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第六章 「精算」と「真相」

113.俺は....どうなった?

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 ズル.........と蠢く血が滴る肉塊にある濁った目がキョロリと一点を見る。
 白く輝く光を放ち、白銀の髪を腰まで延ばした美しくも儚い柔らかそうな女。

 ビーストールの脳裏に浮かぶのは月の光の女神。泣きじゃくりながら想い人の名を呼んでいた。何度も白い脚を掴み犯してやったが、最後には意識を失ってだらんとしていた。そのまま奪って行けば良かった。だが、土と泥と血に塗れていたそれはあまり美しく無かったのだ。白く輝く髪が色を無くし、汚れて茶色くなっていたのを見て汚いとさえ思った。ならば身を整えるのを待ってやろうと思ったのだ。
 番の匂いを自分に変えておけば問題無いと思っていた。ランドールには既に番を作って与えておいた。万事納まる筈だった......だが何故か死んでしまった。

(なら.........もう1度だ.........もう1度.........あの美しいルナを)

『食べるところから.....もう1度.........やり直そう』


 ガパッと口を開け長い舌を地面に叩きつけ、勢いを付け飛び上がり落ちながらサラとアウィンを頭の上から口の中に収めバクンッと閉じた。

 一瞬の出来事にシャザは動けなかった。

「ーーっ!アウィン!?お、奥方ぁぁ!!」
『『!!?』』

 油断していた。神の力も奪われている。もう再生能力も無い。唯の肉塊だと思っていた。頭しか無いのだ.........腕も脚も.........

『ビーストール!おのれーーー!』

 ゴォッとウィンドルザークの周りに風が吹き出す。

『待て!中も一緒に切り裂く気か!』

 光の神がウィンドルザークを諌める。その刹那
 ピシーーーーーーーッと何かが割れる音が鳴り響く。

『! な.........なんだい?この.........圧.........』
『.........これは.........私も知らない.........いや.........ある。だがこれは.........誰だ?』

 コロシアムの中に居る神々もその威圧感に圧倒されていた。初めて感じる未知の力だ。


 ズバッバシュッと無数に刻む鋭利な音。
 パンッと弾け飛ぶ小さな肉片。
ビーストールの巨大な頭の先がグズッと揺れ、次の瞬間バラッと崩れ落ちた。

 中から現れ、そこに立つのは右手を上に延ばしたアウィン。地に座るが平然としているサラ。2人は肉に囲まれているが血に濡れてはいなかった。アウィンが咄嗟に結界を張っている為だ。

「ア、アウィン!」

 シャザが辛うじてアウィンの名を呼ぶ。だが、走り寄ろうにも脚が動かない。

 全ての肉片がふわっと空中に浮き上がる。

「.........こいつはビーストールか?シャザは、無事か。サラ....、いや、女神?.........俺は.........どうなった?」

 少しボンヤリとしながらアウィンが呟く。

『1度風の神力を空にする必要が有ったのよね。上手く身体に巡ったみたいで良かったわ』
『な.........風を空にする?さすれば死に至るでは無いか!.........貴女は、何だ!』

 ウィンドルザークが動かない身体をギシッとさせながら苛立ちながら言う。ゆっくりと立ち上がりパタパタと埃を払うサラ。

「女神.........俺は.......何に.........なった?」

 身体の中に在るのは風だけでは、無い。アウィンは自身の中に在る力の存在に愕然としている。

『それは勿論、神よ?アウィン・シータ・ウィングボルト。私の権限で力の根源を貴方に譲渡した。ああ、風じゃ無いわよ?....6年間、私の力を少しずつ入れたパイを食べさせた甲斐があったわ、ふふっ』
「え?パイに?」


 すると審判神レフリアーノがふわりと浮き上がり、闘技場に降り立った。そのまま風と光の横に立ち片膝を折り跪く。

 それを皮切りに次々と神々が頭を下げて行った。この闘技場にいる者は全て訳も解らないまま頭を下げる。自分の意思では無い。神の力が働いている訳でも無い。唯本能に刻まれたそのモノに対しての畏敬の念だ。こんな事が起こる相手は.........知らない。探ろうにも何も無い。

 ビーストールは細切れにはなっているが地に落ちる事は無く固まっている。
 サラが白い指先をツイッと上に向けると一瞬にして場所を移した細切れにのビーストールが再び1つになって地に落とされた。ズドンと音が鳴りその直後無数の白い鎖が巻き付いて行く。そしてビーストールの下には赤い燃える様な空間の穴がポッカリと口を開いた。

『これに責苦に追加しよう。私を口に入れた罪、5千年にしようかな?全部で7千年。それまで魂が保てば良いけどね』

 ズブズブと穴に沈んで行く野獣の残骸を見ながら独り言ちるその姿は先程泣き崩れていたサラで間違いない。だが中身は全くの別人であった。

『レフリアーノ。罪状追加しといてよ』
『賜りました』
『さあ、じゃあ、始めようか。お披露目式ね。全神集めといたから、ふふ。盛大にしよう』
『はい』
『光。お前は戻って良い。風は此処に居なさい。水と闇、それから夜はおいで』

 そう言った瞬間、光は元の席へ。闇の神と水、夜の女神が闘技場の下へ瞬間移動した。だが頭はまだ上げられない。神である筈の自分達の意思とは関係無くだ。


 コツコツと小さな靴音がする。階段を上がっている様だ。階段など....無かった筈の場所を。音がする度に床の様相が真っ白な光る石畳に変わっていった。

 甘く柔らかでありながら、何よりも厳しい声がコロシアム中に流れる。


『約300年ほど前になるかな。......私の口の中に野獣に運命を曲げられ、其方達の娘と息子が入って来た。其処に入る事は深層に危機の念を私が植え付けていた。.....唯一、神が消滅出来る所謂自死に繋がる場所。強く念じなければ入れない様にしてある。そして自死は命に対する裏切りだ。罰を与えねばならない。それ故の措置だ。だが2人は禁を破った。来世で再び出逢い、番としてやり直したいと願っていた。涙に暮れながらも、もう1度、とね』


『『.........!』』
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