上 下
121 / 146
◇式前30日の記録

20.甘酸っぱい

しおりを挟む
 コンコンッと扉がノックされる。
「おはようございます、テオルド様」

 ガチャッと扉が開きシュッとした赤毛の長身の男が顔を出した。侍従に着替えを手伝わせながらテオルドは顔をそちらに向ける。

「ああ。おはよう、シューマ。お前側近なのに人に任せ過ぎなんじゃ無いのか?」
「何言ってるんですか。これも大事な練習ですよ。リリア様の鈴が鳴るようなお声で起こされるご気分はどうでした?」
「.........そりゃぁ.........まあ.........」

 夢のなかに居る様で、気持ちが良過ぎて最初ハッキリ起きられなかった。良いのか悪いのか判らない。

「王都には暫く呼び出しは無いと伺ってますけど、時間が合えばこれからもリリア様に起こして頂きましょう」
「.........面白がってるよな?シューマ。まあ、良い。お前、母が行っているリリアの授業内容聞いてるか?」
「えーーーっと、そうですね。大体は。侍女長からの報告だけですけど」
「.........後で聞かせろ」
「大分負けてますよ?」
「グッ!仕方ないだろ!忙しかったんだから。今日一日で追いついてやるよ」キュッと握り拳を作る。

「.........なんだろ.........凄くピュアな、遠い昔に忘れ去った甘酸っぱい何かを22歳にもなった次期当主の主人から感じる。可笑しいな~どうしてこんなに拗らしたかな~?何処で間違ったんだろう?」

「..................................」無言で手の指をワキワキするテオルド。


「あ、そうそう、リリア様の護衛が決まり.....「スパラッシュだろ?知ってる」ん?」
「はあ.........夜に遣り合ったんだ。リリアの部屋で」

 テオルドは上着を羽織りながらため息混じりに言った。

「遣り合ったですって!?どうして?」
「後で話す。取り敢えず食堂へいく。リリアが待ってるからな」

 テオルドは扉から出て廊下を歩き出す。シューマと侍従は後ろから着いて歩いた。だが.........


「ボソ.......まさか.........夜這い.........」
「ボソ....とうとう.........我慢出来ず.........」

「うおい!聞こえてるからな!そして違うわ!お前ら変な噂立てんなよ!」
 ギッと2人を睨み付け威嚇するテオルド。


 食堂に着くと、今日は珍しく公爵、夫人、リリアが座っており、リリアの後ろにスパラッシュが控えていた。

「お待たせしました。随分寝過ごしてしまいまして.........」
 ぺこりと頭を下げるテオルド。

「いや、実は私も先ほど起きたんだよ。昨日は遅くまでちょっと頑張り過ぎた様だ、ははっ」

「あら、旦那様はまだまだお若いですわよ?ねぇ?」
「.........頑張るよ」
「ふふっ」

 公爵夫妻の間で微妙な謎の会話が行われていたがテオルドは気づかず。椅子を引いて貰い席に着く。

 真前にはリリアが座っている。ジッと見惚れてしまいそうになるのを堪えて、少し微笑み掛けてから朝食を取り始めた。

 食堂内にカチャカチャと微かなカトラリーの音がする。チラリと前を見るとリリアが野菜をゆっくりと口に入れていた。人の姿になったリリアは肉、魚を食べられる様にはなった。玉子やミルクもいける。理由は判らないが女神見習いとして位が上がった所為かも知れないとテオルドだけが思っていた。これを知るのは女神と彼だけな筈だ。

 リリアは.........次世の女神に成る事が出来る特別な女だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

処理中です...