上 下
310 / 492
第8章

309話 シクとネーク 2

しおりを挟む
 ネークに乗せられて大勢の前で話し、疲れてしまった私は、直ぐに人の少ない所まで移動して座り込む。

「ふぅ……」

 すると、ネークが近寄って来て労を労ってくれる。

「シク様、お疲れ様です」
「あぁ──本当に疲れた」
「はは、申し訳無いですが、後数回は同じ事をして貰いますよ?」

 元から言われて居た事とは言え逃げ出したい気持ちになる。

「大体どれくらいの獣人族が集まる予定なんだ?」
「そうですね……」

 ネークは頭の中で計算しているのか、手に顎を乗せて考えている。

「かなり遠くの者達にも声を掛けましたから、獣人族の半数は集まると思われます」
「それは凄いな」

 ただでさえ、今見た人数ですら相当な数の筈なのに、まだ居る事が驚きである。

「これからどうする予定なんだ?」
「まずは、今日やった事を後数回程やるつもりですが、その後はシク様にもう一つお願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」

 ネークが少し申し訳無さそうに聞いてくる。

「なんだ?」
「人間族の住処の偵察をして来て欲しいのです」
「偵察?」
「はい、戦力差がかなり有るのは分かるのですが、実際どれ程あるかを探って欲しいです」

 成る程、確かに相手の戦力を知るのは大事な事だな。

 私が考えていると、ネークが続けて話し掛けて来る。

「恐らく、何かあった時にシク様なら難なく逃げ出せると思いますので──少し危険かもしれませんが、頼まれてくれませんでしょうか?」

 ネークが頭を下げる。

「ネークよせ──今では獣人族を纏める者として、気軽に頭を下げるべきでは無い。一体誰に見られているか分かったものでは無いしな」

 私の声に頭を上げて、苦笑いするネーク。

「ははは、そんな器じゃ無いですが、いつ間にか纏める立場になってしまいましたね」

 ネークは最初、獣人族のリーダーになるつもりは無く、私になって貰う予定だったらしいが、それを私は断固として拒否をした。

 協力するのは別に構わないが、誰かを纏め上げるなんて出来る気がしないしな。

 私が拒否した為、しょうがなくネーク自身がリーダーになる事を決意し、今に至る。

「いつ、私は人間族の住処に向かえば良い?」
「申し訳無いですが、獣人達に白き閃光のお披露目が終わったら直ぐに向かって頂きたい」

 私はコクリと頷く。

「それと、もう一つお伝えする事があります」
「ん?」
「何やらエルフ族から手紙が届きました」
「手紙?」

 ネークが手紙を渡して来た為、受け取り読み進める。

 すると、そこには人間族が一年後に他種属を奴隷にする動きを見せていると書かれており、一緒に戦って欲しいと書かれていた。

「なるほど……ネークはどうするつもりなんだ?」
「一度様子見ですね──確かに我々も戦力が増えれば嬉しい限りですが、役に立たない者が増えても逆に邪魔なだけですからな」

 厳しい言葉の様に聞こえるが、その通りだと、私も思う。

 本来なら、あの時、デグ達とも一緒に逃げ出したかったが、人間族という事もあり、明らかに私達獣人族のスピードに付いて来れてなかった。

 体力が相当あるレギュだけなら、もしかしたらギリギリ着いて来れたかも知れないが、それでも私やネークのスピードには着いて来れないだろう。

 やはり、弱い者が居れば、その分強い者がフォローに回らなければならない──そういう事をネークは危惧しているのだと思う。

「分かった──エルフ達と手を組むかどうかはネークに任せる」
「ありがとうございます。しばらく様子を見て判断しようかと思います」
「あぁ、分かった」

 それから、これからの事をより詳細に詰めていく私達の所に何やら近付いて来る足音が聞こえた。

「「……」」

 私とネークは会話を止めて足音の正体が現れるのを待つ。

 すると、何やら会話する声が聞こえて来た。

「兄貴、早くしろよ!」
「慌てるな、ググガよ」
「確か、この辺に白き閃光が入って行く所を見たんだけどな」

 そして、声の正体が姿を表す。

 どうやら、獣人族の二人組の様だ。

「兄貴、居たぞ! 見ろよ、すげー雰囲気を纏っているぞ!」
「あぁ……流石はダブル持ちだ……」

 二人組の獣人族が近寄って来る。

「誰だ貴様らは」

 ネークの表情が険しくなる。

 その表情に一瞬二人の獣人族がビクついた。

「お、俺達はネークさんの呼び声に賛同して来た者だぜ──俺はググガ」

 そして隣にいる獣人も自己紹介する。

「私はガルルと申します。ネークさんと白き閃光の先程の言葉に感銘を受けまして一度対面したいと思い参りました」

 ガルルという者が一度頭を下げる。

「何故、後を追って来た」
「一度二人を、間近で見てみたいと思いまして」
「そうか──ならもう用は済んだな」
「いえ、お待ち下さい。ネークさんは勿論の事」

 一度言葉を切りガルルとググガこちらに向く。

「白き閃光を見て思いました──どうか私達に貴方様の手伝いをさせてくれませんでしょうか」

 そう言って二人は私を敬う様に地面に片膝を付く。

「私達は何故か貴方を見てから、貴方の手伝いをしたいと思いました」
「はは、しかも直接会ったら尚更だぜ──それに、不思議とアイツの匂いがするな兄貴」

 ググガが何やらよく分からない事を言っているが、兄のガルルに静かにする様に言われる。

 私がどうすれば良いか困っていると、ネークが話し出す。

「ふむ。丁度良いな」

 何やら一人で納得するネーク。

「お前達、スキルはなんだ?」
「私達は二人とも身体強化になります」
「部位は?」
「足だぜ!」

 その言葉を聞き、ネークは何度も頷く。

「ますます、好都合だ──よし分かった。お前達に任務を与える」

 ネークの言葉に二人は顔を上げる。

「白き閃光にはある任務を先程お願いした──その任務にお前達もついていきサポートしろ」

 任務の内容を聞き二人は頷く。

「だが一つだけ注意点がある。自分達がどうなろうと白き閃光だけは守り通せ、理由は分かるな?」

 二人は再び大きく頷いた。

「そういう事になりました白き閃光よ」
「いや、別に私一人で問題無いが」
「いえ、それでは流石に負担が掛かります──それに偵察には元から何人かサポートを付けようと思っていましたし、後で軽く試験をしますが、この二人なら問題無さそうです」

 一度二人に視線を向けると、お互い喜び合っていた。

「分かった……」

 こうして、人間族の住処の偵察には私とガルル、ググガと残り数人で向かう事になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...