上 下
390 / 492
第9章

389話

しおりを挟む
 静かな部屋、そしてその先に階段まで続く長い廊下に、誰かがゆっくりと歩く音が鳴り響く。

 音の調子から見て、恐らく相手は一人だろう……

 周りを見回すと、ガルル達が私の方を見て、どうするか視線で確認して来る。

 ……どうする? 相手は一人だし扉が開いた瞬間に攻撃を仕掛けるか──それしか無いな

 私の意図が分かった様で、仲間達が直ぐ様攻撃しやすい位置に着く。

 私は扉の正面で、かつ離れた場所に移動する。

 ガルル、ググガは私より少し扉に近付に移動した。

 そして、残りの二人は扉の左右の位置に着き部屋に入って来たところを狙う。

 誰だが分からないが、ラシェン王の部屋に近付いて来る足音がとびらの前で止まる。

 来るか……?

 しかし、何故か分からないが相手は扉を開けようとしない。

 少しの時間が経過する……

 そして、ゆっくりと扉が開かれた──それは、寝ているラシェン王を起こさない様に細心の注意をしながら。

「「──ッ」」

 扉が開いた事により、廊下の光が少しだけ部屋の中に入って来る。
 そして、扉の左右に待ち受けていた仲間の二人が攻撃を仕掛ける。

「──ッあはは、危ないねぇ」

 信じられない事に、相手は不意打ち攻撃にも関わらず二人の攻撃を避けた。

「ふぅ……やっぱり人間族とは違って、一人一人が強いねぇ……」
「お、お前は……」

 扉が完全に開かれた事によって、廊下からの光が溢れ、部屋に入ってきた人物の顔が判明する。

「な、なんでアンタが、こんな所にいるんだよ!?」

 相手の顔を見て驚いているガルル達──しかし、私だけはあまり驚かなかった……

「君達がココに居るって事は作戦は成功したのかな?」

 その人物は……カールであった……

 カールは昼間にあった時と、何も変わらない雰囲気で、ゆっくりと部屋に入り、そして手に持っている灯りでラシェン王の様子を伺った。

「うん、これは死んでいるね」

 そして、ここに来て初めてカールの表情が歪み、凶悪な笑みを見せた。

「皆んな、ご苦労だったね──まさか此処まで手早く、そして誰にもバレずにラシェン王を殺すとは思わなかったよ」

 今まではヘラヘラとした雰囲気だったカールが、今は悪、そのものしか見えない……

「お、お前──なんでこんな所にいるんだよッ!」

 ググガの言葉にカールは笑う。

「あはは、そうかそうか。そりゃ分からないよな」

 この状況についていけない私達と違って、カールは全てが計画通りと言わんばかりの表情で語り始めた。

「初めは、一週間前くらいかな──君達が丁度人間族の住処を茂みから探っていた時だね」
「な、何を言ってやがる……?」
「君達が、我々人間族の動向を探っていたのは気が付いていたさ──そして、それを俺は放置した」

 なんだと……?! コイツはあの時に私達に気が付いていたって事か……?

「見つけたのは……まぁ、偶然かな。遊撃達の任務で単独行動していて、その時に君達を見つけたんだよ」
「そんな気配は一切感じなかったぞ……?」

 ガルルの言う通り、私達は細心の注意を払いながら偵察をしていた。

 そして、偵察に見落としが無い様に常に三人は周りを警戒しながら人間族の動向を観察していた──それなのに、誰一人気が付かなったって事なのか?!

「あはは、まぁ君達の見張りはかなり優秀で大変だったよ。ここの門番なんて君達の監視からしたら、お遊びもいい所だ」

 カールは自分の仲間達を卑下する。

「まぁ、俺からしたら、君達の見張りすらお遊びに見えるけどね」

 ニヤリと小馬鹿にした様子で話すカールはこれまでのカールとは何から何まで違う。

「まぁ、たまたま見つけた君達の目的が知りたくて、俺も暫く近くで監視してたんだよ」

 コイツは私達の監視を掻い潜っただけでは無く更には私達の監視までしていたのか……

「君達を監視していたら面白い事が聞けてね……」
「お、面白い事ってなんだよ?!」
「あはは、ラシェン王の暗殺計画だよ!」
「「「「「──ッ!?」」」」」

 カールの言葉に私達は目を見開き、驚く。

「ちょ、ちょっと待て──俺達はアソコではラシェン王の話なんてしてねぇーぞ……?」
「知っているよ? でも、その後はしたでしょ?」
「そ、その後ってお前……」

 ググガの言葉が止まるのも分かる──私達がラシェン王の殺害を話していたのは、ネーク達と合流してからだ。

 つまり、この男は私達だけでは無くネーク達獣人族全員に見つからず監視をして、更には私達の目的を知ったって事か……?

 信じられない話を聞かされた私達は、ただただカールを見る事しかできなかった……

「驚いたかい?」

 私達の顔を見て、とても面白そうにしているカール。

 そんなカールにガルルが口を開く。

「何故、俺達を止めなかった……?」
「まぁ、俺にも目的があってね……その目的と君達の目的が一致したと言えば分かりやすいかな?」
「どう言う事だ……?」

 ガルルに質問され、カールは笑いながら語り始めた……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...