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第六章 「精算」と「真相」
110.よし....来たな
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『おのれ~!その剣に邪魔ばかりされるわ!たかだか神族の分際で余計な物を残しおって!!』
「これは貴方が雌牛との仲を引き裂いたノーザスが残した遺品だろう。ミル姫と同じ型だ。貴方は知らないだろうが.....彼女は知っていた。同じ母を持つ兄の存在を。そしてずっと悩んでいたんだ。自分の存在に。母と兄にとっても仇の貴方の娘だと言う事を。不幸をばら撒くのはもう止めろ。神の名を返上し償いをするんだ!」
『くだらぬ!その様な事で命を絶つなど弱い証拠だ!我にその様な雑音を聴かせるな!獣人ならば獣人らしく戦って死ね!!』
「その言葉、忘れるなよ!!」
グゥんと後ろにレイピアを引き、瞬時に地を蹴り斬り掛かる。ビーストールの10の爪に弾かれるが、それ以上の手数を繰り出し応戦する。固い重い爪の筈がレイピアでいなすと軽く感じる。戦いの神が託っていた鍛治職人が造ったそれは、神の攻撃をも凌ぐレベルだった。彼が命を絶ったのはこのレイピアを息子に託した後直ぐだ。戦いの神も嘆き悲しんだと言う。
ヤマアラシの棘で錬成したレイピアは細く軽く鋭く折れる事無く刃こぼれず、シャザのスピードを活かす剣技にピッタリと合っていた。
(なんと素晴らしい剣だ!そしてなんと惜しい事.....もう2度と同じ物は出来ないのか.....っ。剣士として本当に残念だ。ノーザスよ。お主の無念我が晴らしてみせる!)
ピシュッッと右上に振り切る。ビーストールの太い指が2本吹き飛ぶ。
(力で勝てないなら、スピードで凌駕する。再生能力が追い付かない程に.........早く、もっと早くだ!過去アウィンと模擬戦をして来た。奴は風だ。早く速く追い付かなかった。地上の重力がある以上限界を感じていたんだ。だが我も遊んでいた訳では無い。日々鍛錬に明け暮れ、自分を信じて来た)
ブワッと身体中の漆黒の艶毛を逆立て熱を闘気に替える。その内更にシャザの手数が増え徐々にビーストールの周りが血の飛沫で赤く染まって行った。
巨大な爪は7本無くなり、指が3本にまで減る。サイの様な固い鱗は白い身を曝け出し、象の様な巨体が削られて行く。
『グッッ!ウゥゥーーーー!おのれぇーっ!」
ビーストールはその巨大な尾を地面にズドンと叩き付け、身体を後方に飛び上がらせ地を揺らす。
『黒豹ーー!人型を削ったくらいで勝った気になるなよ!我は獣人神!2万2千種の、王である!!』
そうビーストールが叫んだ瞬間、身体がブワァァァァァァァと膨れ出す。茶色、白、黒、灰色に黄色や赤など、様々な毛色が身体から延び始め、何十と言う大きな目が顔の至る所にポコポコ湧き出した。口は鼻の下全てを占め、無数の鋭い分厚い牙で埋め尽くされている。まるで見た目はフクロウの様に首が無く巨大な丸い頭が乗る。だがその身体からは長く分厚い4本の脚が生えていた。そして大蛇の様なトグロを巻く尾。醜悪な怪物がシャザの前に姿を晒す。
「ーーーーっ!何だ.........これはっ!」
それは、過去取り込んで来た獣の特性を全て集めた姿だった。
****
アウィンは唯ひたすらに大きな黒く雲を作り続ける。
「.........後.........少し.........」
この天界に自然系の神族は4つ。
火、土、水、風。
