舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第16章

第155話 上手に使いなさい

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「うーん、なんだか身体が痛いなあ……」ルゥラは自分の肩に触れる。「私の身体って弱いのかなあ……」

 ルンルンも弱い身体だと言っていたが、そんなことはないだろう。あれほど派手に暴れられたら、誰だって身体を痛めるに決まっている。

「今日は休んでいた方がいい」月夜は言った。「無理をしても、いいことは何もない」

「月夜が言っても説得力ないよ」ルゥラは彼女を上目遣いで睨んだ。「毎日帰ってくるのが遅くて、夜更かしもしていてさ」

「私にとって無理ではない」

「無理だよ。最近、なんだか眠そうだし」

「おそらく、前と生活リズムが変わったせい」

「私が毎朝ご飯を作るようになったから?」

「ルゥラが傍にいるだけで、色々と変わる気がする」

 ルゥラはくすくすと笑った。リスではないのだが。

「フィルはどこ?」

 ルゥラに問われ、月夜は目だけ上に向ける。

「二階で皿を片づけている」

 ルゥラは月夜を見つめる。彼女は目を何度か瞬かせた。それから周囲に視線を巡らせる。リビングは大分片付いていたが、重ねられた皿が部屋の隅に置かれていた。

「私、どうしてこんなことしたのかな」

「ルンルンに乗っ取られていたから。貴女のせいではない」

「私、この力、もういらないと思うんだ」ルゥラは自分の手を見る。「だって、月夜にご飯を食べてもらえて、もう願いは叶えられたんだから」

「私にご飯を食べてもらうために、どうして皿が必要だったの?」

 ルゥラは少し困ったような顔をする。

「うーん……」

「前に、皿が好きだと言っていた」

「そうだよ。円くて、白くて、格好いいよね」

 格好良いだろうかと月夜は自問する。結論は出ない。

「なんでだろうなあ……」ルゥラは何度か頭を回した。「なんとなく、そうすればいいって思っただけなんだ。ご飯を食べるきっかけになるというか……」

「力をなくすことはできるの?」

「ううん、分からない」ルゥラは首を振る。彼女の挙動は分かりやすい。自分もそうかもしれないと月夜は思う。「皿を生み出すのはいつでもできるんだよ。今、やってみようか?」

「やりたいの?」

「別にやりたくはないけど」

「沢山は困る」月夜は言った。「でも、ルゥラが生み出す皿は、どれも個性的で面白い」

「そう? うーん、それ自体を目的にすればいいのかな……」

「今ある力は失わない方がいい。少なくとも、そちらの方がポテンシャルは高い」

「ぽてんしゃるって何?」

「直訳すれば、可能性」

「可能性?」

 月夜は一度黙って考える。

「その力を保持していた方が、後々何らかの役に立つ可能性がある、ということ」

「ほんとに?」

「おそらく」

「そっかあ……。つまり、上手に使いなさいって言いたいんだね?」

「そう、かな……」

「分かった」ルゥラは笑顔で頷いた。「上手に使う」
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