口移しでネーブルを

平川

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「尚いーなぁ。デカスク。俺も欲しい」

 尚のビックスクーターは、ホンダのフォルツァZ。スポーティな感じが好きなんだって。尚は教習所に行かず一発試験で合格するような奴だ。恐ろしい。どんな頭してんだ。俺には無理だ。まあ、その前に金貯めないと。

「ほら、メット」
「おう」

 俺は渡された黒にブルーのラインが入ったヘルメットを付けた。因みに尚は黒一色。あんまりごちゃごちゃ色が付いてるのは嫌らしい。バイクもカスタムしない。唯一二人乗り用に背もたれを付けたくらいだ。

「おー、久しぶり。ワクワクするな」
「そうか?前いつだったっけ。夏だったかな。1回遊びに行って本当はそのまま海行くつもりだったのに8月に台風来て逃したんだっけ?土砂降りの中帰ったやつ」
「そうそう。あまりに寒くて腹に新聞紙詰めて」
「ふふ。日に焼け損ねたって拗ねてたな」
「今日も色白って言われたしな。教室でも女みたいだって言われたよ。隙見せたらやられるぞ、だってさ」
「.................そいつなんて名前?」
「本気にすんなよ。冗談だよ。足見せたら舐められそうになったけど」
「名前は?」
「やめろ。教えねー。お前怖い顔してるから」

「.................わかった」

 そう言うと尚はヘルメットを被りバイクを始動させる。

 本当過保護だよな。中学の時から。まあ、あの事があってから余計に敏感に反応するようになったんだけど。尚の所為でも何でも無いのに。腕怪我してボール投げれない間部活休んで帰り家まで送ってくれたり。

 もしかして高校も俺が居たから選んだのか、なんて流石に違うだろうけど。もっと良いとこ行けたはずなのに。いや....それじゃあ俺が尚の人生狂わしてる事になるじゃねーか。
 そこまでしてもらう価値は俺には無い。違う。違う。いくらなんでもあり得ない。

 いつか.....いや、近い将来違う道に行くんだ。お互いに。

 そしたらまた会う日が来るのかすら.......判らないんだ。


 ****


 バイクを走らせる事20分くらいでうちの家が見えてくる。流石に夜は冷えるので尚が上着を貸してくれた。首にフワフワのファーがついた茶色い皮ジャン。
 分かってたけどデカかった。どこに売ってんの?こんなデカいの。指先しか出ないんだけど。まあ、手袋代わりに袖先を手に丸め込み暖を取れたけど。

 家の脇にバイクを停めて門の鍵を開けて中に入ろうとする。うちは古い家だから門は木で出来た両開きだ。ごつい南京錠がしてあって、鍵は母ちゃんと俺しか持ってない。

「ん?」
「どうした?」
「.................こ、壊れて.....る」
「え?何だ?」

 尚が鍵の部分を覗き込む。そこにはUの字の部分がプッツリと切られた南京錠がぶら下がっていた。

 全身の血が引いて行く。鍵を持つ手がブルブルと震える。頭の先は冷たいのに目の辺りが熱くて燃えそうだ。


 まさか。


 まさか。


 あ......あ.........モコ.................
 か...


 母ちゃん!!!

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