人間三原則

こーぷ

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第2章 ヒューマンバトル

53話 ヒューマンバトルとは? スクエの決断

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「そもそも、何でヒューマンバトルなどがあるか分かるか?」

 ノラの言葉にスクエは首を振る。

「まぁ、簡単に言うと強い、使い捨て奴隷の育成だな」
「ん? どういう事だ?」

 ノラは少し言い辛そうな表情を浮かべるが、今更スクエに隠し事する間柄でも無いと思ったのか一度溜息を吐き説明する。

「はぁ……あまり気分の良い話では無いが良いか?」
「ハンッ! 今更だろ?」
「ふふ、確かにな」

 スクエとノラはお互い苦笑いする。

「前に、スクエにはこの世界には大きい国が4つあると説明したが覚えているか?」
「あぁ、覚えてる」
「その四つの内の一つがアバエフ王が納めているこのアクアスになる」

 ノラの言葉にコクリとスクエが頷く。

「残り三つだが、誰が納めていると思う?」
「そんなの、分かる訳無いだろ?」
「ふふ、まぁそうだな──残りの国を納めているのはアバエフ王と同じ原初のリプレス達だ」

──原初のリプレスか……

「この、三人はアバエフ王の兄弟でもあって、一番上の兄がリューデル国を納めているパウエル王だな──こちらは竜人族を奴隷としている」
「竜人族って何だ?」

 スクエの質問にノラが応える。

「ん? スクエの世界には居なかったのか? ──竜人族とは、竜の末裔と言われている者達であり、武技に長けている種族だな」

──そんなのまで居るのかよ……

「そして、二番目は長女でありマルヴァンの王女であるアリーヌだな──こちらは力自慢のオーガ族を奴隷にしている」
「おいおい、オーガまでいるのかよ……」
「ん? スクエの住んでいた所にはオーガ族は居たのか」
「い、いや居ないけど……忘れてくれ」

 スクエの言葉に首を傾げるノラであったが、気にせず説明を続ける。

「三番目がアバエフ王で、四番目にピュレールの女王であるメリリースになる──こちらは速さが自慢の獣人族を奴隷にしている」

 ノラは一息入れた後に再度口を開く。

「今、説明したアバエフ王を含める四人の原初のリプレスは仲が非常に悪い様でな……」
「兄弟なのにか?」
「あぁ、どうやらそうらしい。過去に何があったかは、知らないが、そのせいで四カ国は昔から戦争をしていてな」

──戦争か……

「戦争でお互いの国を攻めたり攻められたりが続いているんだが、その際に戦闘兵士としてリプレスとイナメイトと人間が駆り出されるんだ」

 ノラのここまでの説明でスクエは何となく先が読めて来た様子である。

「そこで、失ったとしても、最も国に損害が無い人間を、使い捨て兵士として前線に駆り出すのが、現在支流の戦い方になる」

 ノラの言葉に、スクエはため息を吐く。

「また、ここでも人間が不遇の扱いか……」
「あぁ……。そして、その使い捨ての奴隷兵士達で、少しでも敵の兵士達を倒せる様にと奴隷の強さを高める為にヒューマンバトルが開催されている……」

──成る程な……ヒューマンバトルの目的は戦争で一人でも敵を倒せる為の奴隷強化か……

「まぁ、今説明したのは、当初ヒューマンバトルが開催された目的だな」 
「今は違うのか?」
「あぁ、今では主にリプレスの娯楽の為に開催されている様なものだな……」

 リプレス達の娯楽の為と聞いたスクエは忌々しそうな表情を浮かべる。

「やっぱり、リプレスってのは糞な奴らばかりだな……」

 スクエの言葉に何も言えないノラ。

 そして、ある事が気になったスクエはノラに質問する。

「聞きたい事がある」
「なんだ?」
「このアクアスに住む人間達にはメンタルチップが入っているよな?」
「あぁ」
「なら、他の国の奴隷達はどうなんだ?」
「同じだ──メンタルチップが入っている」
「なら、俺達奴隷は人間三原則のせいで奴隷かイナメイト相手にしか攻撃出来ねぇーのか?」

 スクエの質問にノラは首を横に振る。

「いや、他国のリプレスであれば人間三原則が効かない様に作られている──だから関係無い」

 どうやら、メンタルチップと言うものはリプレスに取って、とことん都合の良い風に作られている様だ。

 そして、暫くの間、部屋に沈黙が訪れる……

 少しして、スクエがボソリと呟いた。

「俺もヒューマンバトルに出てみるか……」

 その言葉にノラは少し驚いた様子を浮かべる。

「ど、どうしたんだよ?」

 ノラの表情を見ていたスクエが不思議がる。

「いや、スクエはあまりこういう事に参加したく無いかと思ってな……」
「確かに……リプレス相手なら良いけど、人間相手に戦うとなると思う所もある……」

 同じ不遇の立場である人間同士と戦いたく無いのが本音のスクエ。

「だけどよ、ヒューマンバトルに出ればアバエフと接触出来る可能性があるんだよな?」
「あぁ……恐らく当日は来られるだろうな……」
「なら、その時に少しでもチャンスが有れば俺の力で倒せるかもしれねぇーだろ?」

 スクエはニカリと笑う。

「確かに……スクエの、あの力であればアバエフ王とて倒せる可能性があるな……」

 スクエの言葉にノラは考え込み始めた。

「アバエフ王は力も魔法も全てに置いて他のリプレス達と比べ物にならない……けどスクエだったら……」

 ブツブツ呟きながら考え込んでいたノラであったが、聞きたい事がある様でスクエに質問を投げかける。

「一つ確認したい」
「何だ?」
「ヒューマンバトルにスクエが参加すれば、確かにあの力がある以上人間でスクエに勝てる者は居ないだろう」

 リプレス一人どころか十人以上を倒したスクエに取って人間などは敵では無いとノラは考えている。

「だが、いいのか?」
「何が?」
「ヒューマンバトルで勝てば、その分目立つぞ?」
「──ッ!」
「また、前みたいにロクでもないリプレスに目を付けられる可能性だって出てくるが、本当にいいのか……?」

 ノラ自身も気持ち的にはスクエにヒューマンバトルに出て貰いたい様だ。

 もし、スクエが優勝すれば店ではインストール出来ない筈のスキルが手に入るからだ。

 二人の最終目標は人間達を、この不遇の環境から助け出す事だ──その為にはアバエフを倒さないといけない事を理解している。

 そうなると、必然的に強いスキルは必要になってくるだろう……

「俺は……」

 ノラの言葉にスクエは一瞬だけ思考する様に言い淀んだが、直ぐに言葉を続けた。

「ヒューマンバトルに出る!」

 スクエ特有のニカリと笑う笑顔をノラに向ける──その際に鋭い八重歯が見え隠れする。

「このまま、参加しなければ確かに目立たないかもしれねぇーけど、それじゃ人間を救えない」

 スクエはノラに対して、だろ? という様な視線を送る。

「俺はこの世界でヒーローになるんだ──そしてヒーローは自分の身に危険が訪れると分かっていても困っている人を助けるもんだぜ?」

 スクエは腕輪を触りながらノラに向けてヒーローの何たるかを語った。

「ふふふ、スクエの気持ちは良く分かった──そこまで決意しているのであれば何も言わんさ」

 スクエの言葉にノラは微笑むのであむた……



 
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