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〜プロローグ〜
子供達の悩みと御指名依頼
しおりを挟む落ち着いたご様子なので、私もティーカップを置いてお2人が話し始めるのを待つ。
見た目からしたら、お2人とも14~16歳くらいかしら?って考えてた。
「シスター、私たちに食事を提供して下さり有難うございます。私たちは、隣町のカヴァナリアから来ました。」
「カヴァナリアって結構、大きな町よね。カヴァナリアからだと遠いから、ここに辿り着くまで約1ヶ月くらいかしら?」
「そうですね。カヴァナリアからですと、フォルティアの聖職街まで約1ヶ月と数日は見ないと来れません。今回、私たちは、あの人の目を盗んで出て来ました。」
そう少女が言ってから、少年がポツポツと少しずつ話しをしてくれる。
「僕たち、カヴァナリアの教会で生活しているんだ。だけど10年くらい前から、教会の責任者である牧師様が変わってしまったんだ。
以前の牧師様は優しくて、子供達にも老人にも人望があった。
でも今の責任者である牧師様が就任して、こう言ってたんです。
『前責任者の牧師様は病気で倒れてしまい、療養の為に辞められた』と。
そして今の牧師様になってから、子供に怒鳴ったり殴ったり。
孤児である子供が教会で生活してたんだけど、いつの間にか人数が減ってるんだ。」
「それに…今の牧師様になって、差別もあるんです。
牧師様が気に入ってる子供達には、食事を与えています。
でも気に入らない子供達には、食事も寝る時間も与えてくれないんです。」
お2人のお話しを聞きながら、隣町のカヴァナリアについて思い出してみる。
そこそこ人口が多く賑わっていたわね。
あそこの教会に何回か訪問した事があったわ。
1度目の訪問時から何度目かまでは、感じの良い優しい牧師様で悪い印象がなかったの。
だけど、1番記憶に新しい訪問時には、あの教会の牧師様が裏表激しそうだったし、笑顔を張り付けてるけれど目が笑ってないのよね…って記憶を掘り起こしてみた。
ここはカヴァナリアの隣で、フォルティアと言う市の聖職街なの。
カヴァナリアより大きな市街で、貴族街と平民街と、少し離れた場所に聖職街となっている。
カヴァナリアは、貴族街と聖職街だけだったかしら?
静かにお2人のお話しを聞いてから私は、質問を投げ掛けたのです。
「カヴァナリアの教会の牧師様が変わってから子供達に暴力行為を振るい、子供達に食事と睡眠時間も与えない、そして子供の人数も減っていったって事を伝えに来たのね?」
「そうです。教会では孤児を迎え入れ、教会で生活を送ってる事もあって大勢の子供が居たの。でも養子縁組とかされた訳じゃないのに、子供の人数が徐々に減っていってます。50人ちかく居たのに、今では20人に減ってて…わたし…ど…したら良いか…」
お2人が泣きながらお話ししてくれたので、私は優しくお2人の頭を暫く撫でた。
「ここの事は…誰かに聞いたのですか?」
「今の牧師様ではなくて、前牧師様に少し聞いた事があったのです。
フォルティアの聖職街にある大きな教会があること。
その大きな教会では日中と夜中で、目的が違う方々が行かれてるって。
夜中の教会では、悪者に罰を与える神様が居るのだと。
だから殴ったり、蹴ったりする牧師様を罰してもらいたくて。」
「それに消えていった子供って、見た目が良くて、文句も言えない大人しい子供。
そんな外見や性格の子供が多く居たんだよ。
僕より少し上とか、少し下の年齢の子供だったんだけど…」
「貴方がたから聞いた内容からでの、予想ですが多分…見目のいい子達を売ってるかも知れません…。
今現在、その証拠もないのですから何とも言えませんが…」
私は、眉を下げて困った様に答えた。
んー以前、カヴァナリアの神職街の教会へ訪問した時は……既に今の牧師様に代わっていた訳だ。
って事は、その牧師様になって直ぐからだなぁ…。頭の中でカヴァナリアの情報を整理して。
そして、この子たち疲れいるだろうし、泊まってもらう(危険な感じだから保護しなきゃ)事に決めた。
「今日から教会に泊まって、ユックリと体を休めたり、体調を戻した方が良いわ。」
「いいえ、そんなご迷惑を掛けられません。私たちはカヴァナリアへ戻ろうかと思います。」
「いいえ、この教会で良かったら泊まって下さい。体を休めなくては倒れてしまいますよ。」
私は優しい笑顔で、子供達に言い聞かせました。
時刻は3時が過ぎ。栄養が摂れておらず、体力もない状態の子達を早く休ませなくては…って私は思ったのです。
スターチスには、何かあった人の為に泊まれる部屋があるの。
