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第三章 あなたの決意
気づかなければ良かった
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「植物?何するんだそんなもの」
「取り敢えずこの部屋にある植木鉢ここに持って来い。出来れば咲ききっていないやつが良い」
アリアの子供部屋には沢山の植木鉢が並んでいた。アリアはすでに動けない為に起き上がれた際景色だけでも楽しめるようにと王妃が色とりどりの花の鉢を運ばせたのだ。
「咲いてない花?分かった」
レジンは素直に沢山の鉢から花が開いていない分を選んでいる。その間にダヤンはミアに何かを伝え指示していた。
「これで良いか?」
レジンは四つの鉢をベッドの脇に置く。全て蕾のある鉢だ。
「ああ、ありがとうレジン。さあ…ミアやってみてくれ」
一見何も居ない空間にダヤンは話し掛けた。するとアリアの規則正しい動きを繰り返す小さな胸にミリアーナは手を置き呟いた。
『アリア様の魔力さん。余った分はこれからはお花へあげてください。きっと綺麗に咲きますわよ』
するとミリアーナの手から魔力がゆっくりとアリアの中に入って行く。そしてそれは体を巡りアリアの足の先を通り徐々に魔力が漏れ出しベッドを貫通して下へ下へと向かって流れ出ていく。
見えはしない。だが感じる。ダヤンはジッと床を眺めていた。じわじわと並べられた花に近づいてくる。弱々しい、だが水の流れのような澄んだ一本の線が植木鉢の一つに辿り着く。
「いけ…」
それはゆっくりと植木鉢を包みながら登り、土の中に吸い込まれそして茎がピクピクと波打って蕾がフルリと震え、ジワリと花弁が動いていった。
(やはりそうだったか…)
「えっ?なんだこれ?花が咲き始めたぞ!どうやって?ダヤン何かしたのか?」
「俺じゃないよミアさ。ミアの魔力がアリア王女の魔力に干渉して花の土に染み込むように導いた。アリア王女がちゃんと魔力の放出が自分で出来るようになれば収まるだろう。アリア王女の部屋にしばらく蕾のつく花の植木鉢置いとけ」
そう言って四つの鉢に咲き始める色とりどりの花をダヤンは何故か神妙な顔で眺める。
(これで問題解決になるのか?俺はどうすれば良い?)
ミア…ミリアーナ。
俺と出会わなければ君は怯えずに幸せに暮らして行けたのかな?自分の魔力の存在すら知らず誰かと恋をして家庭を作って子供を産んで…俺じゃない誰かと。
ミア…俺はどうしたら良いんだ…
君は
君は
あの聖女なのか………
****
古い文献に記してあったそれは遠い昔の話しで、まるでおとぎの世界の事のようだった。
まだ魔術などと呼ばれるものも無く、まだ誰も魔力の放出などで苦しんだりしていない弱い人達だけの世界。そんな世界に『聖女』と呼ばれる存在があった。
その女の子は幼い頃から花を愛し、植物の成長を促し、汚い土を綺麗にし、果ては癒しの力をも持っていた、とある。
彼女のいる土地は大変豊かで作物も天候にも関係無く育ち、害虫や病気の被害も無かったとされた。
ある日その力を我が物にしようとした大国が聖女を拐かそうとした。聖女を守る為人々は戦い沢山の弱い者達が儚くなっていった。それを悲しんだ聖女は、自分の持てる力を解放し自ら胸に刃物を突き立て自害したと言う。その聖女から流れた血はやがて大地に染み込み、その後には花が咲き乱れ、いつまでもいつまでも咲き続け、枯れて無くなる事は無かったと。そしてその土地は【とても綺麗な場所になった】と締めくくられていた。
これは《花の聖女》と言う悲しい女の子の作り話だと思っていた。
