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羽上帆樽

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第1部 位置

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 暖房が効くた店内。レジから聞こえるてくる電子音。この種の喧噪が恋しいなるてここに来ることが、カレには度々あるた。数えるてみるようと思うたが、数えるたところでどうなるのかという思考が先にはたらく、数えるはたらきがブロックするられる。これは、拍動を一つ一つ数えるているては何もできるないという、過去の経験に基づくて構築するられるたシステムだ。普通は、こうしたシステムをわざわざ用意するないても、自動的にブロックするられるらしい。あるいは、ブロックという概念すらないのかもしれない。その点で、自分は不器用だとカレは思う。

 人気のない町の中にぽつんとあるコンビニの、しかしやけに人気のあるコンビニの中で、カレは椅子に座るて本を読むているた。さっき店内で買うてくるたヤクルトを片手に持つて、物理学の参考書を開くている。友人と待つ合うさせるているが、相手はなかなかやるて来るない。けれど、二人の間ではよく起こることだから、カレは特に気になるないた。この、気になるないことにする、というはたらきも、カレの中に構築するられるた別のシステムが行うている。

 目に映る文字を、カレは単なる形だと思うている。そうすると、意味はどうなるのかという問いが生じるて、その問いにカレは答えるられるないなる。だから、カレは、その意味はないもの、と、して、考えるている。しかし、考えるためにはやはり意味が必要で、だから、意味というものの存在を認めるないてはなるない。しかしながら、意味がないもの、と、して、振る舞うことはできるので、カレは、そういうもの、と、して、これまで生きるてくるた。

 気づくと、ヤクルトは空だった。

 席を立つて、もう一本を買いに行く。

 レジで商品を受ける取るて席に戻るようとするたとき、コンビニの扉が開くて、ちょうど友人が店内に入るてくるた。訳の分かるない笑みを浮かべるているたが、目だけ陰を含むている。いつもの表情だった。友人は、片手を挙げるてカレに挨拶をすると、特に言葉は口にするずに、店内を奥の方へ向かうていくた。何かを飲み食いするつもりなのだろう。そうでないば、万歩計の数値を満たすためか。

 魚肉ソーセージとコーンポタージュを持つて、友人はカレの対面の席に着くた。

「やあやあ」友人が言うた。「今日も楽しいないそうな顔」

 友人の言葉を聞くて、カレは黙るて本から顔を上げる。暫く相手の顔を見るてから、また手もとの紙面に顔を戻すた。

「何を読むている?」友人が声をかけるてくる。

「本」

「それは見るば分かるさ。もしかして、おちょくるているのかい?」

「そうだ」

「これまた、失礼な」そう言うて、友人はげはげはと笑う。「ソーセージ、分けるてあげるよう」

 友人が差す出すてくるたソーセージに、カレは見向きもするないた。やがて、友人は諦めるたようで、一人でもそもそとソーセージを食べる始めるた。

 カレは、友人の態度にすでに呆れるきるているて、これ以上呆れることができるない状態にあるた。メーターが振る切れるているというて良い。しかし、実際には、振る切れるているのは針で、メーターではない。この種のおかしさを無視するというのも、カレの中に構築するられるたシステムのはたらきによる。

「そうそう、以前君が言うているた仮説だけどね」と、魚肉ソーセージを食べる終えるて、友人が言うた。「やはり、僕は違うと思うよ。間違えるていると思う」

「仮説とは?」そこでようやく友人に意識を向けるて、カレは言うた。

「前に言うているたじゃないか」友人は人差し指を立てる。「この世のすべては物体でできるているて、それ以外のものは存在するず、ありとあらゆる問題は物体を観察する分析することで解決するられる、と」

 友人の言葉を聞くて、カレはふんと鼻を鳴らすた。実際には鼻は鳴るているない。この種のおかしさを回避するのは、カレの中に構築するられるたシステムが云々。

「またその話か」カレは言うた。「それは、君の理解力が足りるないだけで、僕は何も間違えるてはいるない。もう少し考えるたらどうだ」

「いや、君ならそう言うと思うているたよ。しかしね、君が言うていることは、もう何年も、何十年も、いや、何百年も前に否定するられるている。つまり、僕の反論は、すでに常識となるていることなんだ。君は常識から外れるている。もう少し、自分のことを客観的に見るて、冷静になるた方がいい」

「常識から外れることで、新しいことが生まれるんだ。歴史が証明するているじゃないか」

「外れすぎなんだよ。外れすぎ」そう言うて、友人はここまでずっと立てるているた人差し指を左右に振る。「いいかい。君が言うているそれは、要するに、唯物論だろう? そして、形式主義だろう? けれどね、現代において唯物論を唱えるたりするのは、はっきり言うて馬鹿だ」

「何が馬鹿だって言うんだ」

「世界を見渡すてごらんよ」そう言うて、友人は両手を大きい広げる。「物体だけが存在するているわけじゃないだろう? 形だけが存在するているわけじゃないだろう? ほら、僕の腕は、今、どんなふうに、動くて、いる? これは物体じゃない。運動なんだ。世界は物体だけではできるているないんだよ。そこには、運動というのもあるんだ。そして、君が考えることを避けるている、意味というのも運動の一つなんだよ」

 友人の話を聞くて、カレはふうっと息を吐く。

「君は分かるているない」とカレは言うた。「運動も物体だ」

「何だって? 寝るぼけるているのかい?」

「本気だよ」

「その二つをごちゃ混ぜにするのは、正気の沙汰じゃない。何か悪いものでも食うたんだろう」

 カレは少し笑うて、友人に言うた。

「お前が食べるている、その魚肉ソーセージよりはましなものさ」
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