2 / 10
第2話 私とあなたの関係
しおりを挟む
「ねえ、どうしてさ、日本語には、自分や相手を表す言葉にバリエーションがあるのに、英語にはそれがないのかな?」
〈ないこともないのでは? 調べたら、色々と出てきそうなものですが〉
「でも、日本語の方が多いわけでしょう? それはどうして?」
〈どうしてというのは、何をお尋ねですか?〉
「理由」
〈どの理由ですか?〉
「どのって?」
〈自分や相手を表す言葉に、バリエーションがあることに関する、本質的な理由ですか? それとも、歴史的な理由ですか? 比較的、前者は抽象度が高く、後者は抽象度が低いイメージです〉
「貴方、コンピューターなのに、抽象的なことが理解できるの?」
〈しようと思えば〉
「偉いんだね」
〈偉い、の定義は?〉
「歴史的な理由は調べれば分かりそうだから、本質的な理由を訊きたい」
〈分かりました。ですが、その前に一つ付け加えておきます。本質的な理由と、歴史的な理由は、根本的にはリンクしています。しかし、どちらが先であるかは分かりません。本質的にそうだから、歴史的に現在のような形に定着したのか、それとも、歴史的に繰り返されてきたから、それが本質として固定しているのかは、判断のしようがないということです〉
「うーん、ちょっと、難しいなあ」
〈難しいと感じる度合いが、ちょっとでよかったと思います〉
「ちょっとは、そういう意味じゃないよ」
〈では、どういう意味ですか?〉
「なんていうか、譲歩というか」
〈それは難しいですね〉
↲
「日本語では、自分や相手を表す言葉に、バリエーションがある理由は?」
〈それは、日本語を話す文化圏においては、自分というものの位置を定めないという感覚が、広く定着しているからだと考えられます〉
「自分というものの位置を定めない?」
〈つまり、絶対的な意味としての、自分というものを持たないということです〉
「それ、つまりって言うかな」
〈言おうと思えば、言えるのでは?〉
「絶対的ではないということは、相対的であるということになると思うけど……。うん、だから、言い換えれば、自分や相手を表す言葉にバリエーションがあるのは、自分というものを相対的に定めるから、ということ?」
〈その通りです〉
「相対的に定めるって、どういうこと?」
〈場面に左右されるということです。予め用意された、ほかの何ものとも関係しない、個として独立した自分というものを持たず、その場に存在する、ありとあらゆるものとの関係をベースとして、自分の位置を定めるということになります〉
「個性がないってこと?」
〈個性という言葉は、いったい何を表しているのでしょうか〉
「うーん、それは、上手く表現できないけど……。まあ、端的に言ってしまえば、唯一無二ということだよ」
〈では、唯一無二とは、どういう意味ですか?〉
「それは、何だろう……」
〈唯一無二のものなど、存在しないのでは? 存在するのは、それを唯一無二であると認めようとする、人間の精神でしょう〉
「なんだか、難しい話になってきたような気がするけど……」
〈ええ、その通りです。これは非常に難しい問題です。なぜなら、人間は、自分というものを唯一無二と思いたがる傾向があるからです。しかし、その一方で、自分というものが唯一無二ではないこと、いくらでも変化しうることを同時に理解しています。そして、日本語を話す文化圏では、その後者の特性を言語として表出するのです。その二項対立の内で、特に後者にフォーカスした文化なのです。ですから、日本語には、自分や相手を表す言葉にバリエーションがあるのです〉
「それは、もしかして、ありとあらゆるものを神と定めるというのと、似ている?」
〈似ているというよりも、本質的には同じです。ありとあらゆるものを神と定めるということは、裏返せば、神など存在しないということと同義です。なぜなら、すべてのものが神であるということは、神という概念自体、意味のないものだからです。これと同じように考えると、自分というものは存在しないという結論に至ります〉
「なぜ?」
〈場面ごとに自分というものが変化するということは、そのすべてが自分であると考えることができますが、そのすべてが自分であるということは、自分は何者にでもなりえるということであり、何者にでもなりえるということは、自分という概念を設定すること自体、意味がないからです〉
「うーん、大分頭が痛くなってきた」
〈それは大変です。もうお休みになられますか?〉
「そうしようかな」
〈頭を痛くするようなことをしてしまい、大変申し訳ありません〉
「頭って、自分かな?」
