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◇本編

66.

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「あ.........ワタシ.........」
「ああ。.................言いたい事は山程あるが、後で良い。今は.........一つだけ」
「.........テオルド.........?」
「.........今日で.........10年経った」
 テオルドはそう言うといつもの優しい顔で微笑んだ。

 ワタシは彼のその言葉をまだボンヤリとする頭で受け止める。そうか.........昨日は終わってしまったのか。じゃあ、御使いはもう出来ないんだな。女神様が言ってた。ワタシはもう飛べないのか.........。今のワタシは.........人間の姿をしているんだ。テオルド嫌じゃ無いかな?手は有る?脚は?

 ワタシはテオルドの顔を見ながら手を動かしてみる。ああ、動くな。重いけど.........
 支えてくれている手から熱を感じる。人間の皮膚は薄いし毛もあまり生えていないから空気がピリピリする。不思議。
 少しずつ動かして腕を持ち上げる。指先を見る。バラバラに動かしてみる。凄い凄い!動いてる。なんて素敵。これでやっと.........彼に触れられるんだ。

 震えながら手を延ばしてテオルドの胸に触れてみる。衣類の感触が伝わってくる。ゆっくりと線を辿りながら顎に触れた。
 チクチクする!お髭?テオルドもお髭が生えるのね?見た目じゃあんまり判らないけど.........大人になったんだ。公爵様みたいにフサフサに生えるかな?
 指先で顎を摩る。

「.........髭ちょっと伸びて来てるな。ビックリしたか?」ふふふと笑う彼。
「う、ん」
「俺はまだ薄い方だから。酷い奴は朝剃ってこの時間にはまた元通り生えてる」
「大人、だね?」
「とっくにな。リリアだって大人だよ。もう.........大人の女性になってる」
「そう?.........そうだね。10年だもんね」

 ワタシは自分の指を見る。子供の手では無い。キュッと握ってみる。まだ実感が湧かないけど確かに自分の意思で動いてる。

 ああ、そうだ早くしないと。身体消えちゃうかも知れない。いつまで持つか分からないんだ。良いかな?怒らないよね?一度だけ.........。

 再びテオルドの顔に手を延ばして彼の頬を触る。あんまり柔らかく無いんだ。ほんのり温かい。少しずつ顔を近づけて反対側の頬に口を当てた。

 初めて顔にキスをする。手で触るより温かい。唇って敏感なんだ。これが人間のキスね?彼を傷つけないキス。嬉しくて胸が熱くなる。

「リリア.........」
「.........テオルド。10年間.........ありがとう。とっても幸せでした。貴方に救って貰った命.........少しは返せたかな?御使い鳥は昨日で終わりだから、もう逢えなくなるけど貴方が愛した人とどうか幸せになって下さい」





「..........................................ん?」
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