ぐれい、すけいる。

彼方灯火

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第2部 4202年02月02日

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 彼女と一緒にピクニックに出かけた。ちょうど良い天気だったからだ。晴れているわけでもなく、曇っているわけでもない。かといって、雨が降りそうな気配もない。

 歩いている内に、どこだか分からない丘の上に来ていた。夢の世界だろうか。もしそうだとすれば、彼女と僕とで夢を共有していることになる。なんて素敵なことだろう。丘の頂上にはブランコが二つあって、僕達は並んでそこに座った。

 沈黙。

 風が抜ける音と、金属が擦れる音がする。

 それだけ。

「sore dake ja, tsumaranai deshou ?」ブランコを漕ぎながら、彼女が告げる。

「何か話してほしいことがある?」

「watashitachi tte, dare ?」

「うーん、誰だろう」僕は上を見る。綿菓子みたい、とまではいえないような、しかしある程度密度のある雲が頭の上に浮かんでいた。「実は、まだはっきりとしたイメージはできていない」

「saisho wa, itsumo, sonna kanji ?」

「そうだね。歩きながら分かってくるものだよ、人生って」

 膝の上にあるバスケットを開いて、彼女がサンドウィッチを僕に差し出す。僕はありがたくそれを受け取った。彼女の手作りだ。

 彼女は、いつも黙ったまま料理をする。僕が背後から抱き締めたり、頭を派手に撫でて髪を滅茶苦茶にしたりしても、何とも言わない。それで、料理が完全に終わったあとで、蹴りを入れられるか、拳骨を食らわされる。

「美味しい」サンドウィッチを一口囓って、僕は言った。「春っぽい味」

「masutaado to, kechappu ga, sukoshi koi」

「そう?」

「un」

「ま、そういう日もある」

「kyou wa, kono ato, dou suru no ?」

 彼女の言葉を聞いて、僕は笑った。

「何だか、気が早いみたいだけど」

「sou ka mo shirenai」

「何かしたいことがあるの?」

「betsu ni」

「何がしたい?」

「kimi to, kisu」

 マスタードとケチャップで汚れていた口もとを拭って、僕は彼女にそっと口づけをする。彼女は、目を閉じただけで、うんともすんとも言わなかった。表情も変わらない。けれど、そんな彼女が僕には愛おしく感じられる。

「sekai ga, owatta」

「どういう意味?」

「kisu de, me o tojiru」

「可哀相なお姫様だ」

「de mo, sou iu mono deshou ?」

「何が?」

「jinsei tte」

 彼女の言葉を聞いて、たしかにそのとおりかもしれない、と僕は思った。キスは、おそらく、物語の始まりには相応しくない。それは必ずといって良いほど、物事の終わりを想起させる。ピリオドと同様の機能を担うマークなのだろう。

 それでは、始まりに相応しいマークとは、何か?

 綿菓子みたいな雲が頭の上から消え、太陽が姿を現す。陽光はさほど強くない。

 全体的に過ごしやすい一日だった。
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