人間三原則

こーぷ

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第1章 ヒーロー見参

21話 スラム街での生活

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──ん?

 スクエは何やら誰かに触られている感触がして目が覚める。

「──!?」

 ガバッと顔を上げると浮浪者の様な格好した男がスクエから何か無いか探していた様子だ。

「ッチ、生きているのかよ」

 スクエが頭を上げると男は舌打ちをしてどこかに歩き去る。

「なんなんだよ……」

 起きたら、いきなり知らない男が目の前で自身の服や金品などを剥ぎ取ろうとしたりしていたのでスクエは相当動揺している。

「と、とにかく、起きるか。寝てられねぇーよ……」

 建物と建物の狭い隙間で夜を明かしたスクエは立ち上がり歩き始める。

「昨日は暗かったからよく見えなかったけど──汚ねぇーな」

 辺りを見回すと老朽化した建物が建ち並んでいた。
 そして、移動する為の道も舗装などされておらず、ゴミが散乱していた。

 しかも、汚い話ではあるが、そこら中に人か動物かの糞が落ちている始末だ。

「臭い……」

 昨日は精神的疲労と身体的疲労の影響で匂いまで気にしていなかった様だが、視界に臭そうな物を見た瞬間からスクエは常に鼻を刺激する様な臭さに思い悩まされるのであった。

 また、本来ならイナメントが常に目を光らせており、仮に誰かがゴミをポイ捨てしても直ぐに拾い集めてゴミ箱に入れるが、どうやらスラム街に関しては範囲外の様だ。

「もっと奥に身を隠した方が良いよな……」

 グロックとロメイがここまで来るかは不明だが用心するのに越した事は無いだろう。

 スクエはどんどん奥に入って行く──すると奥に行けば行く程薄暗くなり身を隠すにはピッタリな場所が多くあった。

 しかし一つ問題が……

「お? ──あそこ良さそうだな」

 雨風が凌げそうな場所をみつけたスクエは早速、これからの寝床にしようと近付くが声を掛けれる。

「おい、テメェ──俺の家に何か用かよ?」

 スクエは顔を向けると、そこには見るからにまともそうな感じがしない男が居た。

──こ、こぇ……

「い、いや、何でもねぇ」
「ならさっさと失せろ」

 有無を言わさず男はスクエに言い渡し、自分の寝床と誇示する様にスクエが狙っていた場所に寝転がる。

──ここは辞めといたほうが良さそうだな

 直ぐに別を探すスクエだったが結局、良さそうな場所は全て先住者が居て、まともな場所は残っていない様だ。

「今日も建物の間か……」

 ため息を吐くスクエの腹から音が鳴る。

「腹減った……」

 もちろんスラム街に飯屋など無い。

「ここの人間は何食っているんだよ?」

 スクエが色々確認すると、どうやら飯の調達はスラム街を出てゴミ箱や盗みなどして食い繋いでいる様だ。

「スラム街の外か……」

 スクエは二の足を踏む──それもそうだろう、グロックやロメイに追われたのは昨日の出来事だ、用心するのは当たり前である。

「今日は我慢我慢!」

 自分に言い聞かせて再び適当な建物と建物の間に身を置き、眠りに着く。

「明日は……流石に……ご飯……」

 スラム街を歩き回ったせいかスクエは直ぐに眠りに着いた。



 そして、静かな夜が明けて再び太陽が登り始めた頃にスクエは起き出す。

「もう朝か……」

 本来なら二度寝をする様な時間だが地面に寝ているので寝心地の悪さに二度寝が出来ない様だ。

「飯でも探すか」

 腹が減り過ぎて胃がキリキリするのかスクエは片手で腹を抑えながらスラム街を出る。

「ここからは念の為……」

 スクエは周囲を見渡し、なるだけ隠れる様に移動してゴミ箱を漁る。

「うぇ……こんなの食いたくねぇ……」

 ゴミ箱には確かに色々な食べ物があるが、それは違う料理同士がぐちゃぐちゃに混ざり合ったものであり、見た目から食い気が無くなるのであった。

「だけど、ここで食わないと後になったら見つからねぇーかもしれねぇーしな……」

 この世界でリプレス達はご飯を食べない為、基本は人間の分だけである。
 しかし、リプレスの奴隷である人間達もマトモにご飯を貰える訳では無いので、ゴミ箱に食べ物がある時点でとてもラッキーである。

「目をつぶって食えばいける!」

 スクエは自身の目を思いっきり閉じた後に素手でゴミ箱の料理を掴み口に運ぶ。

──!? おいしくねぇ……

 なんとも言えない味に吐き出したい気持ちをグッと抑えて口を動かす。

「ふぅ……」

 暫くの間飲み込めなかったスクエは無理やり呑みこんで口の中を空にした。

「これから、こんな生活が続くのかよ……」

 未来を想像するだけで絶望を感じる。

「飯も食ったし……帰るか……」

 とりあえず餓死しない様に腹の中に栄養を詰め込んだスクエはリプレス達に見つからない様に早々とスラム街に戻る。

「喉が渇いたけど水はスラム街のでいいや……」

 独り言を呟きながらスラム街の水飲み場まで歩いて来たスクエ。

 しかし水飲み場とは勝手にスクエが名付けただけであり、実際は大きな水溜りである。

「こんなの、飲んだら絶対病気になるよな……汚ねぇ……」

 そこには泥で茶色になっている泥水があるだけで、綺麗な水などは一切無い。

 しかし此処に住んでいる住人は泥水を飲む為にこの場所に来る。

「飲んだら腹壊すかな……?」

 昨日歩き回った際は、あまりの汚さに飲むのを拒否したスクエだったが、やはり喉の渇きには勝てない為、又もや目を瞑りながら水溜りに口を付けて飲み始める。

「ゴホッゴホ──ジャリジャリする……」

 口に含んだ瞬間に、なんとも言えない苦味がスクエを襲い、ご飯同様に吐き出しそうなのを必死に押さえ込み飲み込む。

「ここ以外に水飲み場ねぇーのかな……」

 昨日歩き回った際は見つからなかった為、この泥水の場所にはどんどんと人が集まっては先程のスクエの様に水を飲んでいるので、恐らくスラム街唯一の水飲み場なのだろう。

「こんな生活嫌だけど早く慣れねぇーとな」

 スクエに取ってスラム街の生活は過酷の様だ──しかし、その過酷さが嫌な事を忘れさせてくれている為、今のスクエには丁度良いのかもしれない……
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