上 下
377 / 492
第9章

376話

しおりを挟む
「き、気は乗らないが行かせてもらうぞ」

 副隊長が右足を少し後ろに下げたと思ったら、信じられ無い程のスピードでこちらに走り寄って来た。

 ──ッ速い、けどこれなら視認出来る。

 副隊長は何故か私を攻撃するのでは無く掴む様に手を伸ばしてく来た。
 私はその手を片手で振り払い、もう一方の空いている手で拳を叩き付ける。

「──ッ」

 しかし、私の打撃は相手に受け止められてしまう。

「ふむ、流石隊長が連れて来ただけはある……しかし軽いッ!」

 相手は私の攻撃を受け止めた手に力を込めると、そのまま投げ飛ばす。

 強い……

 私は、投げ飛ばされながらも、体制を整えて着地する。

「隊長……私は女と戦うのは趣味じゃ無いので変えて貰えませんか?」
「あはは、女と言っても、そこに居るのは君達が日頃馬鹿にしている獣人だぞ?」
「……」
「まぁ、もう少し戦って貰うよ? 別に殺せと言っている訳じゃ無い」

 それだけ言うとカールは観戦する様に黙り込む。

「仕方ない……少し手荒になるが我慢して貰うぞ」

 副隊長が私に話し掛ける──すると、カールが思い出す様にして口を開く。

「あ、そうそう──言い忘れたけど、この訓練で君達奴隷が使え無いと思えばプブリウスさんの所に戻すつもりだから、それが嫌なら君達の力を俺に見せてくれ」

 カールの言葉に私達は反応する。

 ──それは不味い……せっかくラシェン王に近づけて居るのにプブリウスの所に戻されたら暗殺する所じゃ無いな。

 何故、カールがいきなりそんな事を言ってきたか不明だが私はスキルを使用する事にした。

「それでは、いくぞ?」

 副隊長は律儀に言ってから再度、こちらに向かって走り出す。

 ──先程より早い?! 身体強化か。

 確かに速いが、反応出来ない程では無い……私は、両拳に炎を纏わせた。
 身体強化の方は知られたく無いので、これだけで乗り切るッ!

 私の武器強化に警戒する副隊長。

「──ッ武器強化か……だが、突っ込む!」

 鋭い蹴りを繰り出して来るが、私は冷静に捌き、炎を纏わせた拳で突き出す。

 しかし、副隊長も私の拳を冷静に捌く。

 そこからは、お互いに攻撃と防御を繰り返し、互角の戦いが続いた。

「うふふ、流石シク様だわ……」
「す、凄いです! カッコいいです」
「あはは、シク様すげーぜ! アレで、まだ本気も出してないんだぜ?!」
「ググガよ……それは秘密だし軽々しく口にするな」
「あ、あぁ悪い」

 それから、暫くしてカールが止める。

「よーし、戦いを止めてくれ。副隊長の訓練には十分なったと思うし、シクさんの実力も分かった」

 私と副隊長はお互い両手を下ろす。

「シクさんとか言ったかな?」
「あぁ」
「貴方は強いな」
「ありがとう」

 副隊長からの言葉にお礼を言って、私はその場から離れる。

 恐らく、副隊長の本来の戦い方は拳では無いだろう……

「次は他の者達にも戦って貰うぞ」

 それからカールは兵士達を集めてガルル達と訓練する様に指示を出した。

「シクさんの実力は十分理解したから次は君達の力を見せてくれ」

 それから、皆んなも兵士達と戦ったが基本1対1の戦いでは誰一人として負けなかった。

「よーし、そこまで。皆んなの良い訓練になったし、獣人達の実力も良く分かった」

 カールの言葉に、殆どの兵士が悔しそうな表情を浮かべた。

「クッソ……あんな劣等種に、いいようにやられた……」
「ッばっか! これは徒手空拳だろ? 武器が有れば、あんな奴ら……」

 兵士達の、特に私達と戦った者達は睨み殺さんばかりの視線を向けていた。

 唯一、副隊長だけは、なんとも言えない様な表情を浮かべていた。

「悔しいかもしれないが、それをバネにして成長する様に」
「隊長!」

 一人の兵士がカールに話し掛ける。

「もう一度、俺達に戦わせて下さい! 次は武器ありで!」
「そうです。武器さえ有れば、そんな奴らに負ける事はありません!」

 一人の兵士の言葉から次々と同意の声が上がる。

「隊長、私達もお願いします──人間族の女が獣人なんかに負けたとあったら恥ずかしくて生きていけません!」
「そうです!」

 女性兵士がリッテとキャリを睨みつける。

「あはは、これだよ。こういう結果を望んでいた」

 カールは今のやり取りを見て笑っている。

「お前達の、そのやる気は分かった。だがこの奴隷達は他の兵士達も相手にして貰うから、今日はここまでだ」

 隊長であるカールの言葉には、流石に逆らえないのか、悔しそうに押し黙る兵士達。

「それじゃ、お前達は引き続き訓練をしろ──俺は城内に用事がある」

 そう言って、兵士達を散らばせる。

「シクさん、ガルルさん、リッテさんは私に付いてきて下さい──他の人は小屋に戻って貰う」

 城内だと……? 

 カールの言葉に私とガルル、リッテは目を合わせてお互い頷く。

「お、俺もいくぜ!」
「わ、私もお供します」

 ググガとキャリ、他の皆もカールに進言するが……

「あはは、お供してくれるのは嬉しいけど、そんなに大勢引き連れては行けないから三人だけにさせて貰うよ」

 こうして、私とガルル、リッテはカールと一緒に城内に行く事になった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...