに付き合っただけで、俺の日課とは別だからな」

 どうやら、先ほどの外出とこれからの外出はイコールで結ばれていないようだ。

 フィルが出て行ったあとで、月夜はまた自室に向かった。別に意味も目的もない。ただそうしようと思っただけだ。思いつきで行動すると碌なことがないらしいが、禄なことの禄が何か理解している人間はどの程度いるのだろう、と月夜は考える。もちろん彼女も理解していない。理解していなくても使えるからだ。つまり、言語は最も身近にあるブラックボックスだといえる。

 部屋はまだ荒れていた。大分整理されつつあるが、頭の中に理想像としての部屋の姿がある限り、荒れているという印象が先行する。

 落ちている皿の破片を手に取る。

 その断面を見つめる。

 前にもそうしたことがあった。

 傷口もそうだ。

 ものが途絶えた場所に人の意識は向きやすい。

 ルンルンと呼ばれる少女のことを考えた。

 彼女は今どこにいるのだろうか? なぜ、ルゥラに憑依したのだろうか? 物の怪の力を勝手に使おうとするとのことだが、それをして何になるのだろうか?

 当然、考えても分からない。分からないことは分かりたいと思うが、思っただけでは分からないのが現実だ。

 人間の思考はブレーキが利かない。言語を用いて考えているからだが、言語は人間の性質を強く反映しているから、どちらかといえば、言語にではなく、人間の側に問題があると思われる。

 空を見ると不安になる。その先にどのような世界が広がっているか想像がつかないからだ。

 無限に続く数字を見ると不安になる。無限に続いた先に何があるのか想像がつかないからだ。

 自分という存在について考えると不安になる。どこまでが自分で、どこまでが自分でないのか想像できないからだ。

 不安、不安、不安。

 不安、不安。

 不安。

 不安。

 不安、不安。

 不安、不安、不安。

 窓の外を見る。日は大分陰っていた。日が陰ると夜になる。夜が明けると朝になる。

 いつまでそれを繰り返すのだろう。

 繰り返した先に何があるのだろう。

 何もないということは分かっている。けれど考えずにはいられない。

 自分が死んだとき、どうなるのだろう?

 今感じているこの世界は、どこへ消えてしまうのだろう?

 消えるとはどういうことだろう?

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