ぐれい、すけいる。

彼方灯火

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第14部 4202年14月14日

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 朝、目が覚めると、彼女が天井に浮いていた。こういう表現では、天井に張り付いているのか、それとも、天井から数センチ離れた場所を遊泳しているのか、定かではない。それなのに、こうした表現が可能であることが、僕には非常に興味深く感じられる。というのは昔の話で、今はあまりそういう細かいことは気にならなかった。いや、気にしたくないのだろうか。

 昨晩、一緒に布団に入ったはずが、寝相が悪すぎて浮かんでしまったのかもしれない。それでかけ布団が剥がされて、寒くて僕の目が覚めたのだろう。かけ布団は、今は彼女が独占している。毛布よりは少し薄めの、けれどそれがあるだけで大分暖かい品物だった。

 硬質な床に素足で立ち、凍えながら僕は窓の傍に寄る。カーテンの端を摘まんで開くと、眼前に海が広がっていた。

 昨日まで、そこは住宅街だったはずだ。僕達の家は、小高い丘の上にあって、その一部が集合住宅のような格好になっている。建っている家はすべて同じというわけではなく、一部異なるデザインのものもあった。だから、ひとかたまりの町のような趣がある。その町が、今は海になっている。

 僕達の家と、眼前に建つ家は高さがほとんど変わらないから、向かいの家の窓が見えた。もう少し下の方まで見える。しかし、一定程度視線を下げると、もうそこには海水が漂っているばかりだった。いや、海水ではないかもしれない。雨のせいでこんなふうになっているのかもしれない。

 天井に浮かんでいる彼女の袖を引っ張って、僕は彼女の身体を下ろそうとする。途中で彼女は呻き声を上げ、じたばたと手足を大きく振りかざしたが、完全に地に下りきると、彼女はゆっくりと目を開けて、こちらを見た。

「ohayou」

 と言って、彼女はこちらに腕を伸ばしてくる。パジャマの素材の匂いと、シャンプーの香りがした。僕も同じシャンプーを使っているはずなのに、自分の匂いというのは分かりにくい。

「外」僕は言った。

「nani ?」彼女は応える。声がくぐもっていて聞き取りにくかった。

「海になっている」

「umi ?」

 僕は彼女の胴体を掴み、軽く持ち上げて彼女を一人で立たせる。僕が窓の方を指さすと、彼女はそちらに歩いていった。

「wa, hontou ni」彼女は言った。「doushite, umi ni natta no ka na」

「君がしたんじゃないの?」

 僕は冗談のつもりだったが、彼女は、やがて、思い出したかのように何度か小刻みに頷くと、窓の方を向いたまま呟いた。

「sou deshita」
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