舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第9章

第84話 (死)(生)観

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 一度思考をリセットして、直近の未来について考えることにした。

 自分は物の怪に殺されようとしている、という事実についてだ。

 殺されると分かっていても、月夜には大して恐怖心はなかった。それは、たぶん、すぐ目の前に差し迫った事態ではないからだ。もし、今目の前に拳銃を握った人物がいて、自分の額に銃口を向けているのであれば、抵抗の一つもしようという気になるだろうが、現実ではそうではない。いつか、しかし、比較的近い未来に、そうした危機が訪れる、と知らされているだけで、そういう意味では、それは人間に与えられた死という名の一般的な運命と大した差は見られない。

 そしてまた、自分は死んでも良いのではないか、という疑念が予てから存在することも、月夜は関係しているだろうと考えていた。自分という個体がポテンシャルを保てなくなっても、それで生態系に多大な影響を及ぼすことはないのではないか、と考えている。この場合の生態系というのは、世間一般で用いられている意味のそれではない。もっと中立的な立場における、サイクルを伴ったシステムのことだ。

 自分が死んだところで、生態系にどれほどのダメージを与えるというのだろう?

 学校でも、自分を認識している者はいない。

 知り合いもフィルと小夜と……、それから、真昼くらいのものだ。

 せいぜい、その程度の個体に悲しいという心的状態を及ぼすだけではないか?

 自分の死について考えを巡らせることは、ナンセンスだが、しかし一度深く執り行うべきプロセスでもあると、月夜は考えていた。けれど、彼女はその過程をすでに一度経ている。結論としては、やはりよく分からない、一度死んでみないことには何もいえない、ということが分かっただけだった。死んだらどうなるのか分からないのだから、もしかしたら、死後の世界なるものが存在するのかもしれないし、だから、今すぐに死んでも良いではないか、というように論を運ぶこともできなくはない。そして、実際にその論は間違いではない。けれど、どうなるのか分からないということは、その決断を今すべき必然性がない、ということをも意味する。もしその観点を無視して死ぬような人間がいれば、それは、死を絶対的な正義として見るという誤りを犯しているとしか考えられない。

 死か……。

 そういえば、フィルは一度死んでいるのではなかったか?
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