舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第4章

第33話 若干unusual

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 月夜の休日はいたって簡単だ。起きて、勉強して、あとの時間は大抵読書をしている。それ以外にはほとんど何もしない。読書も、それが何かのためになる、と思ってやっているわけではない。極端に言えば自己満足にすぎない。社会のためになるわけでも、自分の将来のためになるわけでもないが、とりあえず、読もうと思った本を読む。これほど贅沢なことはないのではないかというのが、月夜の今のところの認識だった。

「うん、そうだね。いいね、そういうの」

 そんなことを話して聞かせると、真昼も共感してくれたみたいだった。けれど、月夜としては、共感されるのはもちろん嬉しいが、できるなら別の意見を聞きたい、とも思っていた。他者が存在する、所謂意味というものは、そういうところに表れるのではないかという気がするのだ。何の根拠もないただの発想だったが、そちらの方に答えがあるように、少なくとも彼女には思えた。

 ソファの上で、隣に真昼が座っている。少し前と同じ格好だ。互いにそのポーズに飽きることはない。真昼は何をするわけでもなく、月夜の隣でじっとしている。いや、ふらふらしているといった方が正しいか。身体は常に色々な方向に揺れているし、何も掴んでいないのに、指は計算機を叩くみたいに複雑に蠢いている。

 一人で綾取りでもするかと思ったが、真昼はそれをしなかった。彼にとって、綾取りは他者に見せるためのものであり、他者と一緒にやるものなのかもしれない。ときどき、コーヒーを飲むという行為についても、そういう属性を適用している者がいる。「一緒に食べよう」というフレーズも度々耳にするが、身体構造がリンクしているわけではない以上、一方が食べたものが、他方の腹の中に入ることはない。つまり、この発言は「二人で同じ行為をしよう」と言っているという解釈になる。

 一緒に同じ行動をするのは、人間に備わった特質なのか、それとも、もっと幅広く、生物一般に備わった性質なのか、どちらだろうか。そもそも、人間をとりたてて扱いたがるのは、当然人間だけでしかない。そうすると後者だと考えるのが妥当だろうか。

「本を読みながら、色々と別のことも考えて、月夜もそれなりに忙しいね」

 隣から真昼の声が聞こえて、月夜はそちらを見る。

「うん」

 簡潔に答えて、彼女はそれから少し笑ってみた。
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