舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第3章

第23話 読み読み

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 真昼は特に何かをしにここに来たわけではないらしい。強いて言えば、月夜に会いに来たということになる。月夜から真昼に会いに行くことはない。彼がどこにいるのか、彼女は知らない。

 自分の部屋から本を持ってきて、月夜はリビングで読書を再開した。真昼は何もしないでソファに座っている。目の前に何かがあるわけでもないから、鑑賞の類をしているわけではない。

 リビングと、ダイビングは、なんとなく似ているな、と想像。

 本を読みながら、別のことを考えている自分を、認識。

 可笑しくて、月夜は少し笑ってしまった。

「何が可笑しいの?」

 隣に座る真昼が声をかけてきた。彼は覗き込むようにして月夜の顔を見る。

「言葉って、面白いな、と思って」月夜は素直に答えた。

「可笑しいと、面白いは、似ている、みたいな感じ?」

「そう」

 月夜は本を読み続ける。真昼は座ったまま、自分の指を使って遊び始めた。本を読んでいるのに、彼が遊び始めたことが月夜には分かった。

 読むという行為は、どこから、どこまでを指して、そう呼ぶのだろう。と、こんなふうに、読むという行為をしながら、そんなことを考えているのだから、殊更不思議だと月夜は思った。文字を認識するだけでは、それは読むとはいえない。文字を認識したら、今度はその意味を理解しなくてはならない。コピー機みたいに、文字をインクの羅列としてスキャンするだけではない。スキャンしたら、それを絵に変換しなくてはならない。さらに言えば、そうしてできた絵を、今度は壁の適切な位置に飾らなくてはならない。そうしないと、これまで読んできた部分と、これから読む部分との摺り合わせができないからだ。

「人の思考を読む、という使い方もするなあ」

 突然、真昼が声を出した。月夜は読んでいた本から顔を上げて、隣を見る。

「私の考えていることが、分かるの?」

 月夜が尋ねると、真昼は少し肩を竦めた。

「きっと、目だけで読んでいるんじゃないんだろうね。じゃあ、目と頭かというと、そういうわけでもなくてさ。たぶん、ほかにも色々な部分が関わっているんだよ。本当は、部分に分けるようなこともする必要がなくて、全体として、もう、そういう形で成り立っているんだ」

「でも、私たちは、部分に分けないと、理解できないよ」

「そうだ」真昼は頷いた。「文字を、作ってしまったからさ」
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