上 下
51 / 64
第二幕

51.経過観察:家族再会

しおりを挟む
 男爵家の屋敷の前に馬車が停まる。
 6年振りに見たその佇まいは何だか立派になっていた。伯爵家が支援している事業が上手く行っているとオーランドから聞いている。私が勉強に明け暮れていた時に比べて屋敷の手入れがされている様だった。従者が伯爵と私の訪問を伝えに屋敷の中へと入って行く。馬車の小窓からその様子をジッと眺めていた。

 突然来たから.........誰も居ないかも。やっぱり.........やめた方が.........

 ウダウダと窓枠の木の部分をグリグリ爪で掘る。ピキッと音がしてハッとした。あ!木が抉れてる!いけない壊しちゃうわ!
 ワタワタ慌てていると扉の辺りが騒がしくなり、勢いよく開け放たれるのが窓から見えた。中からは.........父。そして母。

 居た!生きてた.........父様!母様も.........!大分歳は取ってしまったけど、間違い無い!

「ああ.........」

 私は馬車の扉を内側から開け、ステップを駆け降りて扉に走る。

「か........母様.........父様ぁ.........っ」
『「アリエラーーーーーッ」』

 私達は互いに走り寄り3人で抱き合った。

「父様.........良く無事で.........母様も元気そうで.........良かった.........良かったわ.........」
「ア、アリエラ.........痛い.........っ」
「アリエラ.........力が強いわ.........」

 ハッ!つい締め過ぎたわ!

「ごめんなさい。興奮してしまって.........」

 シュンとする私を両親は泣きながら代わる代わるギュウッと抱き締めてくれた。
 ああ.........本当に生きてる。失くしたと思っていた家族が、もう二度と会えないと思っていたのに........今私の目の前に居るのだ。
 堪らなく嬉しい。

 ふと、背後に気配を感じて顔を向ける。
 私の後ろにオーランドが静かに立っていた。
 その顔は.........何だか眩しいモノを見る様に目が細められ、泣きそうな、でも微笑んでいるような.........これはどう言う感情なのか.........いえ、解るわ。
 貴方は私の表情でなんでも解ると言ったけど、私だって.........解るのよ?


「父様、母様。会えて嬉しかった。急ぎの用事があるので長居は出来ないの。ごめんなさいね」
「アリエラ!もう行くの?あ、あのね?言わないと行けない事が沢山あるのよ」
「.........うん。大体は伯爵から聞いているわ。暫く重い病気に掛かっていたの。会いに来れなくてごめんなさい。もう、完治したからこれからはまたお邪魔するわ」
「アリエラ.........大丈夫なのね?」
「ええ。平気よ?ああ、そうだ。母様に聞きたい事が有ったの。母様のお兄様、伯父様はお元気?今から近くまで行くのでご挨拶しようかと思ってるの」
「.........そう.........私は兄とはあまり仲が良く無くて.........。結婚を機に殆ど帰らなかったけど。2、3度父が病気の時に行ったきりね。覚えてる?」
「ハッキリとは.........でも本が沢山あったのは覚えてるわ。.........絵本を読んでた」
「ああ、そうよ。うちは輸入の書籍を扱う仲買の商売をしていたから。アリエラは本が好きで、隣国リスナージからの文字が編集されていない絵本をずっと見てたわね。何だか取り憑かれたみたいに.........あれは.........『太陽と魔女』って言うやつだったかしら?上・下巻有る珍しい絵本だったわね」
「!! 上・下巻?それ、今もあるかしら?伯父様はまだ.........」

 母様が頭をフルフルと振る。

「ごめんなさい。判らないの。手紙も出さないし.........あちらからも連絡は来ないわ」
「.........いえ、良いのよ。少しだけ寄ろうと思っただけだから。じゃあ、もう、行くわね。今度はちゃんと会いに来るわ。またね、母様。父様」
「アリエラ.........本当に.........ごめんなさい。あの人の事、貴女に黙っていて.........」
「.........良いわ。無事だったなら.....それで良い。さよなら、また会いましょう」

 私は柔かに笑って馬車に戻った。オーランドは私の話に合わせてくれて、父と話をしてから同じ様に馬車に戻って来た。小窓から手を振り馬車を出発させる。暫し2人共無言だった。

「アリエラ.........その.........」
「.........うん.........」
「良かったのか?もう少し居ても良かったのに」
「いいえ。あれで良かったの。あれ以上居たらきっと弟が出てきてしまうかも知れないでしょ?まだ、心の準備が出来て無かったから。父様達が元気で良かった。それだけで充分よ」
「.........そうか。なら良かった」
「.................それに貴方の顔ったら。痛々しいものでも見るかの様で。ふふ。逆に冷静になれたわよ」
「そ、そんなつもりはっ.........その.........君は強いけど.........何でもない振りをするから.........泣いたら抱き締めようと.........」
「.........貴方が抱き締めてどうするのよ?子供じゃ無いわよ?もう!」
「.................そうか。そうだな」

 私が2人に会って1番ビクビクしてたのはオーランドよね?きっと私が泣き出したらこの人ギュウギュウ抱き締めて来るんだろうな。
 本当、可笑しな人ね。でも.........嫌じゃ無いわよ?オーランド。

 言わないけどね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

処理中です...