(ああ…なんであんな本読んだんだろ…昔の字で書いてあって、解読の術が少し使えるようになったからって調子に乗って古い本ばかり読んでた時期があった。見なきゃ良かった。覚えて無ければ良かった。いや違う。そうじゃない。だからなんだよ。聖女だからなんだって言うんだ。俺たち魔術師と何が違うんだよ。俺だって…解ってる。解っていたのかも知れない。俺は…知りたくなかったんだ。そうだ…彼女の魔力は大地そのものの力だ…ああ、なんで俺は気づいてしまったんだ)
ダヤンはゆっくりと頭をあげレジンに話し掛ける。
「取り敢えずは終わった。また後日経過の状況教えてくれ。今日は帰るよ」
「あ、ああ。ダヤン?どうした?なんか…」
「何でもない。いや、今は…ちゃんと整理してから伝える」
そう言うとダヤンは一瞬自分の手を見つめてからミリアーナを呼んだ。
「ミア帰ろう」
「はい、ダヤン様。ではレジン王子殿下失礼致しますわ。良かったですね!」
「ああ。ありがとう!ミリアーナ嬢。本当は抱き着いてキスをしたいところだが、全く見えないや。ははは」
「ふふっ」
「……」
「おい、ダヤン?」
「え?ああ。じゃあ行くな?またなレジン。ミア、手を」
ダヤンは左手を差し出してミリアーナの手を握り、右手で遮断と防音の術の解除を行い、掻き消えた。
「なんだ?ダヤンの奴渋い顔しやがって。ああいう感情が出るのは大概ミリアーナ嬢に関する事だが…なんか解ったのか?」
レジンはそう独り言を言いながらアリアのベッドの方に向かう。
はあ、と息を吐き眠っている小さな妹を見つめた。呼吸も穏やかで顔色も良い。この数日固形の食事が取れなくてガリガリに痩せてしまっているが、明日から少しづつ取れるようになるだろう。
(魔力の放出を助ける花の植木鉢を大量に手配しないとな…)
アリアの寝間着を整え毛布を被せ頭を撫でながらレジンはグッと唇を噛んだ。
(ミリアーナ嬢…あんた一体なんなんだ?)
「取り敢えずこの部屋にある植木鉢ここに持って来い。出来れば咲ききっていないやつが良い」
アリアの子供部屋には沢山の植木鉢が並んでいた。アリアはすでに動けない為に起き上がれた際景色だけでも楽しめるようにと王妃が色とりどりの花の鉢を運ばせたのだ。
「咲いてない花?分かった」
レジンは素直に沢山の鉢から花が開いていない分を選んでいる。その間にダヤンはミアに何かを伝え指示していた。
「これで良いか?」
レジンは四つの鉢をベッドの脇に置く。全て蕾のある鉢だ。
「ああ、ありがとうレジン。さあ…ミアやってみてくれ」
一見何も居ない空間にダヤンは話し掛けた。するとアリアの規則正しい動きを繰り返す小さな胸にミリアーナは手を置き呟いた。
『アリア様の魔力さん。余った分はこれからはお花へあげてください。きっと綺麗に咲きますわよ』
するとミリアーナの手から魔力がゆっくりとアリアの中に入って行く。そしてそれは体を巡りアリアの足の先を通り徐々に魔力が漏れ出しベッドを貫通して下へ下へと向かって流れ出ていく。
見えはしない。だが感じる。ダヤンはジッと床を眺めていた。じわじわと並べられた花に近づいてくる。弱々しい、だが水の流れのような澄んだ一本の線が植木鉢の一つに辿り着く。
「いけ…」
それはゆっくりと植木鉢を包みながら登り、土の中に吸い込まれそして茎がピクピクと波打って蕾がフルリと震え、ジワリと花弁が動いていった。
(やはりそうだったか…)
「えっ?なんだこれ?花が咲き始めたぞ!どうやって?ダヤン何かしたのか?」
「俺じゃないよミアさ。ミアの魔力がアリア王女の魔力に干渉して花の土に染み込むように導いた。アリア王女がちゃんと魔力の放出が自分で出来るようになれば収まるだろう。アリア王女の部屋にしばらく蕾のつく花の植木鉢置いとけ」
そう言って四つの鉢に咲き始める色とりどりの花をダヤンは何故か神妙な顔で眺める。
(これで問題解決になるのか?俺はどうすれば良い?)
