付く枝と見つ

羽上帆樽

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第5部 ji

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 人生とは、どこに向かうか分からないものだ、とシロップは思う。思ったところでどうにも成らないというのも、また人生の一つの特徴だろう。ところで、人生とは、人の生と書くわけで、つまり、それは一般化されているのだが、一人一人について考える場合、人生というものは適用できるだろうか。

「少なくとも、私のそれは、人生とは呼べそうにないな」

 と、シロップは呟く。

 珍しく、デスクは反応しなかった。

 左右を奇妙な壁に挟まれている。これが月の内部のようだ。こんなふうになっているのだな、と感慨を覚えることもない。はい、そうね、というのがシロップの素直な感想だったが、それは、別に、馬鹿にしているのではない。ただ、了解しただけだ。了解するのは大事なことだと彼女は思う。それをすることで、世界の認識の仕方が幾分変わる。どういうふうに変わるかは、上手く説明できないが……。

「私という一人が、世界という広大なものについて語るなんて、おこがましいと思わない?」

 と、シロップは呟く。

「アナタサマモ、セカイノウチデスカラ」デスクは今度は応答した。「ソレハ、ソウナルベクシテナルヨウナモノデス。ツマリ、アナタサマガカンガエルコトハ、セカイガカンガエルコトノイチブトイウコトデス」

「でも、我思うゆえに我あり、だよ。世界は思うことをするの?」

「セカイニアルアリトアラユルソンザイガオモエバ、ソレハ、セカイガオモウノトオナジコトデス」

「なるほど」

「ホントウニ、ナルホドト、オモッテイマスカ?」

「うーん、まだ咀嚼できていないところもあるけど、分かりやすそうな説明だと思うよ」

「セツメイハ、キライデスカ?」

「そうね……。あまり好きではないかな」

「デハ、ナントイウノガヨイデショウ?」

「解説か、解釈」

 月の内部は、まるで城の回廊のようだった。とは言っても、シロップは回廊というものがどういうものか詳しくは知らない。なんとなく、そういうイメージを抱いただけだ。左右の壁は小さな直方体がいくつも合わさることで構成されている。それら一つ一つが細胞だとすれば、生物の体内のように思えなくもない。生物にも回廊と呼べそうな器官があるだろうか。

 結局のところ、人間が行っている処理の大半は、違う記号で表わされているもの同士を同じ記号で表わすこと、あるいは、反対に、同じ記号で表わされているものをそれぞれ違う記号で表わすことの、どちらかであることが大半だ。

「私と貴方も、結局は、一つだったりしてね」

「ドコマデモオトモイタシマショウ、オジョウサマ」
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