人間三原則

こーぷ

文字の大きさ
上 下
4 / 67
第1章 ヒーロー見参

3話 奴隷に身体を洗われる

しおりを挟む
 スクエの競売が終わったと言うのに未だに盛り上がりを見せ、会場内は叫び声や拍手などが入り混じっており鳴り止む気配は無い。

 スクエは会場の様子に気を取られている暇では無いと気付き脱出を試みるが──そんな事を許す老紳士では無い様だ。

「おい、早く牢屋に入れ」

 あまりにも高値が付いたからなのかスクエを力尽くで戻さず、言葉を持って牢屋に入る様に施す。

「うるせぇ、ジジィ! いいから此処から出せ!」
「な、なんて奴だ!? ──コイツどこか欠陥でもあるのか……?」

 老紳士は命令を聞かないスクエを見て目を丸くする。

「こんなに高値で売れたんだ、バレたら不味い」

 そう言うと、先程同様にスクエの腕を掴んで無理矢理牢屋に入れた。

「い、痛ぇーよ!」
「大人しく、牢屋に入っていろ」

 客席からは見えない様にスクエを力尽くで牢屋に入れた老紳士は指を鳴らす。すると来た時と同じで自動で牢屋がステージ裏に移動する。

──クソ、結局また牢屋に入れられちまった……

 諦めの悪いスクエはそれでもどうにかしようと牢屋の格子を揺らしたり蹴ったり──または、大声で助けを呼んだりと出来る事は全て実行するが逃げ出せそうに無い様だ。

 悔しそうにしているとステージの方ではまた盛り上がる声が響き渡った。どうやら、二つ目のメインを出す様だ。

 こうして、競売はどんどんと進み気が付いたら全て終了していた。
 
 奴隷達は買い取った主人達に会う前に一度身体を綺麗にする為、開い空間に移された。

「いやだ……いやだ……」

 スクエの牢屋の隣では同じく牢屋に入れられている女性が裸で体操座りをして足に顔を埋めてブツブツと呟く。

「あ、あんなキモい奴の奴隷になるくらいなら──死んだ方がマシ……」

 女性の口からは次々と不穏な言葉が発せられる為、スクエは気になってしょうがない様だ。

「な、なぁ──アンタ大丈夫か?」

 あまりにも不憫に見えたのでスクエは声を掛けるが、女性は一切反応を示さなかった。
 そしてひたすら、自身の殻に篭るようにブツブツと独り言を呟く。

 声を掛けても無駄と思いスクエは周囲を見渡す。

「一体ココはどこなんだよ──ココに来てからあのジジィとしか話してないぜ?」

 状況を整理する為かスクエも独り言の様に気が付いた事などを話す。

「俺がこんな場所に連れて来られた理由も分からないし、どうやって連れて来られたのかも不明だ」

 スクエは腕を組み、目を瞑って考えてみる。

「確か……二人の中年の喧嘩を止めようと思って……電車に轢かれそうになった所までは覚えているんだよな……」

 どうやら、その後からは一切覚えていない様であり、気が付いたらこの牢屋の中に居た様だ。

 独り言で状況を整理していると前の方で声が聞こえた。

「それでは、全員で一斉に洗って下さい。ですが一番高値の付いた小僧だけは丁寧にお願いしますよ?」

 声の方を見てみるとそこには先程競売で司会役をしていた老紳士の姿が見える。
 そしてその傍には真っ白い服を着ている者達が数人、老紳士の話を聞いていた。

「では、始めて下さい。もし商品に傷なんて付けたら分かっていますね……?」

 老紳士が少し威圧する様に声のトーンを落として話すと、何人かが手足を震わせていた。

──アイツらはここの職員かなんかか?

 老紳士達のやりとりを見ていると、全身白い服を着ている者達が掃除用具を持ち移動をし始めた。

 全身白い服装を着た者達は各牢屋に近付き、ホースの様な物で牢屋内に居る奴隷達に水をぶち撒いている様子が見える。

──おいおい、洗い方雑だな……

 そして、スクエが居る牢屋にも一人の人間が近付いて来て、ホースの先端を向けたかと思うと勢い良くスクエに水をぶっかける。

「つ、つめてぇ!」

 周りの様子を見て水だとはわかっていた様だが、実際に浴びてみると結構冷たくてスクエは驚く。

「な、なぁアンタ……ここから俺を出してくれ。俺は被害者で何も悪い事なんてしてねぇーんだよ!」

 スクエの必死の叫びも虚しくホースを持った男は首だけを左右に振るだけであった。
 
 その後も何度も牢屋から出させて欲しいとお願いしたり、ここが何処なのかと必死に話しかけ続けたが最初の反応以外は一切反応せず黙々とスクエを洗う作業に没頭している様子であった。

 そして気が付いた時にはスクエだけでは無く他の牢屋内にいる奴隷の全員が小綺麗になった。

「よし、後は服を配ってあげなさい」 

 老紳士の指示により牢屋内に全身真っ白な服が投げ込まれた。

「なんだ? こんな真っ白い服を着るのかよ……」

 全裸だった為投げ込まれて直ぐに服を広げてみるが、何も模様などが付いていない無地の白シャツと白いズボンであった。

 こんなダセェー服着たくねぇーけど──流石に全裸はまずいよな……

 スクエは渋々と言った感じで服を着る。

「これはダセェ……」

 首を曲げて自身の爪先から胸まで何度も見返してしまう。

「無いよりマシ、無いよりはマシ」

 念仏の如し呟き続ける様子はまるで自己暗示だ。
 他の牢屋の者達の様子を確認するが、スクエと同じく嫌々ながら着ている。

「無いよりはマシだよな……」

 自身に自己暗示を掛けたのが良かったのか、スクエはなんとか心を落ち着かさせた。

「さてさて、奴隷達は綺麗になりましたし、お客様達に引き渡しに行きますかな」

 老紳士は指を一度鳴らすと自動で牢屋が動き出す。一体何処に向かっているか不明だが老紳士の歩く姿は軽やかであった。

 そして、スクエ達が入っている牢屋がピタリと止まった──その先には今回競売で奴隷達を買った者達が居た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...