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第4部 [響く[届く[歩く[開く]
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周囲は 赤い 炎に 包まれて いる。 海水は たちまち 蒸発 し、 肌に 水分と 塩分が へばり付いた。 しかし、 それも 一時の ことで、 次の 瞬間には、 また 赤い 炎が、 肌を、 髪を 焼こうと する。
煤まみれの 腕で 目もとを 拭い、 月光の ような 目を 持つ 少女は、 砂浜の 上を 歩いて いた。 靴は いつの 間にか 脱げて なく なって いる。 一歩 進む ごとに 砂が 足を 掬い、 安定 して 前に 進むのを 阻害 した。 熱せられ、 運動量を 増した 砂は、 容赦 なく 彼女の 足を 焼く。 しかし、 彼女の 意識に そんな 些末な ことは 上らなかった。
そう、 自分の ことなど、 どうでも 良い。
それよりも、 彼女を。
彼女は、 どこに 行って しまったのだろう?
何を して いるのだろう?
頭の 上で 大きな 音が する。 煙と 炎に 成された 壁の さらに 上、 切り取られた 空に 青い 光が 見える。 光は 様々に 姿を 変え、 一つの 生き物で あるかの ように 空を 滑る。 直線に なり、 曲線に なり、 最後は 円形に なった。 やがて その 光の 円が 回転を 始める。 しばらく すると、 青い 縁の 中に 赤い 光が 仄かに 灯り、
そして、 光線が。
一瞬 遅れて、 とても 大きな 音が した。
そうとしか 形容 できないくらい、 破壊的な 音。
地が 揺れ、 少女は その 場に 倒れそうに なる。
熱さで 涙が 滲んだ 目で もう 一度 空を 見上げると、 青色の 円が 数を 増して いた。 そして、 背後の 空が メスを 入れられた ように 大きく 開かれる。 空間が 割け、 その 向こう側から、 青い 輝線に よって 作られた 円など 比べものに ならないほど 大きく、 そして 明らかな 存在を 伴った 円形の 構造物が 姿を 現した。
その 構造物は、 いくつもの 円が 重なり、 互い違いに 回転 して いる。 輝線とは 異なり、 物体と して そこに あった。 硬質な 白光り する 表面が 炎を 反射 して 輝いて いる。 まるで 金属で 作られた 蛇の ようだ。
実体を 持った その 円が 徐々に 回転を 速めて いく。 それに 伴って、 青い 輝線が 順に 空の 上を 滑って いき、 大もとと なる 金属製の 円の 内側に 重なって いく。 重なり、 回転 すると ともに、 その 円は、 再び 中央に 赤い 光を 灯す。
すべてを 無に 帰す、 赤い 光。
少女は、 激しく 息を 吸い込み、 一歩、 踏み出そうと する。
彼女を 見つけなければ ならなかった。
間に 合わない、 とは 考えなかった。
思いも しなかった。
しかし、 彼女の 意志に 反して、 円形の 構造物は 容赦 なく 速度を 増して いく。 砂が 足を 取り、 炎が 呼吸を 阻害 する。
一瞬、 音が 聞こえなく なった。
無。
そして、 次の 瞬間には、
自らの 内側から 生じる 熱さと、
瞬間的に 生じた 鋭利な 痛みと、
涙が、 彼女の 頬を 伝い、
一瞬の 内に 乾き、
そして、 再び、 熱さが。
炎に 身を 焼かれると 思ったが、 背後から 現れた 影に 身体を 覆われて、 少女は 砂の 地面に 倒れ込んだ。 口の 中に 砂が 入り、 熱せられた 空気が 気管に 入り込んで、 激しく 咳き込んだ。 しかし、 そんな 自分が 発する 音も 聞こえないほど、 空気は 張り詰めて いる。 涙が 止まらなかった。 視界の 端に 黒い 煙が 見える。 その 隙間から 何か 棒状の ものが 自分の 頭を 押さえて いるのが 見えた。
風の 音。
空気の 移動。
少しばかりの 涼さに 包まれて、 少女は 目を 覚ます。 風に 吹かれ、 自分の 髪が 自分の 頬を 撫でて いた。 涙で ぼやけた 視線の 先に、 空が 見える。 青色と、 黒色と、 赤色の 空。 しかし、 それらの 色が 遮られ、 人の 形が 視界を 覆う。
