41 / 255
第5章
第41話 向理解並行アプローチ
しおりを挟む
小夜が話したことを、フィルはあまり知らなかったらしい。彼の口から出た言葉なので、信用できるかどうかいまいちなところだが、少なくとも、小夜ほど詳細には知らないと彼は話した。何となく異変は感じていたらしい。だから月夜をここへ呼び出し、小夜と接触させたようだ。
小夜の方から月夜にアクセスすることもできないわけではない。ただ、彼女は、本当にその必要がなければ、自分以外の者に積極的に接触することはない。
どうやら、月夜は近々自分の身に迫る物の怪と、対峙しなくてはならないみたいだった。対峙するというのはどういうことだろうと思って、小夜に尋ねてみたが、彼女は特に何も教えてくれなかった。ただ、まずは話してみてはどうか、とのことらしい。自分のことを殺しに来た存在と、対話を試みろということだ。馬鹿げているように聞こえるが、如何なる争いも、対話による相互理解の可能性がある以上、まずはそれを試さないわけにはいかない。
「物の怪は、最終的にどうなるの?」
月夜は気になっていたことを尋ねた。端的に言えば、自分が殺されるのではなく、自分が相手を殺す、もしくはそれに近しい状態にした場合、その物の怪はどうなるのかという質問だ。殺すのだから、どうなるのかというのは矛盾しているかもしれないが、相手は生き物ではないわけだから、そうした問い方もありだろうと月夜は思った。
「どうもなりません」月夜の質問に対し、小夜は簡単に答えた。「消えていなくなります」
「物の怪は、どこから来るの?」
「どこからでも来ます。どこでもその可能性を秘めています」
「どこでも、が示す範囲は?」
「世界か、あるいは……、空間ということになるでしょうか」
「彼らは、どうして来るの?」
「自分たちの障害になるものを排除するためです」
「今回だと、私が障害になるから?」
「ええ、そうです」
「どうして?」
「理由は私には分かりません」
小夜の言っていることを、月夜はあまり理解できなかった。原因は単純で、そこに登場する言葉が、曖昧かつ不安定なものだからだ。つまり、もともと意味の広い言葉が、さらに広い条件のもとに使われている。だから論理的に理解しようとしても上手くできない。
しかし、一方で、別の観点から捉えれば、それなりに理解できるような気もした。ありきたりな表現だが、前者が思考だとすれば、後者は感覚と言えないこともないだろう。
小夜が言っていることを、月夜は感覚的には理解していた。
小夜の方から月夜にアクセスすることもできないわけではない。ただ、彼女は、本当にその必要がなければ、自分以外の者に積極的に接触することはない。
どうやら、月夜は近々自分の身に迫る物の怪と、対峙しなくてはならないみたいだった。対峙するというのはどういうことだろうと思って、小夜に尋ねてみたが、彼女は特に何も教えてくれなかった。ただ、まずは話してみてはどうか、とのことらしい。自分のことを殺しに来た存在と、対話を試みろということだ。馬鹿げているように聞こえるが、如何なる争いも、対話による相互理解の可能性がある以上、まずはそれを試さないわけにはいかない。
「物の怪は、最終的にどうなるの?」
月夜は気になっていたことを尋ねた。端的に言えば、自分が殺されるのではなく、自分が相手を殺す、もしくはそれに近しい状態にした場合、その物の怪はどうなるのかという質問だ。殺すのだから、どうなるのかというのは矛盾しているかもしれないが、相手は生き物ではないわけだから、そうした問い方もありだろうと月夜は思った。
「どうもなりません」月夜の質問に対し、小夜は簡単に答えた。「消えていなくなります」
「物の怪は、どこから来るの?」
「どこからでも来ます。どこでもその可能性を秘めています」
「どこでも、が示す範囲は?」
「世界か、あるいは……、空間ということになるでしょうか」
「彼らは、どうして来るの?」
「自分たちの障害になるものを排除するためです」
「今回だと、私が障害になるから?」
「ええ、そうです」
「どうして?」
「理由は私には分かりません」
小夜の言っていることを、月夜はあまり理解できなかった。原因は単純で、そこに登場する言葉が、曖昧かつ不安定なものだからだ。つまり、もともと意味の広い言葉が、さらに広い条件のもとに使われている。だから論理的に理解しようとしても上手くできない。
しかし、一方で、別の観点から捉えれば、それなりに理解できるような気もした。ありきたりな表現だが、前者が思考だとすれば、後者は感覚と言えないこともないだろう。
小夜が言っていることを、月夜は感覚的には理解していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる