4 / 5
第4話 何も意味しない
しおりを挟む
目を開けると何もなくなっていた。何もないのはもとからだから、大して問題ではない。
顔を一回転させることができた。
後ろを向こうとしたら、そうなった。
突如として、目の前に巨大な影が迫り来る。僕は慌ててその場から立ち去ろうとしたが、どういうわけか身体が動かなかった。
巨大な手が伸びてきて、そのまま僕の身体を掴む。
声を出そうとすると、巨大な手に口を塞がれた。
頭を掴まれる。
必死に抵抗しようとするものの、あらゆる力が無為となる。
次の瞬間、僕の頭は地面に向かって落下していった。
地面に接触する一歩手前で上へと引っ張られ、激しく上下に揺さぶられる。
バウンドするかのようだった。
弾む、弾む。
吐きそうになったが、何を吐いたら良いのか分からない。
伸びきった首を上に辿ると、巨大な手が僕の頭を引っ張り上げようとしているのが分かった。手は僕の胴を持ち、それを上へと引き上げることによって、胴と繋がった頭を持ち上げようとしているのだ。
発動する張力。
悲鳴を上げたつもりだったが、まったくもって効果がなかった。
そして、芸が始まる。
まずは自分の頭が胴に激しく打ちつけられるところから始まった。胴が右に左に激しくひっくり返され、そのひっくり返された側に頭をぶつけられる。心地の良い音が鳴り響いた。頭が割れるように痛む。
胴から飛び出した背骨に、頭が突き刺さった。
再び胴から頭が離されると、勢い良く回転運動をさせられた。胴が回ることで頭も一緒に回る。
投げられた胴が巨大な手にキャッチされたが、頭が胴に刺さらず、地面に向かって落下していった。
そこで、僕の頭と胴は完全に分離した。
胴と頭を繋いでいた首が切れたらしく、地面に落下した頭は前方に向かって転がっていく。
空間が切り替わる。
白かった世界が黒に反転する。
僕がけん玉を持つ番になった。
糸を垂らし、なんとなく上に引っ張ってみる。持ち手の部分を横に倒して、大きい方の皿に載せようとしたが失敗した。もう一度糸を垂らして挑戦してみる。
「練習しないと無理だよ」
背後から声が聞こえて、僕は後ろを振り返った。
少女が立っている。
「そう簡単に何でもできるのなら、人間が生きている意味はないね」少女が言った。
「どうして?」
「人生は、トライ・アンド・エラーの連続で成り立っているから」
「君の人生もそうだった?」
「もちろん」
少女が指を弾くと、向こうの方からピアノが駆けてきた。勢いは大してない。少女の前で止まり、前方の脚を曲げて身体を斜めにする。少女は彼の上に座った。座った場所は鍵盤の上だったから、そこで激しく音が鳴った。
「大事なピアノに、そんなことをしていいの?」僕は尋ねる。
「普段から叩いているんだよ」
「それが、ピアノの正しい使い方だからね」
「誰が決めたの?」
「最初にピアノを作った人」
「あまり、面白い答えではないな」
ピアノに運ばれて、少女は道なき道を進んでいく。僕も彼女の後ろをついていった。
歩きながら何度かけん玉に挑戦していると、途中で一度成功することができた。そのとき、なんだ、こんなものか、と思ってしまった。そして、こんなことがなぜできなかったのだろうとも思って、もうそれができなかった自分に戻れないことを悟った。
「そのギャップを、人は成長と呼ぶ」ピアノに運ばれながら少女が言った。「成長も、老いも、結局は変化に違いない。一度変化すると、もうその前の状態に戻れなくなる」
「エントロピー増大の法則だね」
「生きているという状態の始まりは、生まれていないという状態の終わりを意味し、死んでいるという状態の始まりは、生きているという状態の終わりを意味する」
「つまり、生まれていない状態の終わりは、生きているという状態の始まりを意味し、生きているという状態の終わりは、死んでいるという状態の始まりを意味する、ということだね」
「何もしない状態が続くのが嫌なのなら、とりあえず何かすればいい。どんなことだって構わない。少なくとも、それで何もしない状態は終わる」
「だから、言葉を紡ぐ?」
少女は僕の問いに答えなかった。
突如として前方が明るくなり、気がつくと僕たちは花園の中を歩いていた。
赤、黄、白、青、緑、橙、桃……。
種々の花々に彩られた地面を僕と彼女は歩く。
正面に大きな風車があった。
