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第四章 「後悔」と「過去世」
80.止められないんじゃ無いか?
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「ダメだったか.........」
シャザが呻く様に呟く。
「.................皇子も良い動きしてたよ。危機回避能力が高いんだろう。独特のネコ科の柔軟性の有る身のこなしは顔は人間だけどやっぱり獅子なんだな。カンガルーの脚で蹴られる瞬間床を蹴って力を逸らしてた。戦い慣れてるよ」
「そうだな。やっぱり止めておけば良かった」
「一応ミル様も剣士だろ?止められないんじゃ無いか?」
「それでも我が夫なら力尽くで止めていた」
「.........そっか」 ふふっと笑う。
俺を嫉妬深い支配欲丸出しの人間だと笑ったが、お前も大概人間だよ、シャザ。
皇子の長剣がヒュッと空を切り、左側面から斜めに構えられる。ミル様にトドメを刺すつもりの様だ。ミル様は.........目を瞑っている................諦めたか。
ーーん?
「シャザ、動くなよ」
俺は咄嗟にシャザに一声掛ける。グッと揺れる黒い顔。
皇子の剣が下に振り下ろされる瞬間、カッと見開いたミル様の瞳は正気の光が有った。
レイピアを斜めに構えた腕はゴリラの腕。ガアンッと衝撃を受け剣先を逸らしながら変形していく血塗れの右腕。皇子の首から肩、左腕、胸を覆う様に被さり先がバクリと二つに分かれ噛み付いたそれは.........
カバの顔だった。
バクンッと甲冑の上から噛み付いた歯がギシギシと音を立てて皇子に喰らい付く。
「ーーっ! フッ。腕から顔ですか.........往生際が悪いですね、ミル姫。私の甲冑は動物の歯では壊せませんよ?さっさと投降して下さい」
「.........歯だけじゃないわよ」
「ん?」
「.........顎もよ」
ミシ.........ミシ.........と音を立て始める甲冑。
「!!」
「私の【加護】の一つにね、あるのよ。命の危険がある時に使うやつ。捕まえられて良かったわ。」
皇子を下から目だけで見据えニヤリと笑う。
「このっーーーっ!」
忌々しそうに長剣を持つ右腕に力を込める皇子。だが引けばゴリラの腕で持つレイピアが振り降ろされる。やはりあのレイピア.........特別製なんだろうな。折れる様子が見られないし。
「さあ、私を受け止めて。この最悪の【加護】を」
ミル様の腕先のカバの口が甲冑を押し潰しながら次第に閉じて行く。
「.........『10倍返し』よ」
「や.........止めろ!早く死ね!クソ女!!離せ!この牛がぁぁ!!」
ギギギ、ギシギシ.........ボリンッと固い物が砕ける音が響く。
「.........あら、汚い言葉。情け無いわね。最後まで高貴でいなさいよ。皇子なんでしょ?」
毅然とした声で言い返してはいるが、ミル様ももう顔の色が無くなっていた。脂汗が滴り落ちている。毒は回っているようだが.........凄いな、腹座ってるわ。
【加護】って言ってた。つまり命の危険がある時にしか発動しないって事かな?そりゃシャザも知らない訳だ。
「ミル姫っ.........」シャザが唸る。
「.........耐え抜いた方が勝ち、か」
毒が先か、押し潰されるのが先か。
「ぐあぁぁぁーーーーーーー!!」
皇子が雄叫びをあげて再度獅子の姿に変身する様だ。
ミル様が変化してそろそろ3分。
フッとゴリラの腕が元に戻り女の白い左腕が現れる。その途端、レイピアごと長剣がミル様の首筋にまで迫って来る。
.......ダメだな。時間切れだ。
バキン.........
「ぐぅぅーーーーー!こっ.........がぁっ!ああ!!」
皇子の苦痛に歪む顔と声。
カバの顎の力はワニにも勝る。唯閉じるだけでも何トンもの力があるのだ。牙も長い。皇子の甲冑がどれ程特別な物でも物質で形ある以上、圧の影響は有るだろう。壊れはしないかも知れないが.........一枚板で無いなら重ねた隙間から圧がのし掛かる。カバを選んだ時点で多分ミル様も分かっている筈だ。成る程、様子見とは良く言ったものだ。だが.........
ミル様の首元にまでレイピアが押し戻され、刃が擦れ血が滴り、後一押しで逃げ場が無くなる、その時、皇子が一瞬剣を引いた。痛みに耐えられなかったのか、カバの顔が出ている右腕に長剣を擦らして刃を切り付けた。ミル様の右腕の根元に当てられ、そのまま力尽くで斬り落とされる。レイピアは皇子の首元の甲冑にカアンッと当たるが皇子に傷は付いていない。
後方に飛び退いた皇子の肩には切り離されたカバの顔が張り付いている。
ミル様の肩口からは血が吹き出し、足元の土床が黒く染まって行った。皇子がよろめきながらカバの顔を外そうとしているが不思議とビクともしない。切り離された腕は元に戻らないのか?
いや、そうか。【加護】と言っていたからには.........
「10倍.........返すまでは.........離れない.........わ、よ」
「この.........アマ.........ふざけた真似....を.....ぐぅぅ.........っ死ね!」
ミル様に向かって走り出した皇子の長剣が振り降ろされる。もう、避け切れないだろう、な。
即死で無ければ.........良いんだが.........あ.........
ガ....ンッ!!