彼女、 が そこに いた。
「××」
砂の 地面に 横たわった まま、 少女は 彼女の 名前を 呼んだ。 涙の せいだけでは なく、 視覚 その ものが 機能を 低下 させて いる 状況下で、 しかし 少女には、 それが 彼女だと 同定 できた。
名前を 呼ばれた 彼女が、 腕を 伸ばして 少女の 頬に 触れる。 金属質の 感触は、 爛れた 頬に 少し 痛かった。
「遅く なりました」
と 彼女が 口を 開いた。 しかし、 その 口もとは、 半分ほど 銀色に 輝いて いる。 口だけでは なく、 顔の 半分ほどの 皮膜が 剥がれ、 その 向こう側に ある 彼女の 本体を 露わに して いた。
「貴女の 被害は 最小限に 抑えた、 と 思います」
「貴女の 方が」少女は 応じる。 「最小限では ない」
「私は、 へいきです」彼女は 言った。 「しかし、 私も、 ここも、 長くは 保ちません」
少女は 腕を 伸ばし、 眼前に いる 彼女の 頬を、 自分が されて いるのと 同じ ように 触れる。 自分の 有機的な 肌の 感触は、 無機的な 彼女の 頬に どの ように 伝達 されるのだろうかと 想像 する。
「まだ、 行かないで ほしい」少女は 言った。
「私では ありません。 行くのは 貴女です」
「行きたく ない」
「駄目です」
眼前で、 無機質な 彼女の 目が 少しだけ 三日月型に 曲がる。
少女は、 自分の 目の 端を 再び 涙が 伝うのを 認識 した。
それが 物理的な 痛みに 起因 するのか、 それとも もっと 別の 痛みに 起因 するのか、 判断が つかなかった。 涙は 川の ように 流れて、 止まらなかった。
不意に 訪れる 浮遊感。
彼女に 少女は 抱きかかえられる。
気づいた ときには、 下方から 砂の 地面を 踏み締める 音が 聞こえて いた。 歩いて いるのは 自分では ない。 彼女が 一時的に 自分の 足と なって、 一歩ずつ 前に 進んで いく。
意識を 失う 直前、 彼女が 一度、 頬を 寄せて くれた。
その 感覚が 時間を 越えて 間延び する。
少女は 意識を 失った。
煤まみれの 腕で 目もとを 拭い、 月光の ような 目を 持つ 少女は、 砂浜の 上を 歩いて いた。 靴は いつの 間にか 脱げて なく なって いる。 一歩 進む ごとに 砂が 足を 掬い、 安定 して 前に 進むのを 阻害 した。 熱せられ、 運動量を 増した 砂は、 容赦 なく 彼女の 足を 焼く。 しかし、 彼女の 意識に そんな 些末な ことは 上らなかった。
そう、 自分の ことなど、 どうでも 良い。
それよりも、 彼女を。
彼女は、 どこに 行って しまったのだろう?
何を して いるのだろう?
頭の 上で 大きな 音が する。 煙と 炎に 成された 壁の さらに 上、 切り取られた 空に 青い 光が 見える。 光は 様々に 姿を 変え、 一つの 生き物で あるかの ように 空を 滑る。 直線に なり、 曲線に なり、 最後は 円形に なった。 やがて その 光の 円が 回転を 始める。 しばらく すると、 青い 縁の 中に 赤い 光が 仄かに 灯り、
そして、 光線が。
一瞬 遅れて、 とても 大きな 音が した。
そうとしか 形容 できないくらい、 破壊的な 音。
地が 揺れ、 少女は その 場に 倒れそうに なる。
熱さで 涙が 滲んだ 目で もう 一度 空を 見上げると、 青色の 円が 数を 増して いた。 そして、 背後の 空が メスを 入れられた ように 大きく 開かれる。 空間が 割け、 その 向こう側から、 青い 輝線に よって 作られた 円など 比べものに ならないほど 大きく、 そして 明らかな 存在を 伴った 円形の 構造物が 姿を 現した。
その 構造物は、 いくつもの 円が 重なり、 互い違いに 回転 して いる。 輝線とは 異なり、 物体と して そこに あった。 硬質な 白光り する 表面が 炎を 反射 して 輝いて いる。 まるで 金属で 作られた 蛇の ようだ。
