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第10章

431話

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 グンドウの説明が終わったのか、再びカール王の少し後ろに戻るのが見える。

「王城での出来事は以上だ──次にエルフ族の村で何が起きたか話して貰う、ヘラデスさん、お願いしても?」
「ははは、仰せの間々にカール王」

 炎弾こと、ヘラデスはカールに一度頭を下げてから先程のグンドウ同様に前に出た。

「お、おいマーズよ、ヘラデス殿が見えるぞ!」
「はいはい、分かっていますからお静かにして下さい」

 リンクスはヘラデスの顔を見て惚けた様子で口を開けながら見ている。

 一体、あのヘラデスの何処がいいのか……ただ、怖いだけだと思うが……

 私も、リンクス同様に、ヘラデスの顔を見る。確かに、勝気な視線に、絶対的に自身が強者である事を疑わない表情は、美しく見えるが、やはりヘラデスの場合は数々の武勇伝を聞くだけで恋愛感情を持とうとは思わない……ですね……

 私とリンクスが見ているとヘラデスは一度周りをぐるっと見渡し、口を開いた。

「二ヶ月程前に、私が率いた軍はエルフの村に向かった。理由は簡単だ、エルフ共を取っ捕まえて奴隷にする為だな」

 何が面白いのか、ヘラデスはニヤニヤとした表情を浮かべている。

「結果から言えば惨敗だったぜ──そりゃ見事に返り討ちにあったさ」

 結果は既に知っていた一同ではあったが、やはりヘラデスが負けると事が信じられない様で、堂内が騒つく。

「まぁ、細かい話は面倒だから省くが、エルフの村にはエルフ以外にも、ドワーフ達と、少なかったが、人間族や獣人族といった他種族も、チラホラいたな」

 それは、恐らくアトスさん達の事だろう。

「まぁ、私以外はそれぞれ各個撃破しろと指示してたから、それぞれが戦ってくれたよ──なんて言っても私の部下は全員優秀だからな。ははははは」

 本来なら、そんな命令で上手く戦いが成立しないと思うが、ヘラデスの言う通り部下が優秀なのか、いつも勝利を収めているのは確かだ。

「まぁ、私自身あんまり乗り気では無かったからな、最初はサッと終わらせようと思ったが、そこに奴は居たんだよ。クックック」

 ヘラデスは口元を抑えながら可笑しそうに笑う。

「ヘラデスさん、誰がいたんだい?」

 気になったのか、カール王が訪ねる。

「あぁ? そりゃ私が会いたかったアイツさ──そう、雷弾だ」

 その言葉に隣に居たリンクスが頭を捻る。

「雷弾……? 何処かで聞いた事があるな」

 はぁ……この人は記憶力が無いのだろうか……?

「マーズよ、雷弾とは何だ!?」
「ヘラデス殿のライバルとして良く上げられる人物ですよ」

 私の言葉にガバイが入ってきた。

「私は噂程度に聴いた話では、炎弾であるヘラデス殿を凌ぐ実力の持ち主だとか」
「あははは、何を言っているんだ、ガバイよ。ヘラデス殿の右に出るものなどいる筈無いだろう」

 好きでもあり、尊敬しているヘラデスにライバルなんて居るとは思いたく無いのかリンクスは笑う。

 そして、ステージに立っているヘラデスが再び口を開く。

「まぁ、私の願いである、雷弾に実際会うことが出来てな……戦いを挑んだ」
「へぇ……どうだったんです?」

 王座に座っているカール王は気になったのか、話の続きを施す。

「もちろん戦ったさ」
「で、結果は?」
「ふむ。そこが面白い所でな──結果自体は引き分けだな」

 ヘラデスと戦いで互角で終わらす、雷弾の実力に皆が驚く。

「お、おいヘラデス様と互角ってどういう事だよ」
「わ、分からねぇーけど、とにかく相手にもヘラデス様みたいな奴が居るって事だろう?!」
「マジかよ……俺達、そんな奴と戦おうとしているのかよ」

 周りの反応を聞いて分かる通り、ヘラデスという人物はそれ程までに戦いに置いて部下達から頼りにされているのだ。

「ふむ。ヘラデスさんと同じ実力か……厄介だな」
「カール王よ、雷弾は強いぞ! だから次も私と戦わせろ!」
「あはは、ヘラデスさんがそこまで言うなら、次の戦いは是非雷弾と戦ってくれ」
「仰せのままに」

 再びカール王に向かって頭を下げるヘラデス。

「と、まぁこんなもんだな。後は、謎の光が現れたと思ったら、私達に優位に進んでいた戦いがひっくり返された」
「あぁ、その件か……未だ良く分かってない」
「私の部下の報告によると、白い光が現れた瞬間て敵に攻撃が急に効かなくなったと報告された」

 最後の最後に口にしたヘラデスの出来事は既に殆どの者達が知っているが、原因は分かって居ない様で、色々な憶測が飛び交っている様だ。

 確証は無いが、恐らくアトスさんのスキルの効果だろう……あの方なら有り得る。

 ここに居る者達は次の戦いで強敵になると考えているのは、ラシェン王を殺害した獣人だったり、ヘラデスと互角の戦いを繰り広げた雷弾のロピさんだと思っているが、最も気を付けないといけない本当の強者に気が付いて無い。

 次の戦争で最も気をつける人物はアトスさんだ……しかし、私はアトスさん達の考えに賛同しているから、ここで敢えて言うつもりはサラサラ無いがな……

 こうして、二ヶ月前に起きた、城内の出来事と、エルフの村での出来事の報告が終わる。

 そして、次の戦いをどの様に進めていくかの方針を伝える為なのかカール王が再び王座から立ち上がった……








 先程まで今後の方針を話していたカールが少し疲れている感じで、王室のベッドに座り込む。

「ふぅ……」
「カール王、お疲れ様です。ひっひっひ、立派なスピーチでしたぞ?」
「はは、ありがとう。それで何か用かい?」

 カールに話しかけた謎の人物が頭を下げて口を開く。

「先程お話しされていたモンスターの奴隷化ですが、カール王の言う通り、ほとんど完成されています──ですが、一点だけご報告なので、以前逃走したモンスターがまだ見つかっておりませぬ」
「あぁ、なんか気配が急に消えて、逃げられたって言うモンスターだっけ?」
「その通りです。小型では無く初の中型を奴隷化するという事で試みた実験だったのですが……気が付いたら気配が消えていて、姿も消えていました」

 どうやら、モンスター奴隷化の実験でモンスターが逃走した様だ。

「はは、まぁモンスターの一体くらいいいでしょ。それよりも、一年後までに出来るだけモンスターの数を増やしてくれ」
「承知いたしました」

 カール王に許しを貰った研究者は安堵した表情を浮かべて王室を出て行った……
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