そちらに案内して眠ってもらう事が出来るわ。
そうそうお風呂もよね。
お風呂場へお連れして軽く身体の汚れを落として、身体を温めてもらおう。
お2人をお風呂場へ案内をした。
これから着替える下着と寝衣、バスタオルを準備した。
別々の脱衣室へ案内し、ボロボロな洋服を脱いもらい、別々の浴室へ入ってもらう。
バスタブには魔道具で直ぐお湯が出るので、直ぐにお湯が溜まったから問題なし。
こちらで用意したバスタオル、下着と寝衣を手渡し、入浴後に着替えてもらった。
着ていたボロボロな洋服は、本人に確認して処分する。
そして泊まる部屋に案内した。
ベッドで眠るまで見守って、寝入ったのを確認して、お2人の頭を撫でて寝室を出た。
私は、首から掛けてあるロザリオに触れて、ブルーローズでオーディンの居る部屋に向かう事にしたわ。
まぁ…オーディンは、依頼にするのだろうけれどね。
既に決定事項になるだろうと予想しながら、スターチスの裏口から出てブルーローズへ向かった。
まだ真夜中なので、空を見上げると星が輝いている。
そんな時間に木々で覆われてる神殿に行くって肝試し?って普通なら思いたくなるわよね。
だけど、この神殿の周囲の木々が普通の木なら肝試しになるが、この周囲の木々は普通の木々ではないの。
外敵や魔物、悪意がある人々を近づけない様にって、結界の役割りをしているのよね。
ブルーローズの付近を歩いていたら優しい声が聞こえた。
《また依頼なの?》って聞かれたの。
「そうよ、依頼になる事が確定だと思うわ」
《少し前も依頼だったでしょう?また依頼って酷すぎる!!》
「でも教会での事だから、十中八九で私の依頼よ。それに放って置けないわ。」
《貴女、そう言う人だったな。でも無理したらダメだよ?》
《教会だけじゃないじゃない!!前回が貴族だったし、その前なんて悪魔や魔族関係だったし》
「まぁ…適材適所って事なのかしら?」って困った様に言った。
《適材適所って、どれだけの適材なのよ?教会だけじゃないじゃない!!》
「大丈夫だから落ち着いてね。たまたま私しか依頼を受けられなかったってだけでしょ?」
《全ての依頼を受けてて、適材適所ってお話しレベルじゃないって!!他の人達って依頼受けてるの?》
「他の人ね、依頼は受けてるらしいわ。取り敢えず、オーディンに会ってからだけどね」
《絶対に無理しないでね!!》
「いつも心配してくれて本当に有難う。」
彼等に返事をして先を急ぐ。
幾つかの優しい女性と男性の声で、私を心配して声を掛けてくれる。この優しい言葉に感謝ばかりだわ。
今回は姿を見せずに声だけだった。凄く綺麗な男女の姿だし、見られないのが残念だけど今度って事ね。
ブルーローズは、簡単には人に見つからない。
だけど手入れがされてない訳でもなく、入って来れなくなっているのです。
人々に忘れ去られたのかと思う様に、木々が神殿を隠す様にしているから。
忘れ去られた神殿か、隠された神殿ってミステリー小説とか、ホラー小説にありそうよね。
やっと真っ白で大きな建物が見えて来たので、首からさげていたロザリオを手に持ち唱えた。
『フルムーンの光に照らされしブルーローズ、蒼き光から正義と慈愛とご加護を…』
リーンって鳴り響く音と、神殿の全体が蒼に白銀の粒子が入り混じり輝く。
暫くボーッと見惚れてから思う事があるわ。
毎回、これを唱えるのはイヤになるが…この光景は凄く美しいと思うのよね。
前はロザリオだけでブルーローズの中へ入れたの。だけどバカな子が居てロザリオを落としたのか、盗まれたのか、騙されたらしく紛失してしまった。
それを知ったオーディン達が怒ってしまい、以前とは違うロザリオを作り出した。
その新しいロザリオを持っていて、唱える事が出来る人でないと入れなくなったのよ。
ロザリオが壊れるとかってないと思うけれど、ロザリオを使えない場合は神様から頂いた武器で入れるの。
オーディーン達の事を外部に知られない為もあるけれど、此処には神様だけじゃなく、神様の眷族である聖獣(星獣とか神獣)が居るからなのよね。
私は、ロザリオを神殿の出入り口である大きな扉の横にある、ロザリオ型の部分にロザリオを嵌めた。
ガチャンと音がしたので、扉を開けて中へ入った。広く長い廊下を歩き、依頼を受ける祭壇の間へ向かう。祭壇の間の扉が閉まってたので軽くノックした。
すると低音ボイスの美声が聞こえた。
《誰かな?》
「オーディン、私でございます。」
《名は?》
そう聞かれたので、私はイライラしてきたの。
「おふざけになるのは、迷惑なのでおやめ下さい。
そしてノックする前から誰がいらっしゃるのか、それをご存知だったのでしょう?