技を組み合わせる事など今まで無かった。いや、出来ない。其々に神がいるからだ。だが、実際には地上の人々の暮らしの中でも火や水は合わせて使い、緑を育てるには土と水がいる様に組み合わせて1つになるモノだ。
アウィンは風の子。そしてランドールは水の母を持っていた。授かった力は合わさる事でより大きな力を作る。
「! 何だあれ!?」
ビーストールの膨れて行く身体は巨大で、上空に居るアウィンからも目視出来た。
「くっ!急がないと!もっと速く、もっと巨大に......チャンスは1度だ!やはり2つの属性を組み合わせるのは思った以上に力を使う....サラから貰った神力が尽きる前に.........」
轟々と天界の空を埋め尽くすかの様な黒い雲。その中に蠢く無数の音。
「.........よし.........来たな.........」
****
醜悪な姿を曝け出しビーストールがシャザに向かい腕を振り回していた。レイピアで斬る度にそれは弾け飛ぶが、一瞬でまた生えて来る。速度も重さも先程とは段違いだ。まるで鋭利なカマイタチの中で踊る様にシャザはレイピアを繰り出し応戦している。時折防ぎ切れずに胴や脚を掠め切られて赤く染まる。長い深い緑の髪は飾りごと切り取られ弾け飛んで行く。紅い胸までの甲冑も既に何処かへ飛んで行ってしまった。
だが音速にも近いこの攻防でもシャザは引かず、絶望せず、唯真っ直ぐに向かい合い、己の身体全てを使い剣技を繰り出す。
彼は理解していた。一瞬の隙こそが勝敗を決める剣士の戦い。だがそれと同時に強い相手と戦う喜びが彼を支配していたのだ。
一気に4本の手を斬り離し、ビーストールの牙を上1列横に垂直に斬る。ボロボロと溢れる牙をパシッと掴み目玉に突き刺した。クルリと身体を回転させそのまま巨大な頭を削ぐ。中にはとぐろを巻いた大蛇がギッシリ詰まっていて、シャザ目掛け牙を向け飛び掛かって来るが、シュンッと繰り出した一振りで弾け飛んだ。
グォーーと一鳴きしたビーストールの尾がグルグルと振り回し、煩いハエをはたき落とすかの様に無作為に振り回される。
辺りは砕かれた岩とビーストールの無数の肉の残骸が散り、砂埃と粉塵が舞っている。
だがそれは神との戦いと言うよりも、壊れた野獣との討伐戦に見えた。
「これは貴方が雌牛との仲を引き裂いたノーザスが残した遺品だろう。ミル姫と同じ型だ。貴方は知らないだろうが.....彼女は知っていた。同じ母を持つ兄の存在を。そしてずっと悩んでいたんだ。自分の存在に。母と兄にとっても仇の貴方の娘だと言う事を。不幸をばら撒くのはもう止めろ。神の名を返上し償いをするんだ!」
『くだらぬ!その様な事で命を絶つなど弱い証拠だ!我にその様な雑音を聴かせるな!獣人ならば獣人らしく戦って死ね!!』
「その言葉、忘れるなよ!!」
グゥんと後ろにレイピアを引き、瞬時に地を蹴り斬り掛かる。ビーストールの10の爪に弾かれるが、それ以上の手数を繰り出し応戦する。固い重い爪の筈がレイピアでいなすと軽く感じる。戦いの神が託っていた鍛治職人が造ったそれは、神の攻撃をも凌ぐレベルだった。彼が命を絶ったのはこのレイピアを息子に託した後直ぐだ。戦いの神も嘆き悲しんだと言う。
ヤマアラシの棘で錬成したレイピアは細く軽く鋭く折れる事無く刃こぼれず、シャザのスピードを活かす剣技にピッタリと合っていた。
(なんと素晴らしい剣だ!そしてなんと惜しい事.....もう2度と同じ物は出来ないのか.....っ。剣士として本当に残念だ。ノーザスよ。お主の無念我が晴らしてみせる!)