硬い音が鳴り響く。
「.........はは」
音がした目線の先には
黒い顔の2メートルを越すデカイ獣人が
牛の角を持つ美しい姫を攫うように片手で抱き抱え
皇子の長剣をその湾刀で事もなげに打ち払い、背を伸ばし立っていた。
シャザが呻く様に呟く。
「.................皇子も良い動きしてたよ。危機回避能力が高いんだろう。独特のネコ科の柔軟性の有る身のこなしは顔は人間だけどやっぱり獅子なんだな。カンガルーの脚で蹴られる瞬間床を蹴って力を逸らしてた。戦い慣れてるよ」
「そうだな。やっぱり止めておけば良かった」
「一応ミル様も剣士だろ?止められないんじゃ無いか?」
「それでも我が夫なら力尽くで止めていた」
「.........そっか」 ふふっと笑う。
俺を嫉妬深い支配欲丸出しの人間だと笑ったが、お前も大概人間だよ、シャザ。
皇子の長剣がヒュッと空を切り、左側面から斜めに構えられる。ミル様にトドメを刺すつもりの様だ。ミル様は.........目を瞑っている................諦めたか。
ーーん?
「シャザ、動くなよ」
俺は咄嗟にシャザに一声掛ける。グッと揺れる黒い顔。
皇子の剣が下に振り下ろされる瞬間、カッと見開いたミル様の瞳は正気の光が有った。
レイピアを斜めに構えた腕はゴリラの腕。ガアンッと衝撃を受け剣先を逸らしながら変形していく血塗れの右腕。皇子の首から肩、左腕、胸を覆う様に被さり先がバクリと二つに分かれ噛み付いたそれは.........
カバの顔だった。
バクンッと甲冑の上から噛み付いた歯がギシギシと音を立てて皇子に喰らい付く。
「ーーっ! フッ。腕から顔ですか.........往生際が悪いですね、ミル姫。私の甲冑は動物の歯では壊せませんよ?さっさと投降して下さい」
「.........歯だけじゃないわよ」
「ん?」
「.........顎もよ」
ミシ.........ミシ.........と音を立て始める甲冑。
「!!」
「私の【加護】の一つにね、あるのよ。命の危険がある時に使うやつ。捕まえられて良かったわ。」
皇子を下から目だけで見据えニヤリと笑う。
「このっーーーっ!」
忌々しそうに長剣を持つ右腕に力を込める皇子。だが引けばゴリラの腕で持つレイピアが振り降ろされる。やはりあのレイピア.........特別製なんだろうな。折れる様子が見られないし。
「さあ、私を受け止めて。この最悪の【加護】を」
ミル様の腕先のカバの口が甲冑を押し潰しながら次第に閉じて行く。
「.........『10倍返し』よ」
「や.........止めろ!早く死ね!クソ女!!離せ!この牛がぁぁ!!」
ギギギ、ギシギシ.........ボリンッと固い物が砕ける音が響く。
「.........あら、汚い言葉。情け無いわね。最後まで高貴でいなさいよ。皇子なんでしょ?」
毅然とした声で言い返してはいるが、ミル様ももう顔の色が無くなっていた。脂汗が滴り落ちている。毒は回っているようだが.........凄いな、腹座ってるわ。
【加護】って言ってた。つまり命の危険がある時にしか発動しないって事かな?そりゃシャザも知らない訳だ。
「ミル姫っ.........」シャザが唸る。
「.........耐え抜いた方が勝ち、か」
毒が先か、押し潰されるのが先か。
「ぐあぁぁぁーーーーーーー!!」
皇子が雄叫びをあげて再度獅子の姿に変身する様だ。
ミル様が変化してそろそろ3分。
フッとゴリラの腕が元に戻り女の白い左腕が現れる。その途端、レイピアごと長剣がミル様の首筋にまで迫って来る。
.......ダメだな。時間切れだ。
バキン.........
「ぐぅぅーーーーー!こっ.........がぁっ!ああ!!」
皇子の苦痛に歪む顔と声。
カバの顎の力はワニにも勝る。唯閉じるだけでも何トンもの力があるのだ。牙も長い。皇子の甲冑がどれ程特別な物でも物質で形ある以上、圧の影響は有るだろう。壊れはしないかも知れないが.........一枚板で無いなら重ねた隙間から圧がのし掛かる。カバを選んだ時点で多分ミル様も分かっている筈だ。成る程、様子見とは良く言ったものだ。だが.........
ミル様の首元にまでレイピアが押し戻され、刃が擦れ血が滴り、後一押しで逃げ場が無くなる、その時、皇子が一瞬剣を引いた。痛みに耐えられなかったのか、カバの顔が出ている右腕に長剣を擦らして刃を切り付けた。ミル様の右腕の根元に当てられ、そのまま力尽くで斬り落とされる。レイピアは皇子の首元の甲冑にカアンッと当たるが皇子に傷は付いていない。
後方に飛び退いた皇子の肩には切り離されたカバの顔が張り付いている。
ミル様の肩口からは血が吹き出し、足元の土床が黒く染まって行った。皇子がよろめきながらカバの顔を外そうとしているが不思議とビクともしない。切り離された腕は元に戻らないのか?
いや、そうか。【加護】と言っていたからには.........
「10倍.........返すまでは.........離れない.........わ、よ」
「この.........アマ.........ふざけた真似....を.....ぐぅぅ.........っ死ね!」
ミル様に向かって走り出した皇子の長剣が振り降ろされる。もう、避け切れないだろう、な。
即死で無ければ.........良いんだが.........あ.........
ガ....ンッ!!
硬い音が鳴り響く。
「.........はは」
音がした目線の先には
黒い顔の2メートルを越すデカイ獣人が
牛の角を持つ美しい姫を攫うように片手で抱き抱え
皇子の長剣をその湾刀で事もなげに打ち払い、背を伸ばし立っていた。
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