舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第5章

第41話 向理解並行アプローチ

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 小夜が話したことを、フィルはあまり知らなかったらしい。彼の口から出た言葉なので、信用できるかどうかいまいちなところだが、少なくとも、小夜ほど詳細には知らないと彼は話した。何となく異変は感じていたらしい。だから月夜をここへ呼び出し、小夜と接触させたようだ。

 小夜の方から月夜にアクセスすることもできないわけではない。ただ、彼女は、本当にその必要がなければ、自分以外の者に積極的に接触することはない。

 どうやら、月夜は近々自分の身に迫る物の怪と、対峙しなくてはならないみたいだった。対峙するというのはどういうことだろうと思って、小夜に尋ねてみたが、彼女は特に何も教えてくれなかった。ただ、まずは話してみてはどうか、とのことらしい。自分のことを殺しに来た存在と、対話を試みろということだ。馬鹿げているように聞こえるが、如何なる争いも、対話による相互理解の可能性がある以上、まずはそれを試さないわけにはいかない。

「物の怪は、最終的にどうなるの?」

 月夜は気になっていたことを尋ねた。端的に言えば、自分が殺されるのではなく、自分が相手を殺す、もしくはそれに近しい状態にした場合、その物の怪はどうなるのかという質問だ。殺すのだから、どうなるのかというのは矛盾しているかもしれないが、相手は生き物ではないわけだから、そうした問い方もありだろうと月夜は思った。

「どうもなりません」月夜の質問に対し、小夜は簡単に答えた。「消えていなくなります」

「物の怪は、どこから来るの?」

「どこからでも来ます。どこでもその可能性を秘めています」

「どこでも、が示す範囲は?」

「世界か、あるいは……、空間ということになるでしょうか」

「彼らは、どうして来るの?」

「自分たちの障害になるものを排除するためです」

「今回だと、私が障害になるから?」

「ええ、そうです」

「どうして?」

「理由は私には分かりません」

 小夜の言っていることを、月夜はあまり理解できなかった。原因は単純で、そこに登場する言葉が、曖昧かつ不安定なものだからだ。つまり、もともと意味の広い言葉が、さらに広い条件のもとに使われている。だから論理的に理解しようとしても上手くできない。

 しかし、一方で、別の観点から捉えれば、それなりに理解できるような気もした。ありきたりな表現だが、前者が思考だとすれば、後者は感覚と言えないこともないだろう。

 小夜が言っていることを、月夜は感覚的には理解していた。
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