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第六章 「精算」と「真相」

107.まさか....全て仕組まれていた?

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 その後も次々と獣人神の悪行が絵になって行く。豊穣の女神の眷属の雌牛を強姦したり他の女神を誘惑したり男神を騙したり。

 こいつ何がしたいんだよ.........本当に神なのか?


『これは何の真似だ』

 そう呻く様に獣人神が話出した。それを受け審判神がゆっくりと返す。

『先程貴殿に起訴が立った。罪状が多過ぎてどれにするか困ったものだよ。だがまずは始まりから.........。獣人神ビーストール。審判神の名の下に貴殿をこの場に召喚する。起訴内容は.........《番の匂いを操り幾多の罪の無い者達を翻弄させ、未来を狂わせ消滅を選ばせた》最も卑劣な2件を対象とする』

 その瞬間ビーストールの身体が第1闘技場にフッと移動され、その腕に鎖が繋がれようとされる。だが、それを跳ね除けビーストールは立ち上がった。

『神に鎖を繋ぐとは恥を知れ』
『例え神でも起訴が立った以上私の前では被告人だ。大人しくしてもらおうか』
『番の匂いは確かに我の能力の1つだが過去に審議を受け許可を下されている。何ら可笑しな事では無い。それによって未来が変わるのは我の所為では無い』
『ほう.........だがその審議はたった29年前の事だ。その時の記録は恋焦がれていた豊穣の女神の眷属の雌牛と番になりたいが為に能力を開発した、とある。だが実際はもっと前。それこそ300年前には既にその力は有った様だな』

 手元の本をペラッと捲りながらそう言い放つ審判神。

 え?つまり.........こいつは匂いを操って女に手を出していた、と?え?じゃあ強姦なんてなんでしたんだよ?

『本来この様な能力は神として認められない筈だが、薬と併せて取り込む事で完成させた。所謂擬似の薬効とでも言うか。愚かな事だ。そんな事をせずとも相手はいた筈だ』
『.................』
『私に嘘偽りは通用しない。ではまず月の光の女神ルナに対する罪状からだ』
『責任は取るつもりだった。次の日には迎えに行くと伝えた。だがあの娘は自ら命を捨てたのだ。我の所為では無い』
『それを決めるのは真実だけだ。それに事はもう少し前からであろう?なあ、ビーストールよ』
『.........っ!』
『地上で.........拐かした娘を風の子ランドールの番に仕立てた。其処からだな』

「は!?」

 絵が次々と流れて行く。地上で1人の娘を拐かし天界に戻る姿。娘を泉に浮かしている獣人神。それを見つけるランドールとルナ。

「まさか.........全て仕組まれていた?何故.........」

 俺は獣人神の巨大な背中を唯見つめる。

『ルナは美しい女神だった。何度も求婚したのだがな、闇の神に隠された。夜の女神に姿を見せられなくされた。そしていつしか風の息子に盗られていた。許せる筈があるまい。本来我の物になる筈だったのだ!婚姻する前に手を打っただけだ! 事前に番を作ってやったでは無いか。文句を言われる筋合いは無い!』


 な.........何だ?何言ってるんだ.........こいつ本当に神か?危険過ぎるだろ.........

 その時、コロシアムの空が黒く闇に覆われ始めた。風がビリビリと震え出す。ハッとして風の父を見上げた。眉間に皺が!あの父が怒っているのだ。おそらく闇も夜の女神も.........水の母も.........

 ここは.........危険だ!


『審議はまだ途中である。後1つ。罪状はほぼ同じだ。豊穣の女神の眷属である雌牛を番にした。だが、雌牛には既に番では無いが夫と子が居たな。盟約では番が居た場合、相手の強い意志と別れる相手の同意が要るとした。.........どちらも守られていない様だが?』
『手を出したので責任を取っただけだ。神の我の妻に迎えたのだ。何が不満なのだ?』
『.................雌牛の相手は......確かに神族だ。神では無い。だが婚姻宣誓証を出し正当な手続きを行った夫婦の仲を割き、自分本位な正当性を曝けるとは....身勝手な事この上無い。雌牛の夫は悲観して自ら命を絶ってしまったと言うのにだ。死を選ぶ程愛する者を奪われた悔しさを貴殿は身を持って受けなければならない。それが神であろうとも』
『くだらん!こんなくだらん審議は無用だ!力の無い奴が神である我に平伏すべきであろう!自分勝手で何が悪い。此処に集まる神共は清廉潔白だとでも言うのか!我を審議するのであれば此奴らも同罪だ!』
『愚かなる事。確かに審議を行うまでも無い。お前は神の質では無い。私は審判神レフリアーノ。全神の審判者であり、創造神ナイの代弁者。獣人ビーストールを.........』

 その刹那、ビーストールが地を蹴り真っ直ぐ跳躍する。手を延ばし鷲掴んだそれは


 白く輝く美しい白銀の髪を靡かせ
 アーモンド型の太陽の瞳を持つ
 ルナに似た華の様な可憐な女


 俺の妻、小さなサラが身体ごと掴まれていたのだ。
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