326 / 492
第8章
325話
しおりを挟む「シャレ様──人間族がこちらに向かって来ます!」
バルオールによりエルフの村を守る役目の門が破壊された。
そして、門から次から次へと敵が村に侵入して来る様子をシャレは茫然と見ていた。
「シャレ様! しっかりしてください──人間族がこちらに向かって来ます!」
側近でもあるニネットが肩を揺らしてシャレを正気に戻そうとする。
「あぁ……村が……」
それでも、シャレはニネットの言葉に反応せず、自身の村を見回す。
そこには、敵である人間族、オーガ族、ゴブリン族が凶悪な笑みを浮かべていた。
「み、皆んなを、た、助けないと……」
オーガ族とゴブリン族に関してはそれぞれの標的である、ニルトンの所やドワーフ達の所に向かって移動をしていた。
だが、人間族は違った。
戦う為──もしくは奴隷にする為、または愉しむ為にこちらに向かってくる者や、村人のエルフ達を犯す為に村の奥にどんどん入り込んでいく者や、既に兵士であるエルフを捕まえて数人掛で抑え込んで愉しもうとしている者達まで居た。
──あぁ……私の村が……人間族達によって壊される……
シャレは頭の中が真っ白になり、何も考えられない状態の様だ。
「あぁ……あの時と一緒だ……」
恐らくあの時とは、シャレが子供の頃に村が襲われた時だろう。
「み、皆んなを逃さないと……」
ここに来て、シャレは戦う事では無く逃げようと考えた様だ……
「ニ、ニネット──み、みんなを逃さないと」
「ダメです、シャレ様! 仮に逃げたとしても直ぐに追い付かれます──ここは戦わないと!」
「だ、だけど皆んなが……」
オロオロするシャレを他のエルフが見ている。
村の代表であるシャレの様子を見て、不安になっているエルフ達も少なく無い様だ。
「ね、ねぇ、シャレ様がおかしくない?」
「あ、あぁ。どうされたんだ?」
村の代表であるシャレが不安そうにしていると、勿論村人であるエルフ達は何かあったのでは無いかと不安になる。
そして、その不安がどんどんと伝染していく様に広がり、人間族がこちらに向かっているのにも関わらず誰一人として武器を構えて居なかった……
そんな様子を見ていたニネットはこのままでは不味いと思い必死にシャレを元に戻そうとするが、なんとも反応が悪い。
「はぁ……全く……シャレちゃんはダメだな」
その時、一人のエルフが現れる。
「トラクさん……」
「ニネットさん、私に任せて?」
苦笑いを浮かべながらトラクはシャレの前に来て──
「──ッごめんね!」
いきなり、シャレの頬を叩いた。
トラクの行動に驚くエルフ達だったが、シャレには効果的の様だった。
シャレは正気を戻したのか目をパチパチと何度か開いたり閉じたりして、目の前のトラクを見る。
「トラク……?」
「うん、そうだよ?」
「なんで、ここに?」
「シャレちゃん達に武器を届けに来たんだよ」
そう言って、トラクは背中に背負っていた大きな袋を地面に広げた。
そこには、色々な種類の武器があった。
恐らく、トラクがシャレ達の為に必死に作ったのだろう。
「シャレちゃん、しっかりしようよ! みんなシャレちゃんの事見て不安そうにしているよ?」
トラクの言葉にシャレはハッとなり周りを見回す。
トラクの言う通り仲間のエルフ達は皆が眉を下げて不安そうにしている。
──私は一体何をしているんだ……これじゃあの頃から何も変わってないじゃないか!
先程まで、視点が定まっていない状況であったが、トラクの一発が効いたのか目に力が宿り始めた。
──もう、あんな何も出来ない自分は嫌だ!
