上 下
401 / 492
第9章

400話

しおりを挟む
 大量の人間族がジャングル内を歩いていた。
 歩いている人間族は様々で、俯いている者や怒っている者、又は楽しそうに笑っている者まで居る。

 その中の集団で話し続ける者が居た……

「マーズよ、今回は活躍出来なかったが、次こそは私が大活躍する時だぞ!」
「えぇ、リンクス様であれば例え、誰であっても倒す事が出来るでしょう」
「ははは、本当の事だが、あまり褒めすぎるな」

 リンクスの会話に疲れ切った表情を見せるマーズであったが、そんな様子を考慮してくれる訳もなくリンクスはひたすらにマーズに向かって話し続けていた。

 ──戦場に行った者達から聞いた、謎の光る円は恐らくアトスさんのスキルだろう……

 マーズはとうとうリンクスの話を聞き流し、今回の戦いの考察を始めた。

 ──最初は人間族側の圧勝に終わると思った戦いも、謎の光が現れてから戦況が大きく変わったと報告もあったし……貴方って人はやはり凄い

 マーズはココには居ないアトスに向かって心の中で称賛を送る。

 ──上手い具合に、ここから抜け出してアトスさん達と合流したかったが、タイミング的に持ち場を離れられなかったのが痛かったな。

 そして、マーズはリンクスの話を延々と聞き流し、人間族の住処に向かって移動し続ける。

 マーズは、今回の戦いの結果を予想していなかった。
 共に戦った、アトス、ロピ、チル、リガスがエルフ側に居たとしても、人数の差で、人間族が勝利を納めると見ていた。

 しかし結果は真逆になった。

「でも、ここから先は全く読めませんね──いや、それでもやはりアトスさん達には厳しい戦いになりますね……」

 恐らく、次は人間族も全勢力を導入して戦いに挑むだろう……そうすると、仮に他種族同士が手を組んでも人数の差は覆らないだろう。

「さて、一体どうなる事やら……」

 マーズが今後の戦況を心配している頃に、前方で全兵士達を率いているヘラデスが未だに上機嫌であった。

「おい、最短で次に私が雷弾と戦えるのはいつになる?」

 ワクワクした様子で部下に聞くヘラデス。

「そうですね……恐らく今回の戦いで大分我々の人員に被害が出ました──その為、次は……一年後くらいが妥当なのでは?」
「遅いッ! そこまで私は待つ気は無いぞ」
「私に言われても……ヘラデス様であれば直接ラシェン王に申告した方が早いと思います」
「うむ。確かにそうだな──帰ったら即刻ラシェン王にお願いしてみよう」

 部下はホッと胸を撫で下ろす。
 このまま、ヘラデスのワガママに付き合っていたら大変な事に発展しそうな雰囲気まであった為だ。

「なんとしてでも、ラシェン王には戦いを急いで貰わないとなッ!」

 嬉しそうに、そしてワクワクする様な表情浮かべるヘラデスは、とても綺麗で炎弾という二つ名を知らない者が見たら、その表情に見惚れてしまうだろう。

 しかし、部下達にそんな事を思う者は居ない。
 それは、ヘラデスの残酷さと冷酷さを知っているからである。

「おっ? そろそろ見えて来るな」

 ロピとの戦いを夢見て、色々と想像していると、人間族の住処にいつの間にか近付いていた様だ。

「ヘ、ヘラデス様……何か……様子がおかしく無いですか?」
「……」

 ジャングルを抜けて、高い城壁が見えた頃、何やら煙が複数立ち昇っているのが見えた。

「なんだありゃ……?」
「お、おい俺達の国はどうしちまったんだ?!」
「あの煙は何だ?! 城が燃えているのか?!」

 少し離れた位置からでは全容が分からない為、兵士達の中では憶測が飛び交う。

 そして、兵士達の不安が他の兵士に伝染していき、どんどん兵士達の中では不安が募っていく……

「ヘラデス様……」
「何かあったな……慎重に近付くぞ──負傷者は私達から距離を置かせて、後から来る様に伝えろッ」
「はい!」

 こうして、ヘラデス達は人間族の住処に到着して、ラシェン王が殺害された事を知る。

 その話を聞いて、リンクスや他の兵士達はとても悲しんだ。
 だが、ヘラデスだけは笑い、更に新しい王がカールになった事を知った時は大笑いしていたと様だ……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...