舞台装置は闇の中

彼方灯火

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第16章

第152話 掃除

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 とりあえず、リビングにある皿を片づけることにした。片づけるといっても、相当な量があるので外に捨てるわけにもいかない。どうしようかと月夜が思案していると、仕方がないなと言って、フィルが月夜の前に皿を一枚差し出した。

「何?」月夜は首を傾げて問う。

「いいか? よく見ていろ」

 そう言うと、フィルは持っている皿を口に咥えた。何をするのかと思ったら、そのまま端の部分に歯を立てて、破片を口の中で咀嚼し始めた。咀嚼したら飲み込む以外にない。粉々になった陶器が彼の胃袋に流れていく様が想像された。

 手の込んだ手品でも披露したかのように、フィルは両手を広げて見せる。

「そうやって、街中にある皿も片づけたの?」

「まあな」

「美味しい?」

「美味しくはない。しかし、俺は何でも食べる」

「なるほど」

 通例、「何でも」が対象とするのは食べられるものの集合だ。そうでないものは対象としない。いつでも家に来て良いと言われて、では昨日お邪魔すると答えられないのと同じだ。

「食べられる量に限度はない」フィルが解説した。「だが、俺の気力には限度がある」

「どのくらい食べられそう?」

「最初には決めない。食べながら考えるんだ」

「なるほど」

「二回目のなるほどだな」

「それが食べるための秘訣?」

「食べるためというよりは、生きるためと言った方が近いかな」

 フィルと協力して皿を片づける。月夜には皿を食べる能力はないので、一枚一枚拾って部屋の隅に重ねることしかできなかった。しかし、それでも生活するためのスペースは確保される。

 空間に存在する絶対量が変わるわけではないのに、同じものを一ヶ所に纏めようとするのはどうしてだろう。そうした行為は整理と呼ばれる。そうすることで綺麗になったと感じるのだ。非常に不思議な感覚ではないだろうか……。

 掃除の途中でルゥラの様子を見る。彼女は年相応の子どもが精一杯遊んだあと、遊ぶのにも疲れてしまったかのような顔で眠っていた。彼女が人間と同じように疲れるなら、今は相当疲弊しているはずだ。

 きちんと目を覚ましてくれるだろうか。

 ……。

 自分が眠るときにも同じquestionがproblemとなるので、今は保留しておくことにした。
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