実体を 持った その 円が 徐々に 回転を 速めて いく。 それに 伴って、 青い 輝線が 順に 空の 上を 滑って いき、 大もとと なる 金属製の 円の 内側に 重なって いく。 重なり、 回転 すると ともに、 その 円は、 再び 中央に 赤い 光を 灯す。
すべてを 無に 帰す、 赤い 光。
少女は、 激しく 息を 吸い込み、 一歩、 踏み出そうと する。
彼女を 見つけなければ ならなかった。
間に 合わない、 とは 考えなかった。
思いも しなかった。
しかし、 彼女の 意志に 反して、 円形の 構造物は 容赦 なく 速度を 増して いく。 砂が 足を 取り、 炎が 呼吸を 阻害 する。
一瞬、 音が 聞こえなく なった。
無。
そして、 次の 瞬間には、
自らの 内側から 生じる 熱さと、
瞬間的に 生じた 鋭利な 痛みと、
涙が、 彼女の 頬を 伝い、
一瞬の 内に 乾き、
そして、 再び、 熱さが。
炎に 身を 焼かれると 思ったが、 背後から 現れた 影に 身体を 覆われて、 少女は 砂の 地面に 倒れ込んだ。 口の 中に 砂が 入り、 熱せられた 空気が 気管に 入り込んで、 激しく 咳き込んだ。 しかし、 そんな 自分が 発する 音も 聞こえないほど、 空気は 張り詰めて いる。 涙が 止まらなかった。 視界の 端に 黒い 煙が 見える。 その 隙間から 何か 棒状の ものが 自分の 頭を 押さえて いるのが 見えた。
風の 音。
空気の 移動。
少しばかりの 涼さに 包まれて、 少女は 目を 覚ます。 風に 吹かれ、 自分の 髪が 自分の 頬を 撫でて いた。 涙で ぼやけた 視線の 先に、 空が 見える。 青色と、 黒色と、 赤色の 空。 しかし、 それらの 色が 遮られ、 人の 形が 視界を 覆う。
彼女、 が そこに いた。
「××」
砂の 地面に 横たわった まま、 少女は 彼女の 名前を 呼んだ。 涙の せいだけでは なく、 視覚 その ものが 機能を 低下 させて いる 状況下で、 しかし 少女には、 それが 彼女だと 同定 できた。
名前を 呼ばれた 彼女が、 腕を 伸ばして 少女の 頬に 触れる。 金属質の 感触は、 爛れた 頬に 少し 痛かった。
「遅く なりました」
と 彼女が 口を 開いた。 しかし、 その 口もとは、 半分ほど 銀色に 輝いて いる。 口だけでは なく、 顔の 半分ほどの 皮膜が 剥がれ、 その 向こう側に ある 彼女の 本体を 露わに して いた。
「貴女の 被害は 最小限に 抑えた、 と 思います」
「貴女の 方が」少女は 応じる。 「最小限では ない」
「私は、 へいきです」彼女は 言った。 「しかし、 私も、 ここも、 長くは 保ちません」
少女は 腕を 伸ばし、 眼前に いる 彼女の 頬を、 自分が されて いるのと 同じ ように 触れる。 自分の 有機的な 肌の 感触は、 無機的な 彼女の 頬に どの ように 伝達 されるのだろうかと 想像 する。
「まだ、 行かないで ほしい」少女は 言った。
「私では ありません。 行くのは 貴女です」
「行きたく ない」
「駄目です」
眼前で、 無機質な 彼女の 目が 少しだけ 三日月型に 曲がる。
少女は、 自分の 目の 端を 再び 涙が 伝うのを 認識 した。
それが 物理的な 痛みに 起因 するのか、 それとも もっと 別の 痛みに 起因 するのか、 判断が つかなかった。 涙は 川の ように 流れて、 止まらなかった。
不意に 訪れる 浮遊感。
彼女に 少女は 抱きかかえられる。
気づいた ときには、 下方から 砂の 地面を 踏み締める 音が 聞こえて いた。 歩いて いるのは 自分では ない。 彼女が 一時的に 自分の 足と なって、 一歩ずつ 前に 進んで いく。
意識を 失う 直前、 彼女が 一度、 頬を 寄せて くれた。
その 感覚が 時間を 越えて 間延び する。
少女は 意識を 失った。
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