過酷な場所で生き抜く為に──食物連鎖の頂点が巨大モンスターの世界で死ぬ気で生き抜きます

こーぷ

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第8章

319話

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「クッ、なんてふざけた事を!」

 シャレの横に居る騎士の格好をしたニルトンが怒りを露わにする。

 しかし、それはニルトンだけでは無くエルフ族、全員である。

「どうせ、奴隷の人数を減らしたく無いだけだろ!」

 ニルトンに続き一人のエルフが呟いた言葉に、他のエルフも同調する。

「どうだ? お互い戦い合うのも本望ではあるまい──もし難しい様であれば、エルフ族の女だけでも構わないのだが?」

 門の前でシャレを見上げる様にしている人間族は卑猥な笑みを浮かべていた。

 卑猥な視線を向けていたのは、その人間だけでは無く周りに居る数人もシャレを見ながら同じ様な笑みを浮かべている。

「うへぇ……気持ち悪い……」
「私もあの顔はちょっと……」

 ロピとチルが嫌悪感を表す。

 本当に気持ち悪い表情をしているな……

 俺達でさえ、気持ち悪いと思っているなら、実際のその笑みを向けられているエルフ族の女性やシャレは一体どんな気持ちなのか……

 俺はチラリとシャレの表情を盗み見る。

 ──ッ!

 シャレの表情は凍りついた様に無表情であった。

 まるでゴミを見る様な視線を門の下に居る人間族に向けている。

 しかし、その表情ですら興奮するのか、シャレに睨まれている人間族はゲラゲラと笑っていた。

「あはは、貴様──エルフ族の村長だけあって美人だな──どうだ、俺と一緒に?」

 醜悪な表情でシャレに向かい言葉を投げ掛ける人間族。

 すると、いきなり人間族の頭に弓矢が突き刺さった。

 今の今までシャレを見上げていた人間族は、下卑な笑みのまま倒れ込む。

「──ッひぃぃぃ!!」

 仲間の頭にいきなり弓矢が突き刺さったのを見て周りに居る人間族は腰を抜かす。

 そして、一本の弓矢に続く様に次々と矢が放たれ、人間族の頭に突き刺さる。

 ドサリと音を立てながら倒れ込む人間族──その中で一人だけ頭に弓矢が突き刺さって居ない人間族にシャレが冷めた声で伝える。

「お前達のボスに伝えろ──我々は投降する気は無いと」

 先程と同じく冷めた視線を向けているが、状況が変わった事に人間族の怖がる。

「──ッたたた、助けてくれ、死にたくねぇ!」

 恐怖により腰を抜かしているが、それでも這いつくばりながら、人間族の陣営に向かって逃げて行った。

「──フンッ、全員殺しても良かったでしょう」

 騎士の姿をしたエルトンがシャレに向かって言う。

「いや、私達の意思を伝える為には一人は生かしとく必要があるから、これで良い」

 シャレは冷めた目で人間族を見ていたが、エルトンに話し掛ける時は、何時もの綺麗な笑顔であった。

「わ、分かりました」

 シャレに微笑み掛けられて、ニルトンは顔を赤くしながら視線を逸らす。

 そして、シャレが全員に声を掛ける。

「皆! これから本格的に人間族が攻めて来る! 戦いの準備をしてくれ!」
「「「「「「おう!!」」」」」」

 シャレの言葉に全員が声を揃えて返事をして、急いで各自の配置につく為に移動する。

「お兄さん、私達はどうするのー?」
「そうだな……まだ何も聞いてないな」
「出陣しますか?」
「ほっほっほ。私とチル様で先陣を切るのも面白そうですな」

 どうやら、チルとリガスは既に戦闘モードにスイッチが切り替わっている様だ。

 すると、キル がこちらに近付いて来た。

「アトス、お前達はこっちだ」

 キル に呼ばれて後をついて行く。

「なぁー、俺達はどうすれば良いんだ?」
「まぁ、黙ってついて来い」

 それから、木で出来た防壁を一度降りて、少し歩くと……

「アトスと雷弾は全体を見渡させる方が良いと思ってな──この矢倉を作っといたぞ」

 キルは自身の作った矢倉を俺達に紹介する様に手を向けた。

 キルの手に誘導されながら、矢倉を見る俺達。

「おー……」
「すごーい、防壁より高いよ!」
「立派です」
「ふむ──これ程高さがあれば広範囲を見渡せますな」

 その矢倉は防壁よりも高く、また大分凝った作りをしているのか、とても頑丈そうに見える。

「防壁と同じ様に泥などで加工しているから、直ぐには火が広がる心配は無い」
「ふむ。確かに、これなら仮に火がついても、十分降りる時間はありそうですな」

 すげぇな……こんなのを短期間で作ったのかよ……

 俺は改めてドワーフ族の建築技術の高さに驚く。

「なら、俺達はここで状況に合わせて動けば良いのか?」
「あぁ。剛力と鉄壁に関しても最初はここで問題無い──しかし状況的に危なそうなら、助けてくれると有難い」

 キル が俺達に頭を下げる。

「任せて」
「ほっほっほ。お任せよ」
「助かる」

 キル は長い顎髭を揺らしながら微笑む。

「それじゃ、ワシも配置に着く」
「あぁ──死ぬなよ?」
「フン──誰に物を言っている!」

 俺とキル は笑い合うと、キル が走って自身の配置場所に移動して行った。

 後ろを振り向くと、ロピは早速矢倉に登っていた。

「私が一番のりー!」

 そして、チルとリガスは戦場について話し合っていた。

「ふむ。ここからだと直ぐに戦場に行けませんな」
「うん、門まで距離が空いているからね……」

 チルとリガスの言う通り、矢倉は門から少し離れて設置されている為、戦場に出る為には一度矢倉を降りて防壁まで移動する必要がある。

「まぁ、キル も言っていたが、どっちにしろ最初は戦場に出ないで良いんだし、そこまで気にする必要ないだろ」

 俺の言葉に、二人は黙り込み、どこか残念そうな表情を浮かべていた。

 この二人……戦いたいだけなんじゃ……?

 そんな事無いと思いつつ、ロピを追う様に俺達も矢倉に登った。

 
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