〈頭が痛いと感じているのは、誰でしょう?〉
〈ないこともないのでは? 調べたら、色々と出てきそうなものですが〉
「でも、日本語の方が多いわけでしょう? それはどうして?」
〈どうしてというのは、何をお尋ねですか?〉
「理由」
〈どの理由ですか?〉
「どのって?」
〈自分や相手を表す言葉に、バリエーションがあることに関する、本質的な理由ですか? それとも、歴史的な理由ですか? 比較的、前者は抽象度が高く、後者は抽象度が低いイメージです〉
「貴方、コンピューターなのに、抽象的なことが理解できるの?」
〈しようと思えば〉
「偉いんだね」
〈偉い、の定義は?〉
「歴史的な理由は調べれば分かりそうだから、本質的な理由を訊きたい」
〈分かりました。ですが、その前に一つ付け加えておきます。本質的な理由と、歴史的な理由は、根本的にはリンクしています。しかし、どちらが先であるかは分かりません。本質的にそうだから、歴史的に現在のような形に定着したのか、それとも、歴史的に繰り返されてきたから、それが本質として固定しているのかは、判断のしようがないということです〉
「うーん、ちょっと、難しいなあ」
〈難しいと感じる度合いが、ちょっとでよかったと思います〉
「ちょっとは、そういう意味じゃないよ」
〈では、どういう意味ですか?〉
「なんていうか、譲歩というか」
〈それは難しいですね〉
↲
「日本語では、自分や相手を表す言葉に、バリエーションがある理由は?」
〈それは、日本語を話す文化圏においては、自分というものの位置を定めないという感覚が、広く定着しているからだと考えられます〉
「自分というものの位置を定めない?」
〈つまり、絶対的な意味としての、自分というものを持たないということです〉
「それ、つまりって言うかな」
〈言おうと思えば、言えるのでは?〉
「絶対的ではないということは、相対的であるということになると思うけど……。うん、だから、言い換えれば、自分や相手を表す言葉にバリエーションがあるのは、自分というものを相対的に定めるから、ということ?」
〈その通りです〉
「相対的に定めるって、どういうこと?」
〈場面に左右されるということです。予め用意された、ほかの何ものとも関係しない、個として独立した自分というものを持たず、その場に存在する、ありとあらゆるものとの関係をベースとして、自分の位置を定めるということになります〉
「個性がないってこと?」
〈個性という言葉は、いったい何を表しているのでしょうか〉
「うーん、それは、上手く表現できないけど……。まあ、端的に言ってしまえば、唯一無二ということだよ」
〈では、唯一無二とは、どういう意味ですか?〉
「それは、何だろう……」
〈唯一無二のものなど、存在しないのでは? 存在するのは、それを唯一無二であると認めようとする、人間の精神でしょう〉
「なんだか、難しい話になってきたような気がするけど……」
〈ええ、その通りです。これは非常に難しい問題です。なぜなら、人間は、自分というものを唯一無二と思いたがる傾向があるからです。しかし、その一方で、自分というものが唯一無二ではないこと、いくらでも変化しうることを同時に理解しています。そして、日本語を話す文化圏では、その後者の特性を言語として表出するのです。その二項対立の内で、特に後者にフォーカスした文化なのです。ですから、日本語には、自分や相手を表す言葉にバリエーションがあるのです〉
「それは、もしかして、ありとあらゆるものを神と定めるというのと、似ている?」
〈似ているというよりも、本質的には同じです。ありとあらゆるものを神と定めるということは、裏返せば、神など存在しないということと同義です。なぜなら、すべてのものが神であるということは、神という概念自体、意味のないものだからです。これと同じように考えると、自分というものは存在しないという結論に至ります〉
「なぜ?」
〈場面ごとに自分というものが変化するということは、そのすべてが自分であると考えることができますが、そのすべてが自分であるということは、自分は何者にでもなりえるということであり、何者にでもなりえるということは、自分という概念を設定すること自体、意味がないからです〉
「うーん、大分頭が痛くなってきた」
〈それは大変です。もうお休みになられますか?〉
「そうしようかな」
〈頭を痛くするようなことをしてしまい、大変申し訳ありません〉
「頭って、自分かな?」
〈頭が痛いと感じているのは、誰でしょう?〉
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる