上 下
397 / 492
第9章

396話

しおりを挟む
 早いッ!?

 正面から鋭い踏み込みと共に大剣を振るグンドウが居た。
 私は咄嗟にスキルを発動させて後ろに下がる。

「ッチ、避けやがったか。カールはともかく奴隷の方にも避けられるとは思わなかったぞ?」

 グンドウは大剣を肩に乗せて私の方をチラリと見る。

 あんなのを食らったら終わりだろう。

「グンドウさん、誤解なので辞めましょうよ」

 カールがグンドウを宥める為に声を掛けるが、聞く耳を一切持たずに、再び剣を振るう。
 そして、次は先程より早く。

「ッ!?」

 カールは咄嗟に飛び込む様にして避ける──先程まで優雅に避けていた時とは大違いだ。

「はは……参ったな……これは本当に不味い……」

 表情は笑っているが、余裕は無さそうだ。
 カールは腰に指していた双剣を取り出し、構える。

「ほぅ……ヤル気か?」
「えぇ……流石にタダで殺される分けには行きませんからね……」
「無駄なことを……」

 忌々しそうにカールを一瞥した後に、再び大剣を両手で持ちカールに向かって振り下ろす。

「ック」

 カールは先程と違って避ける事は無く、双剣を上手い具合にグンドウの大剣に這わせて受け流す。
 しかし、今回は一撃で終わらず直ぐ様ニ撃、三撃と剣を振るう。

 カールはその度に受け流すが、やはり元々の力量──いや、それだけでは無く身体能力の差もある様で、受け流す度に身体の軸がブレる。

「さっさと諦めろ」
「グンドウさん、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
「ならんッ!」
「アンタ、俺の事捕まえる気無いだろうッ!」

 そして、とうとうカールは両手に持っていた剣を吹き飛ばされ、丸腰しになる。

「死ねッ!」

 グンドウは今までで一番早い振りで剣をカール目掛けて振り下ろす。

 だが、やはりタダではやられないカールなのか、地面に転がりながらもグンドウの一撃を避け切る。

 そして、部屋内には床を剣で叩く音が鳴り響いた。
 叩くと言う表現では軽すぎる、グンドウの一撃は地面を抉り取っている。

 避けられた事に、悔しそうな表情を浮かべるグンドウ。
 どうやら標的は完全にカールの様だ。

 これなら、逃げられるか……?

 恐らく、このままスキルを全力で使用すればこの場から逃げられるだろう……ただ、心配なのはガルル達が無事に逃げられたかだ。

 私がゆっくりと気が付かれない様に扉に向かって移動すると、それを見たカールは声を上げる。

「グ、グンドウさん奴隷が逃げますよ!」

 カールに向かってゆっくりと歩いていくグンドウは一度立ち止まり、後ろを振り返り私を視認する。

「奴隷よ、動くな。お前もラシェン王の殺害に関与しているのだろう? なら、逃す気は無い」

 カールの奴……余計な事を……

 逃げようと思えば、恐らく可能だろう……だが、もう少し時間を稼ぐか。
 私はグンドウに言われた通り、その場から動かないという意思を示す。

「物分かりの良い奴隷だ──さて、先ずはお前からだな」

 グンドウの雰囲気に、流石のカールも笑みを浮かべる事が出来ない様子だ。

「グ、グンドウさん分かりました! 俺、グンドウさんに大人しく捕まりますから!」

 この場を生き残るのは、それしか無いと考えたのかカールは降参と言わんばかりに両手を上げて無抵抗の意思を伝える。

 しかし……グンドウは歩みを止めない。

「グンドウさん……?」
「お前は、人間族の害になる──だからここでお前を殺しとくのが得策だと俺は考えた」
「ま、待ってくださいよ! 流石にそれは無いでしょう」

 もはや、カールの言葉はグンドウには届かず、一方的にグンドウが語り続ける。

「お前が遊撃隊隊長になってから、おかしな事ばかりが起こる」
「な、なんのことですか……」
「ラシェン王は元々他種族嫌いではあったが、お前が来てから更に潔癖と言っても良いくらいに他種族を敵視する様になった」
「偶々ですよ……」
「……かと言って、戦闘奴隷としてオーガやゴブリンを使う様になったのも、お前がラシェン王を唆したからだろう?」
「ち、違いますって!」

 グンドウの言葉が本当か嘘かなんて、カール以外に分かる筈も無いが、グンドウは今回の他種族奴隷化の戦争の起因はカールだと思っている様だ。

「お前を殺して、この戦争を止められるか分からんが、お前はこの世にいない方がいいのだけは分かる」

 話を聞く限り、グンドウは今回の全面戦争には反対の様子だ。

 そして、とうとうカールの目の前に到着するグンドウ。

「向こうに行ったら、ラシェン王に謝るんだな──では、さらばッ!」

 グンドウの両腕が淡く光る。

 そして、自身と同じくらいの大剣を高々に掲げて、カールに狙いを定め、一刀しようとした、その時──

「──ッグンドウ殿お待ちあれ!」

 室内でグンドウを止める声が響き渡る。

 その声にグンドウは振り下ろす手を一旦止める。
 すると、扉から室内に次々と人が雪崩れ込んで来た。

 ん? なんだコイツらは……?

 室内に入って来た者達はどいつも豪華そうな服装をしている為、全員が相当高い地位の者達だと見て取れる。

「ふふふふあははははは、お前ら遅いよ、全く」

 すると、いきなりカールが笑い出した……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...