ピシュッッと右上に振り切る。ビーストールの太い指が2本吹き飛ぶ。
(力で勝てないなら、スピードで凌駕する。再生能力が追い付かない程に.........早く、もっと早くだ!過去アウィンと模擬戦をして来た。奴は風だ。早く速く追い付かなかった。地上の重力がある以上限界を感じていたんだ。だが我も遊んでいた訳では無い。日々鍛錬に明け暮れ、自分を信じて来た)
ブワッと身体中の漆黒の艶毛を逆立て熱を闘気に替える。その内更にシャザの手数が増え徐々にビーストールの周りが血の飛沫で赤く染まって行った。
巨大な爪は7本無くなり、指が3本にまで減る。サイの様な固い鱗は白い身を曝け出し、象の様な巨体が削られて行く。
『グッッ!ウゥゥーーーー!おのれぇーっ!」
ビーストールはその巨大な尾を地面にズドンと叩き付け、身体を後方に飛び上がらせ地を揺らす。
『黒豹ーー!人型を削ったくらいで勝った気になるなよ!我は獣人神!2万2千種の、王である!!』
そうビーストールが叫んだ瞬間、身体がブワァァァァァァァと膨れ出す。茶色、白、黒、灰色に黄色や赤など、様々な毛色が身体から延び始め、何十と言う大きな目が顔の至る所にポコポコ湧き出した。口は鼻の下全てを占め、無数の鋭い分厚い牙で埋め尽くされている。まるで見た目はフクロウの様に首が無く巨大な丸い頭が乗る。だがその身体からは長く分厚い4本の脚が生えていた。そして大蛇の様なトグロを巻く尾。醜悪な怪物がシャザの前に姿を晒す。
「ーーーーっ!何だ.........これはっ!」
それは、過去取り込んで来た獣の特性を全て集めた姿だった。
****
アウィンは唯ひたすらに大きな黒く雲を作り続ける。
「.........後.........少し.........」
この天界に自然系の神族は4つ。
火、土、水、風。
技を組み合わせる事など今まで無かった。いや、出来ない。其々に神がいるからだ。だが、実際には地上の人々の暮らしの中でも火や水は合わせて使い、緑を育てるには土と水がいる様に組み合わせて1つになるモノだ。
アウィンは風の子。そしてランドールは水の母を持っていた。授かった力は合わさる事でより大きな力を作る。
「! 何だあれ!?」
ビーストールの膨れて行く身体は巨大で、上空に居るアウィンからも目視出来た。
「くっ!急がないと!もっと速く、もっと巨大に......チャンスは1度だ!やはり2つの属性を組み合わせるのは思った以上に力を使う....サラから貰った神力が尽きる前に.........」
轟々と天界の空を埋め尽くすかの様な黒い雲。その中に蠢く無数の音。
「.........よし.........来たな.........」
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醜悪な姿を曝け出しビーストールがシャザに向かい腕を振り回していた。レイピアで斬る度にそれは弾け飛ぶが、一瞬でまた生えて来る。速度も重さも先程とは段違いだ。まるで鋭利なカマイタチの中で踊る様にシャザはレイピアを繰り出し応戦している。時折防ぎ切れずに胴や脚を掠め切られて赤く染まる。長い深い緑の髪は飾りごと切り取られ弾け飛んで行く。紅い胸までの甲冑も既に何処かへ飛んで行ってしまった。
だが音速にも近いこの攻防でもシャザは引かず、絶望せず、唯真っ直ぐに向かい合い、己の身体全てを使い剣技を繰り出す。
彼は理解していた。一瞬の隙こそが勝敗を決める剣士の戦い。だがそれと同時に強い相手と戦う喜びが彼を支配していたのだ。
一気に4本の手を斬り離し、ビーストールの牙を上1列横に垂直に斬る。ボロボロと溢れる牙をパシッと掴み目玉に突き刺した。クルリと身体を回転させそのまま巨大な頭を削ぐ。中にはとぐろを巻いた大蛇がギッシリ詰まっていて、シャザ目掛け牙を向け飛び掛かって来るが、シュンッと繰り出した一振りで弾け飛んだ。
グォーーと一鳴きしたビーストールの尾がグルグルと振り回し、煩いハエをはたき落とすかの様に無作為に振り回される。
辺りは砕かれた岩とビーストールの無数の肉の残骸が散り、砂埃と粉塵が舞っている。
だがそれは神との戦いと言うよりも、壊れた野獣との討伐戦に見えた。
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