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第一幕

26.経過観察:溺愛解禁

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「アリエラ、おはよう。一緒に食堂へ行こう」
「アリエラ、庭を散歩しに行こう」
「アリエラ、お茶にしないか?」
「アリエラ、書類整理手伝ってくれ」
「アリエラ、夕食の後一緒にチェスをしよう」
「アリエラ、一緒に風呂『バシ!!』っ」
「.........分かった。一緒に隣で寝るだけで良いから」

「寝ません!!鬱陶しいわ!図々しいわ!いい加減にしなさいよ!私まだ何も許してなんかいないんだからね!」
「許して欲しい訳じゃ無いよ。でもそれ以上にアリエラと話せる事が嬉しくて。怒ってる君も可愛いし、楽しい。今、何でも幸せなんだ」
「うっ.........えぇ.........?」 

 あの真妻宣言の次の日、夫から私に対しての溺愛っぷりが激しさを増して来る。
 そしてそれを拒否し切れずいると、3回に1回は隙を突かれて抱き締められたり後ろから抱っこされたりのスキンシップまでされる始末。

「な、なんなの?アンデッドになったとたんこれ?生前の私が可哀想過ぎるわ.........。許さないんだから!」

 私は夫の胸に後ろから抱え込まれながらジタバタ、腕をグイグイ押したりパシパシ叩いて暴れる。何よ!アンデッドになっても剥がせないじゃないこの腕!元々がひ弱だからかしら.........。

「勿論生前の君も凄く愛してたよ。抑えて来た分嬉しくて.........ふふっ」
「........!もう.........これだけ態度が変わると呆れちゃう。離してよっ」
「君の中には私の魔力が半分入ってるんだ。引き合うんだよ。だから不可抗力さ。ね?」
「何が、ね?よ!勝手に貴方がしたんじゃない!ほら、夕方来た報告書見たの?まだなんでしょ?あの街で数人変死体が出てる案件。緊急なんでしょ?」
「..........分かったよ。ああ、それから監視に来てくれてたディランとダリスアン明日帰るから。送って行くついでに街に行こう。少し状況を見て知りたいんだ」
「そうね、離れる訳にはいかないもの。良いわよ。彼らは今何処に居るの?」
「ディランは食堂横のバーだな。ダリスアンは庭にいたけど。多分剣の訓練をしている筈。彼は王宮騎士なんだ」
「騎士様だったの?凄いわ!王宮騎士なんて素敵ね。花形じゃないの」
「.........まあ、そうだな。ディランは諜報部なんだけど.........どちらも簡単には成れないだろうね」
「それはやっぱり魔力とか魔術のお陰なのかしら」
「我々は王に仕える一族だったみたいだ。宮廷魔術師なんて大層な事してたみたいだけど、元々は大陸移民だったらしい。力を買われてこの国に居着いたみたいだけど。まあ、魔術は役に立ってるだろうな。私の姿、余りこの国では見ないだろ?前にも言ったけど先祖返りでね、この髪色な上にこの目の色は色々混ざってる証拠さ。私の父や祖父はそれぞれ全く違う色だったしな」
「大陸には貴方みたいに綺麗な瞳の色の人沢山居るのかしら?」
「アリエラ~!私の目好きなのか?嬉しいよ!」
「ち、ちが.........!もう!早く離して!」

 私はぐぐっと力を入れ彼の片腕を剥がす。

「ふふ.......堪らない.........嬉しい」
「う.........な.........も.........っば、馬鹿ね!」

 6年も夫婦だったのに、今更新婚みたいに甘えられても.........まあ、夫婦がする事なんかやった事無いけど.........夫婦って何するのかしら?大体甘えられた事も無いんだけど.........。
 ..........................甘えたかったのかな?

「.........ねえ.........どうして私を選んだの?あの婚約は仮だったでしょ?父が無事だったなら帰って来た時に破棄すれば良かったじゃない。本当に私を.........あ.........あ.........好きだったの?私貴方と5歳も歳が違うし。貴方の周りなら綺麗な女性沢山居たでしょうに」


「.........最初は、どうでも良かった。伯爵家の恥を晒すのが嫌だったから。色々騒がれる前に取り敢えず男爵家は抑えないとってね」
「.................」
「当時私には婚約者候補は沢山居たんだけど、君の妹を儚くした私の父が決めた者達だ。全て断りを入れた。まあ、それでも暫くはしつこかったけどね。私は直ぐに伯爵を継がねばならなかったんだ。当然嫁げば即伯爵夫人な訳だし」
「そうね.........」
「でも、思ったんだよ。好きでも無い女性と結婚すれば、遅かれ早かれ大して変わり無く術は失敗するだろうって。妻をアンデッドにするには.........アンデッドになった後幸せにしたいかどうか、そんな女性で無ければならない。きっと恨まれたままお互い不幸になるだろうって。そうしたらさ.........」

 そう言いながら彼は私が掴んで居る右腕のもう片側の腕を私の首に滑らせ顎を優しく掴み、耳元に唇を付けて続けてこう言ったのだ。


「初めて君を見た時、驚いた。物凄く胸が高まって.........一目惚れしてしまったんだ。目の前に妖精が居るってね」
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