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第二章 「天界」と「女神」

32.依代?

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「.........えらく簡単に引き下がったな」
『様子見であろう』
「まだ何か用事があるって事ですか?」
『数百年ぶりの女神の誕生だ。時代を追う毎に産まれにくくなっているからな。女神の魂に耐え得るだけの美しい依代になる魂が存在しにくくなったと言う事だ』
「依代?父よ、もし、女神が覚醒したら.........サラは.........サラじゃなくなる.........そうなんですか?」
『判らん。女神が何を望むのかによる』
「.................サラ」
『女神が生まれると言う事は、しばらく混乱が続くだろう。本来ならもう少し幼い時に発覚するものなんだがな。内から湧き出る女神のその力を抑えきれないのだ。よくこの歳まで持った事だ』
「私にも解りません。結婚するまでは普通の人間だと思っていましたから。ただ.........サラが月に一度パイを焼いてくれて。【魅了】は解りませんが.........力が湧きました。6年もの間私にだけ焼いてくれたパイでしたから。苦しいくらい愛しさが募りましたね」
『.................それだな』
「.........え?」
『女神の力がそれに込められていたのだろう。決まった事を毎月行い、溜まった力をそれに無意識に排出していたんだな。ある意味儀式の様に。アウィンが【魅了】に気づかなかったのは既に愛していたからだ。しかし「番」であるあの子相手に良く今まで我慢出来たものだ。本能よりも理性が勝つとは.........【癒し】は感じなかったか?』
「.................サラの存在自体いつも私の【癒し】でしたから」
ふふっと笑う。

『一途だな。意志が強靭だ。風の性質では無い。だがそれも良い。これも何かの前触れかも知れん』
「.........」

 キュッと胸を掴む。そうでは無い。手に入れたいと思う度に胸が苦しくて。.........悲しくなった。その気持ちに混乱していたんだ。まるで.........


「アウィンー!獣人の神様の所に行くー?」

 サラが査問隊の見送りから戻って来て大扉から顔を出す。

「ああ。行こうか。では、父よ。行ってまいります。それと、爺さんが来てるんですが別行動します。また、女に溺れて婆さんを怒らせたみたいで。しばらく帰れないみたいです」
『あやつは完全に風.........いやそう言う性質だな。楽しい奴だ』
「いや、ただのエロジジイですから。それでは失礼します」


 まるで.........


 俺は踵を返し大扉へ向かいゆっくりと歩く。
 遠く扉から覗くサラの大きなアーモンド型の瞳を見る。可愛いなぁもう。

 愛しい

 それとは別の感情。

 愛しいけど悲しい

 ずっと俺の足を止めていたこの感情。
 天界に来てから益々強くなってきていた。

 それはまるで.........




 素直になれない踏み出せない。
 抱き締めたいのに出来なくて。
 そんな誰かが..............

 俺の中.........2人分の心が有るようだった。


 ************


 先程、審判の女が開けた空間から微かなつぶやきが聞こえる。

『.........君.........待っ.........いた。やっと.........えって来たな.........私の.........がい』
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