ミア…ミリアーナ。
俺と出会わなければ君は怯えずに幸せに暮らして行けたのかな?自分の魔力の存在すら知らず誰かと恋をして家庭を作って子供を産んで…俺じゃない誰かと。
ミア…俺はどうしたら良いんだ…
君は
君は
あの聖女なのか………
****
古い文献に記してあったそれは遠い昔の話しで、まるでおとぎの世界の事のようだった。
まだ魔術などと呼ばれるものも無く、まだ誰も魔力の放出などで苦しんだりしていない弱い人達だけの世界。そんな世界に『聖女』と呼ばれる存在があった。
その女の子は幼い頃から花を愛し、植物の成長を促し、汚い土を綺麗にし、果ては癒しの力をも持っていた、とある。
彼女のいる土地は大変豊かで作物も天候にも関係無く育ち、害虫や病気の被害も無かったとされた。
ある日その力を我が物にしようとした大国が聖女を拐かそうとした。聖女を守る為人々は戦い沢山の弱い者達が儚くなっていった。それを悲しんだ聖女は、自分の持てる力を解放し自ら胸に刃物を突き立て自害したと言う。その聖女から流れた血はやがて大地に染み込み、その後には花が咲き乱れ、いつまでもいつまでも咲き続け、枯れて無くなる事は無かったと。そしてその土地は【とても綺麗な場所になった】と締めくくられていた。
これは《花の聖女》と言う悲しい女の子の作り話だと思っていた。
(ああ…なんであんな本読んだんだろ…昔の字で書いてあって、解読の術が少し使えるようになったからって調子に乗って古い本ばかり読んでた時期があった。見なきゃ良かった。覚えて無ければ良かった。いや違う。そうじゃない。だからなんだよ。聖女だからなんだって言うんだ。俺たち魔術師と何が違うんだよ。俺だって…解ってる。解っていたのかも知れない。俺は…知りたくなかったんだ。そうだ…彼女の魔力は大地そのものの力だ…ああ、なんで俺は気づいてしまったんだ)
ダヤンはゆっくりと頭をあげレジンに話し掛ける。
「取り敢えずは終わった。また後日経過の状況教えてくれ。今日は帰るよ」
「あ、ああ。ダヤン?どうした?なんか…」
「何でもない。いや、今は…ちゃんと整理してから伝える」
そう言うとダヤンは一瞬自分の手を見つめてからミリアーナを呼んだ。
「ミア帰ろう」
「はい、ダヤン様。ではレジン王子殿下失礼致しますわ。良かったですね!」
「ああ。ありがとう!ミリアーナ嬢。本当は抱き着いてキスをしたいところだが、全く見えないや。ははは」
「ふふっ」
「……」
「おい、ダヤン?」
「え?ああ。じゃあ行くな?またなレジン。ミア、手を」
ダヤンは左手を差し出してミリアーナの手を握り、右手で遮断と防音の術の解除を行い、掻き消えた。
「なんだ?ダヤンの奴渋い顔しやがって。ああいう感情が出るのは大概ミリアーナ嬢に関する事だが…なんか解ったのか?」
レジンはそう独り言を言いながらアリアのベッドの方に向かう。
はあ、と息を吐き眠っている小さな妹を見つめた。呼吸も穏やかで顔色も良い。この数日固形の食事が取れなくてガリガリに痩せてしまっているが、明日から少しづつ取れるようになるだろう。
(魔力の放出を助ける花の植木鉢を大量に手配しないとな…)
アリアの寝間着を整え毛布を被せ頭を撫でながらレジンはグッと唇を噛んだ。
(ミリアーナ嬢…あんた一体なんなんだ?)
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