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第六章 「精算」と「真相」

108.を....奴には絶対渡さない

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「サラァーーーーーーーーー!!」

 ビーストールはサラを掴んだまま再び闘技場の地に轟音を鳴らし脚を着いた。

『まだ覚醒していない女神。初心だったルナには劣るがまあ、良い。すぐ番にしてやる。地上に降りても良いな。新たな楽園を築いてやろう』
『神の力を持ったまま地上に留まればその世界は壊れる。まずは力の根源を消滅させよう』
『やってみるが良い。この女神も道連れだ。大人しくしておけ審判神。我に手を出せば.........握り潰すのが先か競ってみるか?』
『.........下衆だな』

 跳躍し、コロシアムから逃げ出そうとするビーストールを阻んだのは闇の神だった。外に繋がる空間を全て閉じたのだ。

『.........よさぬか。空けろ』
『.........私の娘.......ルナを手籠にしておいて.........命を奪ったのはお前だ。私自ら裁きを与えてやる』
『我が手を下したのでは無い。勝手に《無機》に飛び込んだのだ。.........そうそう、知っておったか?この娘.........ルナの過去世を持っておるぞ?』
『な!!何だと!』
『良いのか?握り潰しても。なら構わぬよ、やってみせよ。ふふふふっ出来ぬであろう?さあ、道を開け!』

 ギギッとサラの首に奴太い指が巻き付き締め上げる。ゴボッとえずくサラ。

『ルナ!』

 慌てる闇の神。

「サラ!」

 俺はギッと歯を噛み締めた。このままではいけない!だが俺にはまだ手枷が.........いや、そんな事言ってる場合じゃ無い!

「爺さん!!」
「!? は、はい!」

「...風で俺の手首を切り落とせ!」
「は?」
「早くしろ!枷に傷は付けるなよ?捕まるぞ」
「ア、アウィン.........っ」
「サラを.........奴には絶対渡さない。頼む、爺さん」
「ーーーーっ相手は神だよ?~~っ馬鹿だね、うちの当主はっっ!」


 そう言って

 爺さんは俺の腕から手枷が付いた手首を風で切り落とした。
 ゴトンッと手枷諸共地に落ちる。パッと血が吹き出したが同時に俺の周りに風が戻って来る。

「ぐぅーーーっ。っすま、ない。ありが、とう」

 痛みに耐えながら風で傷口に蓋をする。するとヤマアラシが俺に目掛け走り込んで来た。

「おい!これ使え!」

 そう言って差し出したのはあのレイピアだ。

「.........でも親父さんの形見だろ?アレが相手じゃ壊れるかも知れないぜ?」
「構わない。俺の親父は鍛冶職人だった。そして.........豊穣の女神の眷属の雌牛の夫だったあのノーザスだ。この剣はきっとお前に渡る様に俺を導いたんだよ。俺は剣士じゃ無い。だが何故かこのトーナメント戦で仇を取ろうと思った。俺は親父と同じ鍛冶職人なのにな」
「.........そうか.........分かった。借りるよ。じゃあ、ミル様の兄さんだな。どうだ?俺の妻は綺麗で可愛いだろ?」
「.........ああ。最高だな。羨ましいよ」
「ふふ。だろ?さあぁ、迎えに行って来るわ!」

 シュッと風に身体を変えレイピアを伴いビーストールを追う。


 サラ.........サラ.........

 もしかしたら無駄な事なのかも知れない。でもな、俺はお前の夫なんだよ。例え命が尽きようとも最後はお前を護って腕に掻き抱いて死にたい。
 ランドールも.........そう願ってる。



 闇の神の塞いだ道を解放したその瞬間
 俺はレイピアを風で操りビーストールの腕を縦に垂直に斬った。
 レイピアは音も無く奴の手首を切り離す。やはりこの剣は普通では無い。神をも切れる!
 そのまま切り落とした手首に掴まれていたサラを風で攫い上空へ投げ上げた。
 ふわっと浮く肩までのシフォンが付いたノースリーブの白いドレスを着たサラを人型に戻り抱き抱える。手首は無いが今度は腕は有る。やっと彼女を胸に抱けた。

「サラ!無事か?」
「.........アウィン.........っ!手.........!」

 今はどちらだろう。.........いや、もう良い。無事ならもう.........良いんだ。

『おのれ~小童!やりおったな!!』

 ギラリと俺を睨みつけ飛び掛かろうとするビーストールをなんとか避ける。早いっ!サラを抱えては戦えない!

「サラ、風の父にお前を預ける。すまんが待っててくれ」
「アウィン!」

 ヒュッと風の父ウィンドルザークの前へ飛ぶ。

「父よ。サラを頼みます。奴はまたサラを取り戻しに来る。いや、ルナを」
『アウィン.........お前は.........』
「私は.........ランドールの過去世を持っているのです。操られたこの過去、精算して参ります」

『! ーーっランドール!持って行け!』

 ガシッと俺の腕を掴む風の父神。腕がカアァッと熱くなる。

「父上.........」
『いつかお前の為に解放する筈だった風だ。存分に使うが良い』
「.........はい!」

 横から更に細い手が延びもう一方の腕を掴んだ。
「は、母上.........」

 水の女神が泣きながら言う。

『わ.........わたくしも.........貴方に力を授けます。ランドール.........っ帰って来て!』

 今度は少し冷たい穏やかな力だった。

「必ず」

 サラを預け直ぐに踵を返し襲って来るビーストールをドバンッと風で押し上げる。

『グオオオオーーーーッッ』
「ぐぅぅーーーーっ!!」

 この神族と神がひしめくコロシアムでは戦えない!ならば何も無い場所まで吹き飛ばす!
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