僕たちはその前で立ち止まった。
顔を一回転させることができた。
後ろを向こうとしたら、そうなった。
突如として、目の前に巨大な影が迫り来る。僕は慌ててその場から立ち去ろうとしたが、どういうわけか身体が動かなかった。
巨大な手が伸びてきて、そのまま僕の身体を掴む。
声を出そうとすると、巨大な手に口を塞がれた。
頭を掴まれる。
必死に抵抗しようとするものの、あらゆる力が無為となる。
次の瞬間、僕の頭は地面に向かって落下していった。
地面に接触する一歩手前で上へと引っ張られ、激しく上下に揺さぶられる。
バウンドするかのようだった。
弾む、弾む。
吐きそうになったが、何を吐いたら良いのか分からない。
伸びきった首を上に辿ると、巨大な手が僕の頭を引っ張り上げようとしているのが分かった。手は僕の胴を持ち、それを上へと引き上げることによって、胴と繋がった頭を持ち上げようとしているのだ。
発動する張力。
悲鳴を上げたつもりだったが、まったくもって効果がなかった。
そして、芸が始まる。
まずは自分の頭が胴に激しく打ちつけられるところから始まった。胴が右に左に激しくひっくり返され、そのひっくり返された側に頭をぶつけられる。心地の良い音が鳴り響いた。頭が割れるように痛む。
胴から飛び出した背骨に、頭が突き刺さった。
再び胴から頭が離されると、勢い良く回転運動をさせられた。胴が回ることで頭も一緒に回る。
投げられた胴が巨大な手にキャッチされたが、頭が胴に刺さらず、地面に向かって落下していった。
そこで、僕の頭と胴は完全に分離した。
胴と頭を繋いでいた首が切れたらしく、地面に落下した頭は前方に向かって転がっていく。
空間が切り替わる。
白かった世界が黒に反転する。
僕がけん玉を持つ番になった。
糸を垂らし、なんとなく上に引っ張ってみる。持ち手の部分を横に倒して、大きい方の皿に載せようとしたが失敗した。もう一度糸を垂らして挑戦してみる。
「練習しないと無理だよ」
背後から声が聞こえて、僕は後ろを振り返った。
少女が立っている。
「そう簡単に何でもできるのなら、人間が生きている意味はないね」少女が言った。
「どうして?」
「人生は、トライ・アンド・エラーの連続で成り立っているから」
「君の人生もそうだった?」
「もちろん」
少女が指を弾くと、向こうの方からピアノが駆けてきた。勢いは大してない。少女の前で止まり、前方の脚を曲げて身体を斜めにする。少女は彼の上に座った。座った場所は鍵盤の上だったから、そこで激しく音が鳴った。
「大事なピアノに、そんなことをしていいの?」僕は尋ねる。
「普段から叩いているんだよ」
「それが、ピアノの正しい使い方だからね」
「誰が決めたの?」
「最初にピアノを作った人」
「あまり、面白い答えではないな」
ピアノに運ばれて、少女は道なき道を進んでいく。僕も彼女の後ろをついていった。
歩きながら何度かけん玉に挑戦していると、途中で一度成功することができた。そのとき、なんだ、こんなものか、と思ってしまった。そして、こんなことがなぜできなかったのだろうとも思って、もうそれができなかった自分に戻れないことを悟った。
「そのギャップを、人は成長と呼ぶ」ピアノに運ばれながら少女が言った。「成長も、老いも、結局は変化に違いない。一度変化すると、もうその前の状態に戻れなくなる」
「エントロピー増大の法則だね」
「生きているという状態の始まりは、生まれていないという状態の終わりを意味し、死んでいるという状態の始まりは、生きているという状態の終わりを意味する」
「つまり、生まれていない状態の終わりは、生きているという状態の始まりを意味し、生きているという状態の終わりは、死んでいるという状態の始まりを意味する、ということだね」
「何もしない状態が続くのが嫌なのなら、とりあえず何かすればいい。どんなことだって構わない。少なくとも、それで何もしない状態は終わる」
「だから、言葉を紡ぐ?」
少女は僕の問いに答えなかった。
突如として前方が明るくなり、気がつくと僕たちは花園の中を歩いていた。
赤、黄、白、青、緑、橙、桃……。
種々の花々に彩られた地面を僕と彼女は歩く。
正面に大きな風車があった。
僕たちはその前で立ち止まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる