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第一章 「番」と「想い」
2.やり直しするぞ!
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サラは月に一度自分が焼いたパイを持って俺に会いに来る。
子供の頃に初めて作ったレモンパイに俺が文句を言ったから。甘味が少なくて酸っぱくて、焼き過ぎて固くなってた。俺も大人げなく素直に感想を言ってしまった。「不味くて食べられない」ってな。しばらく泣いて部屋に閉じこもってたらしく、あいつの姉に怒られたっけ。
それからサラはパイ作りにのめり込んだ。まあ、それ以外のお菓子や料理も挑戦してて、今じゃプロ並みに旨くて美しい物が作れてる。
月に一度.................欠かさず持って来るようになって。
何年過ぎたのか。とうとう今日で終わり。そう告げられた。
俺はサラの作ったチェリーパイを一口摘む。
「本当...上手くなったよな。確かに絶品だよ、サラ。少し酸味があって......クリームが俺好みだ」
俺の好きな味。お前は俺の為に研究したんだろ?
馬鹿だな.......。最後まで何にも言わず。まあ、サラらしいけど。こちらの事も考えずグイグイ押して来る女共とは違う。お前はいつだって控えめで、それでいて俺の胸にヒリヒリした何かを植え付けて行くんだ。いや、この気持ちが何なのか。俺はとっくの昔に知っている。
だが...............
「俺は熟女が好きなんだよ。妖艶な女が好きなんだ。胸の谷間が深い腰がくびれたそれでいて尻の大きい美しい女がな。.................理想とかけ離れてる」
***********
サラの結婚式当日
領地内にある小さな教会で簡単な宣誓式をする。サラの子爵家は貧乏だ。父は領地経営があまり得意では無い。先祖から受け継いできた小さな領地も下手をすれば手放すギリギリのところまで来ていた。最近では父の子爵は屋敷から余り外に出なくなり、経営も人任せにする事が殆どだ。利権もほぼ管財人に掌握されてしまっている。名ばかりの領主になり下っていた。今更娘の婿に領地を引き渡したとしても、もう遅い。だが、不思議な事にサラには縁談を持って来る。つまり、まともじゃ無い相手だって事だ。
俺は馬車で教会まで来た。こじんまりとした小さな教会。招待客は居ない。これはサラの為だけにする宣誓式だからだ。サラが納得する為だけの。きっとこれで全てを諦める。仕方の無い奴だ。
俺は少し教会の外観を眺めた後、教会の中に入る為に歩いて行く。教会の周りには何も飾り付けされておらず、ここで今日何か行われるのか不思議な程だ。扉に手を掛けゆっくり開く。誰も開いてはくれない。ギイィと重い音を鳴らして開いた正面には.......
ただ1人で佇む白いウエディングドレスを着たサラが光の降り注ぐ中天井付近にある小さなステンドガラスを見上げていた。
「......サラ......何してんだ」
俺はサラの後ろ姿を見ながら聞く。
「.............ごめんなさい、アウィン。また、逃げられちゃった」
サラは振り向きもせず、答えた。
「....そうか。今度は何の理由?」
俺はゆっくりとサラの居る宣言台に向かって歩いて行く。
「病気になったんだって。後、父様も昨日外出先で倒れて.....今診療所に居るの。眠ったままで目を覚さないから私だけでも式を挙げようとしたんだけど、今日朝にね、相手の方から使者が来て」
「.................サラ」
「ごめんね。アウィン。ごめんなさい。わざわざ来てくれたのに。どうか、このまま帰って。そして、私の事は忘れて。」
「.................」
「きっと私は不幸を呼ぶんだわ。存在してはいけないみたい。此処から離れるわ。いずれこの領地は没収されるでしょう。私に知恵があれば........努力していれば良かった。結局人任せにしたのよね。罰が当たっても仕方ないの。えっとほら、いつか海を見たいって言ってたでしょう?だからそこまで行ってみる」
「その後は?」
「.................」
「サラ。こっち向けよ」
「.................顔は見ないで。私の事は忘れてアウィン。このまま......見ないで帰って。あなたの記憶から消し去って」
「サラ」
「忘れて。お、ね........がい」
サラの小さな肩が震えてる。馬鹿だな。忘れろとか。無茶言うよ。
俺はズカズカと数段の階段を上りサラの背後まで近づいた。
「サラ....海見たらそのまま死ぬつもりか?馬鹿だな。溺死は苦しいらしいぞ。死体もガスが出てブクブクに膨れて醜いらしいし。お前20歳だぞ?なんでそんな死に方しないとダメなんだよ。本当昔から馬鹿なんだから」
「......アウィン....」
「死ぬ気が有るなら.......言えるだろ?俺に」
サラはビクリとして固まる。
「俺にして欲しい事.................あるだろ?」
「.................っな、いわ。無い。何も無いわ。だから忘れて。そう、あなたにして欲しい事は.....私を忘れて欲しい事だけよ」
「........ふう。.......分かった。もう良いわ」
俺は前髪をかき揚げため息を着いた。
「..........さよなら.......アウィン。幸せになってね」
「ああ。そうするよ。俺は欲しいモノは必ず手に入れる。汚い真似も平気だ。目的の為なら時間だって掛ける。何年でもな。その為なら.................周りを全て壊しても構わない」
俺はそう言うとサラの身体を後ろから横抱きにして抱え上げ踵を返す。突然抱えられたサラの顔は驚きで固まる。涙で濡れて目は真っ赤だ。大きなアーモンド型のオレンジが露を零しながら俺を見上げた。
「.................!あ、アウィン何?」
「やり直しだよ。急ぐぞ」
「え?やり直し?何を?」
「折角待ってやったのに。全くお前は素直じゃ無い。ガキっぽいし、尻も小さいままだし。いつまで経っても俺好みにならん!」
「へ?」
俺は扉の前まで来ると右足で扉を蹴り開けた。
そのまま馬車にサラを押し込み俺も乗り込んで出発させる。
サラは呆然と俺を見て小さな口を開けていた。
子供の頃に初めて作ったレモンパイに俺が文句を言ったから。甘味が少なくて酸っぱくて、焼き過ぎて固くなってた。俺も大人げなく素直に感想を言ってしまった。「不味くて食べられない」ってな。しばらく泣いて部屋に閉じこもってたらしく、あいつの姉に怒られたっけ。
それからサラはパイ作りにのめり込んだ。まあ、それ以外のお菓子や料理も挑戦してて、今じゃプロ並みに旨くて美しい物が作れてる。
月に一度.................欠かさず持って来るようになって。
何年過ぎたのか。とうとう今日で終わり。そう告げられた。
俺はサラの作ったチェリーパイを一口摘む。
「本当...上手くなったよな。確かに絶品だよ、サラ。少し酸味があって......クリームが俺好みだ」
俺の好きな味。お前は俺の為に研究したんだろ?
馬鹿だな.......。最後まで何にも言わず。まあ、サラらしいけど。こちらの事も考えずグイグイ押して来る女共とは違う。お前はいつだって控えめで、それでいて俺の胸にヒリヒリした何かを植え付けて行くんだ。いや、この気持ちが何なのか。俺はとっくの昔に知っている。
だが...............
「俺は熟女が好きなんだよ。妖艶な女が好きなんだ。胸の谷間が深い腰がくびれたそれでいて尻の大きい美しい女がな。.................理想とかけ離れてる」
***********
サラの結婚式当日
領地内にある小さな教会で簡単な宣誓式をする。サラの子爵家は貧乏だ。父は領地経営があまり得意では無い。先祖から受け継いできた小さな領地も下手をすれば手放すギリギリのところまで来ていた。最近では父の子爵は屋敷から余り外に出なくなり、経営も人任せにする事が殆どだ。利権もほぼ管財人に掌握されてしまっている。名ばかりの領主になり下っていた。今更娘の婿に領地を引き渡したとしても、もう遅い。だが、不思議な事にサラには縁談を持って来る。つまり、まともじゃ無い相手だって事だ。
俺は馬車で教会まで来た。こじんまりとした小さな教会。招待客は居ない。これはサラの為だけにする宣誓式だからだ。サラが納得する為だけの。きっとこれで全てを諦める。仕方の無い奴だ。
俺は少し教会の外観を眺めた後、教会の中に入る為に歩いて行く。教会の周りには何も飾り付けされておらず、ここで今日何か行われるのか不思議な程だ。扉に手を掛けゆっくり開く。誰も開いてはくれない。ギイィと重い音を鳴らして開いた正面には.......
ただ1人で佇む白いウエディングドレスを着たサラが光の降り注ぐ中天井付近にある小さなステンドガラスを見上げていた。
「......サラ......何してんだ」
俺はサラの後ろ姿を見ながら聞く。
「.............ごめんなさい、アウィン。また、逃げられちゃった」
サラは振り向きもせず、答えた。
「....そうか。今度は何の理由?」
俺はゆっくりとサラの居る宣言台に向かって歩いて行く。
「病気になったんだって。後、父様も昨日外出先で倒れて.....今診療所に居るの。眠ったままで目を覚さないから私だけでも式を挙げようとしたんだけど、今日朝にね、相手の方から使者が来て」
「.................サラ」
「ごめんね。アウィン。ごめんなさい。わざわざ来てくれたのに。どうか、このまま帰って。そして、私の事は忘れて。」
「.................」
「きっと私は不幸を呼ぶんだわ。存在してはいけないみたい。此処から離れるわ。いずれこの領地は没収されるでしょう。私に知恵があれば........努力していれば良かった。結局人任せにしたのよね。罰が当たっても仕方ないの。えっとほら、いつか海を見たいって言ってたでしょう?だからそこまで行ってみる」
「その後は?」
「.................」
「サラ。こっち向けよ」
「.................顔は見ないで。私の事は忘れてアウィン。このまま......見ないで帰って。あなたの記憶から消し去って」
「サラ」
「忘れて。お、ね........がい」
サラの小さな肩が震えてる。馬鹿だな。忘れろとか。無茶言うよ。
俺はズカズカと数段の階段を上りサラの背後まで近づいた。
「サラ....海見たらそのまま死ぬつもりか?馬鹿だな。溺死は苦しいらしいぞ。死体もガスが出てブクブクに膨れて醜いらしいし。お前20歳だぞ?なんでそんな死に方しないとダメなんだよ。本当昔から馬鹿なんだから」
「......アウィン....」
「死ぬ気が有るなら.......言えるだろ?俺に」
サラはビクリとして固まる。
「俺にして欲しい事.................あるだろ?」
「.................っな、いわ。無い。何も無いわ。だから忘れて。そう、あなたにして欲しい事は.....私を忘れて欲しい事だけよ」
「........ふう。.......分かった。もう良いわ」
俺は前髪をかき揚げため息を着いた。
「..........さよなら.......アウィン。幸せになってね」
「ああ。そうするよ。俺は欲しいモノは必ず手に入れる。汚い真似も平気だ。目的の為なら時間だって掛ける。何年でもな。その為なら.................周りを全て壊しても構わない」
俺はそう言うとサラの身体を後ろから横抱きにして抱え上げ踵を返す。突然抱えられたサラの顔は驚きで固まる。涙で濡れて目は真っ赤だ。大きなアーモンド型のオレンジが露を零しながら俺を見上げた。
「.................!あ、アウィン何?」
「やり直しだよ。急ぐぞ」
「え?やり直し?何を?」
「折角待ってやったのに。全くお前は素直じゃ無い。ガキっぽいし、尻も小さいままだし。いつまで経っても俺好みにならん!」
「へ?」
俺は扉の前まで来ると右足で扉を蹴り開けた。
そのまま馬車にサラを押し込み俺も乗り込んで出発させる。
サラは呆然と俺を見て小さな口を開けていた。
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