舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
上 下
158 / 255
第16章

第157話 ブラック・アンド・ダーク

しおりを挟む
 空が暗い。空気も冷たい。雨が降ってくるかもしれない、と予想する。別に大した予想ではない。具体的に数字で確率を算出しなくても、それくらいのことは普通誰でも分かるものだ。

 リビングに向かってルゥラの様子を見る。彼女は窓際に立っていた。遠くから眺めると、彼女の服がぼろぼろになっていることに気がつく。ずっと見えていたはずなのに意識が向いていなかった。あれだけ動いたら当然だろう。ルンルンも服は着ていたが、果たして物理的な制約を受けるのだろうか。

「どうかした?」ルゥラに近づいて月夜は問う。

「なんだか、寒いね」月夜に目をやってルゥラは答える。「春なのに」

「春でも寒いことはある」

「そうだね」ルゥラは頷いた。「でも、春って言うと、晴れやかなイメージが浮かぶ」

 どうしようかと迷った挙げ句、月夜は後ろからルゥラを抱き締めてみた。ルゥラは突然の出来事に一度身体を強ばらせたが、すぐに力を抜いて窓の外を見続けた。

「月夜の身体、冷たいけど、こうしていると暖かい」

 ルゥラが感想を述べる。

 なるほど、自分が感じているのと同じだなと月夜は思う。

「もう少し、寝ていた方がいいかもしれない」月夜は言った。「体力を消耗しているはず」

「消耗してるよ」

「じゃあ、寝た方がいい」

「うーん、でも、今はあまり眠りたい気分じゃない」

「では、どんな気分?」

「ぼうっとしたい気分」

 意図的にぼうっとすることがないので、月夜にはルゥラの気分がいまいち分からなかった。分からないため許容しようと考える。ぼうっとするということに関して、相手の方がプロフェッショナルだからだ。

「あの人、もう来ないかな」ルゥラが呟く。

「あの人とは?」

「私に取り憑いた人」

「ルンルン?」

「そう」

「また来ると言っていた」月夜は事実を伝える。

「そっか」ルゥラは頷いた。彼女の細い髪が月夜の頬に擦れる。「来てもいいけど、あんまり乱暴しないでほしいな。普通にお話したかった」

「どうして?」

「うーん、どうしてだろう……。なんだか、私のことを知りたがっていたような気がしたから」

「話すことで解決できるのなら、それが一番だと思う」

「解決って、何を解決するの?」

 たしかにそうだ……。

 自分は何を解決しようとしているのだろう……。

「その人と仲良くなったら、もっと楽しくなるかな?」ルゥラは首を後ろに向けて月夜を見る。

 答えは決まっていた。

 分からない、と。

「きっと」けれど月夜は異なる回答を口にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

テス

萩原繁殖
ライト文芸
僕は初めから虚構していた。どんなときも、どんな場所でも。数えきれないフィクションを生み出し、そこに僕の現身をつくった。僕はそこで歩けるし、何かを為すことができる。僕は潜水していく中で、どんどん小さくなっていく酸素の中にいろんな光景を見る。人々の行動、知らない趣、木星の記憶。僕に向かって星々が集約すればいいと思った。僕は恒に光っていたかった。

独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~

水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

こちら京都府警騎馬隊本部~私達が乗るのはお馬さんです

鏡野ゆう
ライト文芸
ここにいるおまわりさん達が乗るのは、パトカーでも白バイでもなくお馬さんです。 京都府警騎馬隊に配属になった新米警察官と新米お馬さんのお話。 ※このお話はフィクションです。実在の京都府警察騎馬隊とは何ら関係はございません※ ※カクヨム、小説家になろうでも公開中※

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

聖少女暴君

うお座の運命に忠実な男
ライト文芸
あたしの人生はあたしがルールだ!シナリオを描くのはあたし!みんな準備はいい?奇跡のジェットコースターだよ! 【週末金・土・日定期更新】 天文部を舞台にした女子高生×ガールズラブ=eスポーツ⁉ どうしてこうなった⁉ 舞台は都内の女子校、琴流(ことながれ)女学院の天文部。 主人公である鳴海千尋(なるみ ちひろ)が女子校に入学して、廃部寸前の天文部で出会った部員たちはみんな一癖あって? 部長であるロシア人クォーター姫川天音(ひめかわ あまね)は中学生時代『聖少女』といわれるほど容姿端麗、品行方正な美少女だった。しかし陰で生徒たちから『暴君』とも呼ばれていたらしい。姫川天音は天文部の部室で格闘ゲームをする問題人物だった。 姫川天音は聖少女なのか? 暴君なのか? 姫川天音は廃部寸前の天文部を隠れ蓑にeスポーツ部を立ちあげる野望を持っていて? 女子校を舞台にした女の子ゆるふわハチャメチャ青春ラブストーリー! ※この作品に実在のゲームは登場しませんが、一般に認知されている格ゲー用語『ハメ』『待ち』などの単語は登場します。この作品に登場する架空の格闘ゲームは作者の前作の世界観がモチーフですが、予備知識ゼロでも楽しめるよう工夫されています。 この作品は実在する人物・場所・事件とは関係がありません。ご了承ください。 この作品は小説家になろうサイト、カクヨムサイト、ノベマ!サイト、ネオページサイトにも投稿しています。また、ノベルアッププラスサイト、ハーメルンサイト、ツギクルサイトにも投稿を予定しております。 イラストレーターはXアカウント イナ葉(@inaba_0717)様です。イラストは無断転載禁止、AI学習禁止です。

天狗の盃

大林 朔也
ライト文芸
兄と比較されて育った刈谷昌景は、一族の役割を果たす為に天狗のいる山へと向かうことになった。その山は、たくさんの鴉が飛び交い、不思議な雰囲気が漂っていた。 山に着くと、天狗は「盃」で酒を飲むということだったが、その盃は、他の妖怪によって盗まれてしまっていた。 主人公は、盃を取り戻す為に天狗と共に妖怪の世界を行き来し、両親からの呪縛である兄との比較を乗り越え、禍が降り注ぐのを阻止するために、様々な妖怪と戦うことになるのだった。

処理中です...