シャレの目に完全に光が宿る。
そんなシャレを見てトラクは頷く。
「ふふ、いつもの強いシャレちゃんに戻った様だね?」
「あぁ……迷惑を掛けた……」
「気にしないでよ──そんな事より、早くみんなに戦闘準備させ無いと敵が来ちゃうよ!」
トラクの言葉に一度頷いたシャレは声を張り上げる。
「皆んな、済まなかった! この様な大きな戦で我を忘れてしまった──しかしもう大丈夫だ!」
シャレの力強い声にエルフ達は表情を引き締める。
「人間族は我々を奴隷にするつもりだ──だがそんな事は私がさせない!」
シャレが自身の武器である漆黒の大鎌を構える。
「私は全力で皆んなを守る! ──だが一人では無理だから力を貸してくれ!」
シャレの言葉に応える様に他のエルフ達も武器を構える。
そして、シャレ達は直ぐ目の前に迫り来る人間達を待ち構える。
「トラク、ニネット──厳しい戦いになるが死なないでくれ」
「大丈夫だよシャレちゃん、私は死なないから!」
「私もです」
人数は圧倒的に人間族が多く、もしシャレ達が捕まれば、奴隷する前に、まずは慰め者にされるだろう……
そんな恐怖心を抱えながら武器を構えるエルフ達。
しかし、人間族からしたら、それすらも興奮するのか、下卑な笑みを浮かべていた。
「よー、エルフさん達よ、やっと対面出来たぜ」
一人の人間族が一旦シャレ達の目の前で止まる。
また、その男が止まった事により他の人間族も一度止まり、笑っていた。
「このまま、戦うのも良いけどよう、俺達は出来るだけお前らを傷付けたくねぇーんだわ」
男はシャレを上から下まで舐め和す様に見る。
「そこで、提案なんだが──大人しく捕まってくれないか?」
男の提案にシャレは……
「──断る! お前らに捕まるくらいならモンスターに食われた方がマシだ」
「へっへっへ。随分とまぁ面白い事を言ってくれるじゃねぇーかよ」
何がおかしいのか男はヘラヘラ笑う。
「まぁ、戦うのも嫌いじゃねぇーから、俺はどっちでもいいんだけどな」
男は下ろしていた武器を構える。
「後悔すんなよ?」
「一生するつもりは無いな」
「「……」」
そして暫くの沈黙の後に男は動き出す。
「お前らヤっちまうぞー!」
「「「「「「「「おう」」」」」」」」
こうして、エルフと人間族の戦いが始まった。
バルオールによりエルフの村を守る役目の門が破壊された。
そして、門から次から次へと敵が村に侵入して来る様子をシャレは茫然と見ていた。
「シャレ様! しっかりしてください──人間族がこちらに向かって来ます!」
側近でもあるニネットが肩を揺らしてシャレを正気に戻そうとする。
「あぁ……村が……」
それでも、シャレはニネットの言葉に反応せず、自身の村を見回す。
そこには、敵である人間族、オーガ族、ゴブリン族が凶悪な笑みを浮かべていた。
「み、皆んなを、た、助けないと……」
オーガ族とゴブリン族に関してはそれぞれの標的である、ニルトンの所やドワーフ達の所に向かって移動をしていた。
だが、人間族は違った。
戦う為──もしくは奴隷にする為、または愉しむ為にこちらに向かってくる者や、村人のエルフ達を犯す為に村の奥にどんどん入り込んでいく者や、既に兵士であるエルフを捕まえて数人掛で抑え込んで愉しもうとしている者達まで居た。
──あぁ……私の村が……人間族達によって壊される……
シャレは頭の中が真っ白になり、何も考えられない状態の様だ。
「あぁ……あの時と一緒だ……」
恐らくあの時とは、シャレが子供の頃に村が襲われた時だろう。
「み、皆んなを逃さないと……」
ここに来て、シャレは戦う事では無く逃げようと考えた様だ……
「ニ、ニネット──み、みんなを逃さないと」
「ダメです、シャレ様! 仮に逃げたとしても直ぐに追い付かれます──ここは戦わないと!」
「だ、だけど皆んなが……」
オロオロするシャレを他のエルフが見ている。
村の代表であるシャレの様子を見て、不安になっているエルフ達も少なく無い様だ。
「ね、ねぇ、シャレ様がおかしくない?」
「あ、あぁ。どうされたんだ?」
