舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
上 下
6 / 255
第1章

第6話 Only One

しおりを挟む
 前日まで続いた生活関連のガイダンスに続いて、各授業でも、またそれぞれのガイダンスが行われた。高校では教科ごとに教員が違うから、異なる毛色の話が聞けるという点で、授業もそれなりに面白かった。

 昼食の時間になったが、月夜は何も食べるつもりはなかった。お腹は空かない。周囲ではちらほらと小規模なグループが形成されて、少人数で集まりながら皆ご飯を食べている。なんとなくそこにいるのが違うような気がして、立ち上がって図書室にでも行こうと思ったが、そんな彼女の前に女子生徒が一人やって来て、声をかけてきた。

「貴女も、一緒に食べない?」

 月夜が顔を上げると、女子生徒は後ろを指差しながら話していた。どうやら先にグループを作っていて、一人でいる月夜に声をかけてきたらしい。

「食べない」月夜は素直に答える。

 彼女のダイレクトな発言を聞いて、女子生徒は若干戸惑ったようだったが、すぐにもとの表情に戻って、再度月夜に言葉をかけた。

「貴女、名前は?」

「暗闇月夜」

「そっか……。……えっと、うん、じゃあ、また機会があったら、一緒に食べようね。あ、今度、お話もしよう」

「うん、機会があったら」

 月夜の返答を聞くと、女子生徒は足早に去っていった。

 彼女の後ろ姿を眺めながら、たぶん、もう自分に声をかけてくることはないだろう、と月夜は予想する。今までの経験に基づいて判断しただけで、論理的な根拠があるわけではなかったが、こうした社会的な場では、理屈よりも経験がものをいうことが多いように思えた。

 図書室は同じ一階にあって、だから階段の上り下りをせずに向かうことができた。入り口でスリッパに履き替え、金属で縁取られた軽いドアを開けて、室内に入る。左手に司書が座るカウンターがあって、彼女が小さく挨拶をしてくれた。正面にはテーブル席が向こうまで広がり、右手には個人で勉強するためのブースが並べられている。中心に寄ったそれらのスペースを囲むような形で、壁際に本棚が並んでいた。

 どこに何があるか分からなかったから、月夜はとりあえず室内を歩き回ることにした。本に囲まれているのは、良い気分ではある。少なくとも、人に囲まれているよりは良い。そんな比較が何の意味を成すのか分からなかったが、思いついた自分が面白いと彼女は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。 おいしいご飯がたくさん出てきます。 いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。 助けられたり、恋をしたり。 愛とやさしさののあふれるお話です。 なろうにも投降中

テス

萩原繁殖
ライト文芸
僕は初めから虚構していた。どんなときも、どんな場所でも。数えきれないフィクションを生み出し、そこに僕の現身をつくった。僕はそこで歩けるし、何かを為すことができる。僕は潜水していく中で、どんどん小さくなっていく酸素の中にいろんな光景を見る。人々の行動、知らない趣、木星の記憶。僕に向かって星々が集約すればいいと思った。僕は恒に光っていたかった。

セリフ&声劇台本

まぐろ首領
ライト文芸
自作のセリフ、声劇台本を集めました。 LIVE配信の際や、ボイス投稿の際にお使い下さい。 また、投稿する際に使われる方は、詳細などに 【台本(セリフ):詩乃冬姫】と記入していただけると嬉しいです。 よろしくお願いします。 また、コメントに一言下されば喜びます。 随時更新していきます。 リクエスト、改善してほしいことなどありましたらコメントよろしくお願いします。 また、コメントは返信できない場合がございますのでご了承ください。

【完結】マーガレット・アン・バルクレーの涙

高城蓉理
ライト文芸
~僕が好きになった彼女は次元を超えた天才だった~ ●下呂温泉街に住む普通の高校生【荒巻恒星】は、若干16歳で英国の大学を卒業し医師免許を保有する同い年の天才少女【御坂麻愛】と期限限定で一緒に暮らすことになる。 麻愛の出生の秘密、近親恋愛、未成年者と大人の禁断の恋など、複雑な事情に巻き込まれながら、恒星自身も自分のあり方や進路、次元が違うステージに生きる麻愛への恋心に悩むことになる。 愛の形の在り方を模索する高校生の青春ラブロマンスです。 ●姉妹作→ニュートンの忘れ物 ●illustration いーりす様

(続)人斬り少女は逃がさない

tukumo
ライト文芸
短編小説 人斬り少女は逃がさない なんとも中途半端で続きを書きたくなったので数話連続小説として帰ってきた あ、作者の気まぐれで投稿頻度は早かったり遅かったりするのはご愛嬌ということで良ければ緩利と読んでみて下さいまし~by tukumo

正義のヒーローはおじさん~イケてるおじさん三人とアンドロイド二体が事件に挑む!?~

桜 こころ
ライト文芸
輪島隆は55歳のしがないおじさん、探偵事務所を営んでいる。 久しぶりに開かれる同窓会に足を運んだことが、彼の運命を変えることになる。 同窓会で再会した二人のおじさん。 一人は研究大好き、見た目も心も可愛いおちゃめな天才おじさん! もう一人は謎の多い、凄技を持つ根暗イケメンおじさん? なぜか三人で探偵の仕事をすることに……。 三人はある日、野良猫を捕獲した。 その首輪に宝石がついていたことから大事件へと発展していく。 おじさん三人とアンドロイド二体も加わり、探偵の仕事ははちゃめちゃ、どんちゃん騒ぎ!?

逆さまの迷宮

福子
現代文学
白い世界で気がついた『ボク』。途中で出会った仲間とともに、象徴(シンボル)の謎を解きながら、不可思議な世界から脱出する。 世界とは何か、生きるとは何か、人生とは何か、自分とは何かを追求する、哲学ファンタジー。

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

処理中です...