口移しでネーブルを

平川

文字の大きさ
上 下
12 / 14

11

しおりを挟む
「え?」

 モコは父ちゃんが俺に向けたナイフを持つ腕に噛み付いた。体ごと全体重で飛び込んで来たモコに腕を引きずられ父ちゃんは上向きに吹っ飛んだ。道路に頭を打ち付け呻く。

 モコは前足を切られていた為、着地が上手く出来なくてゴロゴロと変な風に回りながら木の扉にぶつかって止まった。

 嘘.................

 モコが.................

 噛み付いた.................!


 俺は初めての衝撃に呆けてしまった。

 パトカーが家の前に到着し、中から警官が2人出てくる。俺は気が抜けてしまった。


 父ちゃんが

 まだ

 ナイフを持っているのを忘れて。



 父ちゃんは呻きながら体を素早く起こし、1番近くにいたモコに目掛けてナイフを振り下ろした。転がって扉に体を打ち付けたモコは横向きになっていた。
 モコは.........動けなかったんだ.................


           「ギャァンン!」


 一瞬で全ての血が頭に上がったような気がした。

「モコォォ!てめぇーーーーーーーーぇぇぇぇぇ!」

 俺は全速力で走り出した。


 もう、良い。もう沢山だ。消えて無くなれ!俺に似た顔も。汚い存在も。何もかも!全部!!


 俺は最後の有りっ丈の力を込めて父ちゃんだった者の背中に蹴りをぶち込んだ。奴は木の扉に激しく叩きつけられバウンドして漸くその稼働を止めた。


「ああああーーモコーーーーーー!」

 俺は駆け寄ってモコを抱きしめる。右側から胸に深くナイフが刺さったままのそこからじわじわと赤いものが滲み出て、薄い茶色の毛の色を変えて行く。モコは薄っすら目を開けピクピクと痙攣を起こしていた。

 救急車のサイレンが響き渡る。近所の住人達も騒ぎを聞きつけ集まってくる。警官が父ちゃんを確保する。家の中に救急隊員がどかどか入って行く。尚はナイフで切られた腕を応急処置をされていた。

 モコは.........



 俺の腕の中で一つ、
 大きく息を吐いて


 ゆっくりと潤んだ青と赤の瞳を閉じた。




 ****

 まずは母ちゃんの事。
 結論から言うと取り敢えず無事だった。

 あいつは金も欲しかったのか、母ちゃんを縛り上げて預貯金の引き出しに使おうとしていたらしい。
 体は散々暴行されて左腕は折れ、打撲だらけだったが内臓は無事だった。俺が最初に電話した時間にはすでに奴は侵入していて、母ちゃんを縛り上げてから飯食ったり、風呂入ったりしていたらしい。

 尚は......右腕に15針も縫う怪我を負った。幸い神経には届いていなかったから動くようにはなるけど、バスケは就学中出来るかどうか分からない。

 あいつは再犯で、しかも同じ相手を再び襲ったとして、今度は長く務所暮らしになるだろう。まだ詳しく分からない。次会ったらもう容赦はしない。



 俺は.................冷たくなったモコを毛布で包んで一日中泣いた。

 俺の大事な

 俺の.........守るべきお姫様を抱きしめて。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

海線丘線

葦原蒼市
ライト文芸
「また走り出せば本当に何かが変わるのか、そしてそれは皆さんの本望なのか、丸町と港が電車でつながることの意味は何なのか…」

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...