村の代表であるシャレが不安そうにしていると、勿論村人であるエルフ達は何かあったのでは無いかと不安になる。
そして、その不安がどんどんと伝染していく様に広がり、人間族がこちらに向かっているのにも関わらず誰一人として武器を構えて居なかった……
そんな様子を見ていたニネットはこのままでは不味いと思い必死にシャレを元に戻そうとするが、なんとも反応が悪い。
「はぁ……全く……シャレちゃんはダメだな」
その時、一人のエルフが現れる。
「トラクさん……」
「ニネットさん、私に任せて?」
苦笑いを浮かべながらトラクはシャレの前に来て──
「──ッごめんね!」
いきなり、シャレの頬を叩いた。
トラクの行動に驚くエルフ達だったが、シャレには効果的の様だった。
シャレは正気を戻したのか目をパチパチと何度か開いたり閉じたりして、目の前のトラクを見る。
「トラク……?」
「うん、そうだよ?」
「なんで、ここに?」
「シャレちゃん達に武器を届けに来たんだよ」
そう言って、トラクは背中に背負っていた大きな袋を地面に広げた。
そこには、色々な種類の武器があった。
恐らく、トラクがシャレ達の為に必死に作ったのだろう。
「シャレちゃん、しっかりしようよ! みんなシャレちゃんの事見て不安そうにしているよ?」
トラクの言葉にシャレはハッとなり周りを見回す。
トラクの言う通り仲間のエルフ達は皆が眉を下げて不安そうにしている。
──私は一体何をしているんだ……これじゃあの頃から何も変わってないじゃないか!
先程まで、視点が定まっていない状況であったが、トラクの一発が効いたのか目に力が宿り始めた。
──もう、あんな何も出来ない自分は嫌だ!
シャレの目に完全に光が宿る。
そんなシャレを見てトラクは頷く。
「ふふ、いつもの強いシャレちゃんに戻った様だね?」
「あぁ……迷惑を掛けた……」
「気にしないでよ──そんな事より、早くみんなに戦闘準備させ無いと敵が来ちゃうよ!」
トラクの言葉に一度頷いたシャレは声を張り上げる。
「皆んな、済まなかった! この様な大きな戦で我を忘れてしまった──しかしもう大丈夫だ!」
シャレの力強い声にエルフ達は表情を引き締める。
「人間族は我々を奴隷にするつもりだ──だがそんな事は私がさせない!」
シャレが自身の武器である漆黒の大鎌を構える。
「私は全力で皆んなを守る! ──だが一人では無理だから力を貸してくれ!」
シャレの言葉に応える様に他のエルフ達も武器を構える。
そして、シャレ達は直ぐ目の前に迫り来る人間達を待ち構える。
「トラク、ニネット──厳しい戦いになるが死なないでくれ」
「大丈夫だよシャレちゃん、私は死なないから!」
「私もです」
人数は圧倒的に人間族が多く、もしシャレ達が捕まれば、奴隷する前に、まずは慰め者にされるだろう……
そんな恐怖心を抱えながら武器を構えるエルフ達。
しかし、人間族からしたら、それすらも興奮するのか、下卑な笑みを浮かべていた。
「よー、エルフさん達よ、やっと対面出来たぜ」
一人の人間族が一旦シャレ達の目の前で止まる。
また、その男が止まった事により他の人間族も一度止まり、笑っていた。
「このまま、戦うのも良いけどよう、俺達は出来るだけお前らを傷付けたくねぇーんだわ」
男はシャレを上から下まで舐め和す様に見る。
「そこで、提案なんだが──大人しく捕まってくれないか?」
男の提案にシャレは……
「──断る! お前らに捕まるくらいならモンスターに食われた方がマシだ」
「へっへっへ。随分とまぁ面白い事を言ってくれるじゃねぇーかよ」
何がおかしいのか男はヘラヘラ笑う。
「まぁ、戦うのも嫌いじゃねぇーから、俺はどっちでもいいんだけどな」
男は下ろしていた武器を構える。
「後悔すんなよ?」
「一生するつもりは無いな」
「「……」」
そして暫くの沈黙の後に男は動き出す。
「お前らヤっちまうぞー!」
「「「「「「「「おう」」」」」」」」
こうして、エルフと人間族の戦いが始まった。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる