舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第10章

第92話 one more time

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 自分が周囲の環境に影響を受けているのであれば、皿から連想して食べ物を食べたということも考えられなくはない。しかし、ヨーグルトもラーメンも、平皿に入れて食したのではないし、それだけが要因だとはいえない。ただ、要因の一つではあるかもしれない。

「まあ、あとづけで考えても仕方がないな。目の前にある今を見なければ」

 バスを下りて坂道を上っていた。背後からはまだ自動車の走行音が聞こえている。両サイドに並ぶ木々と電柱。虫の声は聞こえない。

「今とは?」自分の隣を歩くフィルに向かって、月夜は尋ねる。

「さあね。まあでも、俺は別に哲学問答がしたいわけじゃないからな」

「目の前にある今を見ろ、というのは、充分哲学的な発言だと思うけど」

「あくまで哲学、的、なだけだろう? それっぽいものは、本当のそれとは違うのさ」

「では、論理的というのも、本当の論理とは違う、ということになるの?」

「今の理屈でいえば、そうなるな」

「本当とは?」

 家には帰らずに、直接小夜のいる神社へと向かった。公園を横断して土の斜面を上った先で、小夜が待っていた。

「おかえりなさい」

 夜でも半袖の制服姿で、小夜が月夜に言った。

「ただいま」

 先にフィルが会っているのだから、おそらく彼女もだいたいのことは知っているだろうと予想されたが、月夜は自分の身の回りで起こっていることを一応整理して説明した。しかし、整理するほど内容のあることではなかった。以前と今日で、自宅の周囲に同じタイプの皿が落ちているのが見つかったというだけだ。

「それが物の怪の仕業だと断定できるかは、まだ分かりません」月夜の説明を聞いて、小夜は告げた。「しかし、月夜の周りにはそのようなことをする人間がいるように思えないので、彼らの仕業だと考えるのが妥当です」

「随分と失礼な物言いだな」木の上にいるフィルが横槍を入れる。

「事実だから、いいよ」月夜は小夜に同意した。「じゃあ、それが物の怪の仕業だとして、私はどうすればいいの?」

「月夜は、二度あることは三度ある、しかし、三度あることは四度あるとは言わない、と考えたみたいですが、四度目はないにしても、三度目を待つ必要があります」

「どうして、私の考えたことが分かるの?」

「なんとなく、分かるからです」

「三度目を待って、それで、どうすればいいの?」

「そのときになれば分かるはずです」小夜は笑顔で答えた。「どうやら、この状況はもう少し長く続きそうです。それは、貴女が殺されるまでまだ猶予がある、ということを意味します」
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