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第9章

367話

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 グンドウの強い気配を肌で感じだ私は頭の中で一瞬で理解してしまった。

 無理だ……コイツがいる限りラシェン王の殺害は出来ない……

 もちろん、速さだけで言えば私の圧勝だろう──しかし、いくら速くてもグンドウ相手には意味を持た無さそうだ。
 仮にこの場で全力でラシェン王を殺しに行ってもグンドウに押さえ込まれてしまうのは目に見えている。

 それに……──私はグンドウだけでは無く、ラシェン王を挟んだ逆側の男にも視線を向ける。

「あはは、グンドウさんは心配症ですね──この様な身なりをしているって事は奴隷に決まっているでしょ」
「黙れカールッ!」

 コイツがカールか……ネークの話では聞いていた。

 遊撃隊隊長のカールは最近になって任命された為、情報が全く無いと……

 コイツも厄介そうだな……デグやベムくらいの年齢だろうか──隊長にしては随分と若くて見える。
 しかし、それが強さの証明と言っても良いだろう……

 この若さで隊長と言う事は相当に強いか何かを持っているかだな。

「プブリウスよ、今日は楽しみにしているぞ?」
「ハッ! 私の奴隷の命を捧げてでもラシェン王を楽しませて見せましょう」
「ふふ、期待している」

 それから、プブリウスと私は挨拶を済ませて元に戻る。

「シク様、ご無事でしたか?!」

 皆と合流すると、リッテが小声で心配して来る。

「あぁ、大丈夫だ……しかし少し問題が起きた」
「問題ですか……?」

 私は、ラシェン王を守っているグンドウとカールに付いて伝える。

「……グンドウとカールですか──その者達はシク様から見ても強いのでしょうか?」
「あぁ、段違いだ──特にグンドウは私では敵わないだろう」

 リッテと、その隣で話を聞いていたキャリが驚愕する。

「そ、それでは作戦はど、どうするのですか?」
「作戦は実行する……しかし、私に何かがあれば、リッテとキャリが皆を率いてガルル達に合流するんだ」
「「──ッ!?」」

 二人は目を見開き、何かを口にしようとした所で……

「シクさん、何をしているのですか? 私達も席に座りますよ?」

 プブリウスに呼ばれてしまった為、二人との会話を切って、移動する。

「ふふ、イベント協力者と言う事で特別席を用意して頂きました──シクさんは私の席の隣に座って下さい」

 プブリウスの言われ、隣に座る。
 周りを見ると私以外の奴隷は少しだけ離れた場所に座らせる様だ。

 これで、作戦実行間際まではリッテやキャリと話せないな……

 グンドウとカールを、どうするか話し合いたかったが、どうやら、そんな暇はない様だ。

「ふふふ、楽しみですね──これであの二人が活躍するか、華々しく死んでくれればラシェン王も喜んでくれるのですがね……」

 ニヤリと笑いながら独り言なのか私に話しているのか分からない声色でプブリウスは闘技場を見ている。

「プブリウス様、先程会った方がラシェン王か?」
「えぇ、そうです。いつ会っても素晴らしい人ですねぇ……」

 あの、醜い者が素晴らしいだと……?

 やはり、人間族と獣人族では感性が違うのかもしれないな。

「では、ラシェン王の両隣に立ち並んでいた者達は?」
「あぁ、あの二人ですか。ラシェン王の右側に居た大柄の方がグンドウ様ですね──あの方は人間族最強です」

 やはり、強さは折り紙付きか……

「では、もう一人の方はどんな者なんだ?」
「……カールですか」

 プブリウスが顔を少しだけ歪めるのを私は見逃さなかった。

「あの忌々しい平民上がり……」

 プブリウスは首を何度か横に振りながら話始める。

「あのカールと言う者は、突然成り上がって来たのです」
「突然?」
「えぇ。最初は憲兵からだと聞いておりますが、詳細は不明です」

 不明だと……

「金の力で成り上がったと言う噂もあれば、武力で成り上がったなども言われています──ただ一つ言える事は王に従えている者の殆どが良く思ってないと言う事ですね」

 成る程……何の地位も無い者が突然隊長の地位まで登り詰めれば批判を食うのは当たり前か……

「忌々しい事に、平民上がりの為か、国民達には人気でしてね……」

 プブリウスの表情でカールという者がどんな者か何となく分かったが実力に関しては未だ分からない……

 果たして、この作戦でラシェン王を殺害する事が出来るのか?

 心配の種が増え、どうするか考えていると、周りの観客が一気に湧き上がる。

「なんだ?」
「シクさん、始まりますよ……?」

 プブリウスの声に私は闘技場に視線を向けると、そこには鎖で繋がれて二人の獣人族が登場した。

「ガルル、ググガ……」

 そして、もう一方の登場口から、なんと小型のモンスターが鎖に繋がれて登場した……

「本当にモンスターを……」
「ふふ」

 何が楽しいのかプブリウスは笑い、そして無意識に足を子供の様にバタつかせている。

 こうしてガルル、ググガは小型と対面した……
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