時間の無駄です!!」
《ん?だがオレオレ詐欺かと思ってな》
そう楽しそうに言われたので、ブチッと音がした。
私は、イライラを抑えながらの返事を。
「オーディン、この世界にオレオレ詐欺ですか?悪ふざけが酷いかと。私、帰らせてもらいますね?」
この怒りが伝わったのか、焦ってるご様子のお返事がありました。
《すまない。私が悪かった。だから早く中に入りなさい》
そう言われたので、早く入れないのは誰の所為だと思ってるの!!って心中で怒りがMAXだった。
そんなイライラしている場合じゃない。
早く御依頼になるかの確認をしなくては。
扉が開いたので中へ入った。
室内へ入ると大きな神の像と祭壇がある。
祭壇の前まで行くと白猫を抱えて、神々しい微笑をたたえているオーディンがいた。
美しい銀色の髪を耳にかけて、青く輝く瞳と、それを縁取る銀色の長い睫毛。桃色の唇に白く透き通る肌…超絶美人?イケメン?どっちだろう。
神様…貴方様方に性別はあるのですか?
って、そんな事よりも本題に。
「オーディンにはご連絡が入ってるでしょうが、隣町のカヴァナリアの聖職街で悪しき事をされてるご様子です。」
《ああ、この子(白猫)から先程に聞いたよ》
「オーディン、誰か御指名して御依頼をして下さい。早急にでお願い致します。」
そう私が言うと、オーディンは手を顎に当て、少し思案されていた。
そして暫くしてオーディンが、白猫を撫でながら静かだが響く声で言った。
《指名する。アリディアーナ・ファスアル、貴女に此度の隣町カヴァナリアの件を指名しよう。》
指名されたのは、アリディアーナ・ファスアル。そう私ですね。やはり、この御依頼は私になりました。
私は最上級の礼をシスターの姿で、オーディンへした。
「承知致しました。」
そう私の名前ですが、やっとですね。
私の名前は、アリディアーナ・ファスアルと申します。
フォルティアのファスアル公爵家が私の実家であります。まぁ…表向きでありますけれど。
ここはアルティスフォードと言う帝国であり、この帝国の皇帝が国を治めております。
そのアルティスフォード帝国の中に、フォルティアと言う市があります。そのフォルティアがファスアル公爵家の領地でありますの。フォルティアの貴族街にファスアル公爵家があるのです。
本当に分かりずらいですね。
アルティスフォード帝国の皇帝から信頼もあり、宰相の任を私のお父様が任されております。
あんなお父様に宰相職ですか?
あんなんで帝国の宰相ってなれるのですか??
って、娘である私は思いますが…。
なぜならお父様にお会いしたら、この人が宰相で大丈夫か不安になるとお分かりになるのでは?
またお会いしたらですけどね…。
《明日、ファスアル公爵に指名依頼の為、隣町へ行く事を伝えなさい》
私がお父様の事を残念な人(酷く失礼で最低な評価)と思っていた。
そんな私にオーディンから声掛けられ、ハッとオーディンを見たわ。
オーディンは笑顔だけど、目が笑ってないのに気付き背筋に冷たい汗が…。
多分、私が上の空だった事に気付いてるのでしょうね。
ヤバイと思い咄嗟に返事をしたわ。
「了解致しました。そして今回の御依頼は、私1人で宜しいのでしょうか?」
そうオーディンへお聞きした。
《この依頼で何かアクシデントがあって困ったなら、誰か向かわせるとしようか》
「それで宜しくお願い致します。って言いたいけれど、毎回毎回の御依頼が私1人での任務って酷くないですか?」
私の毎度思っていた不平不満事を、オーディンへ文句としてぶつけた。
オーディンは悩殺的な素敵笑顔で、私に向かってこう言った。
《アリディアーナの実力と忍耐力、そして優しさと正義感、そのうえ負けず嫌いなのを知ってるからだよ。
そして依頼とは、忍耐力と考察力と判断力と忍耐力で成り立っているからね》
これを聞くとね、早く言えば忍耐力で成り立つって事ですよね?
忍耐力って言葉を3度も聞いたのですし。
優しさと正義感より忍耐力が重要って事なんだぁ…。
オーディンは素敵笑顔で私の性格を知っているから、そう言ったって直ぐに分かったわ。確かに私は負けず嫌いよ…
でもね、少しくらい誰かと一緒に組んで依頼を受けたいって思うのですよ!!
毎回毎回、1人で現地へ向かって、潜入して情報収集する為に変装してるし。
そして情報で黒ってなったら、そこを潰して最善の結果を残す。
そして報告書を作成し、そのエリアの悪事の取り締まる場所へ提出して終了なのです。
それを全て1人でって酷くないですか?
まぁ…仕方ないですね。不平不満をオーディンへ訴えても無駄だと分かってるのですから。
それにオーディンはツンデレと言うか、本当は優しい人だと分かってるけれども、こんな感じでしょう?
オーディンは人をからかうとか、おちょくる人なのですしね。
「オーディンは私が忍耐に忍耐を重ねて、ストレスを溜めれば良いって言いたいのですね?」
溜め息を吐きながらオーディンに言うと、オーディンが慌て出した様です。
《そんな事を思ってるはずないでしょう?
アリディアーナの事は大事なのですから》
そう言ってオーディンが私を子供をあやす様に、優しく頭や頬を撫でてご機嫌取りを始めた。
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