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第8章

295話 リガスでも勝てなかった相手とは……

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「あれは、結構昔ですな──まだ私が親族と離れて一人旅を始めた頃になります」

 リガスが魔族以外に負けた時の話を始める。

「当時はまだ戦闘のなんたるかを一切理解などせずに、ただ自身の生まれ持った身体能力だけで戦っておりましたし──それだけで負ける事もありませんでした」

 まぁ、実際にリガスの身体能力は凄まじいからな……

 今まで、一緒に旅をしててモンスター以外に苦戦をしている所なんて見た事が無い──あのチルの先生であるグインですら圧倒していたからな。

「そんな時、ある者に出会いましてな──私も昔は今よりヤンチャでしたので少しでも強そう者を見ると戦いたくなるので、その時も戦いを挑みました」

 リガスの言葉にロピが小さい声で話し掛けて来る。

「い、今でも十分好戦的だよね……?」
「あぁ……リガスとチルは戦闘狂だからな……」

 俺とロピの反応とは別に横に居るチルは分かると言わんばかりに首を縦に振る。

「ですが、その者に声を掛けても一向に返答が無く、痺れを切らした私は襲いかかりました」

 懐かしむ様に笑うリガス。

「お、お兄さん──なんで無視されているのに、襲いかかるのかな……?」
「お、俺に聞くなよ……」

 戦闘好きの考えが分からん……

「そして、その者は見事に私の初撃を受け止めて──そこからは逃げられないと思ってなのか私と戦ってくれましたな」
「その戦いはどうなったの?」

 チルは気になるらしく、リガスに問い掛ける。

「ほっほっほ。私はその者にボコボコにやられてしまいましたな」
「え?! 魔族さんがボコボコだったの?」
「えぇ。手も足も出ませんでした」
「し、信じれなーい」
「その時は戦い方などメチャクチャでしたから──今、この力を手に入れた状態で戦えばどうか分かりません──ですが初めて魔族以外に負けたので当時はショックでしたな」

 昔とは言え、魔族のリガスを倒すなんてどこのどいつだよ……

「魔族以外って言ったけど、なんの種族に負けたの?」
「ふむ。それが分からないのですよ──まず向こうは一言も話しませんでしたし、見た目も隠す様にフードを覆っていました。それに不思議な事もありましてな」
「不思議な事?」
「えぇ。その者は当時の戦いでスキルなど使わず純粋な武力や技のみで私を圧倒しました──私みたいにスキルが使えなかったのか、使うまでも無かったのかは分かりませんが」

 リガス相手にスキルを一切使わないとか……マジかよ……

 当時のリガスがどれ程強かったかは分からないが、それでも当時のリガスと対人戦をしたとしても、俺どころか、先程戦ったニルトンやシャレですら敵わないだろう。

「それから、私は気絶させられて目が覚めた時にはその者がいませんでしたな……」
「そ、そんな強い人もいるんだねー」
「ほっほっほ。世界は広いですな」
「私も今度戦ってみたい」
「だ、ダメだよ?! 魔族さんでさえ圧倒した相手なんて化け物くらいしか考えられないからチルちゃんは戦っちゃダメ!」

 妹のチルもリガス同様戦闘好きの為、ロピは姉として透かさず止める様に言う。

「お姉ちゃんの言う事分かった?」
「……うん」

 ロピはチルの返事に満足したのか満足気に頷いているが、チルを見る限り見つけたら戦闘を挑む気満々の表情をしているぞ……

 そして、リガスも恐らく挑む事は間違いないな。

 そんなリガスの昔話をしながら歩いていると、あっという間にシャレの家に到着した。

「ふぅ……何もして無いけど今日は疲れたな」
「アトス様はまだ病み上がりなので、直ぐにベッドに入って下さい」
「い、いや流石に寝るまでの疲れじゃ──」
「──いいから休んで下さい!」
「……はい」

 チルの圧力に負け、俺は着替えてベッドに入る。

「あはは、お兄さんがチルちゃんに怒られたー」

 俺の隣で嬉しそうに笑っているロピ。

「今、お食事の用意をします」
「ふむ。それでは私もお手伝いします」

 チルと一緒に台所に移動するリガスを見てロピも──

「あ、なら今日はお姉ちゃんも手伝おうかな」
「姉さんは手伝わないでいいからアトス様の事見てて」
「……え? で、でもホラお料理大変だから──」
「──ううん、姉さんの手伝いは大丈夫」

 先程の俺同様、有無を言わせない勢いで断られたロピは──

「お兄さん……最近妹が冷たいの……」
「……」
「反抗期かな……?」
「……」
「最近は一緒にお風呂も入ってくれないし……」
「……」

 まるで、思春期を迎えた娘を持つパパの様な心境を俺に相談してくるロピに何と答えて良いのか分からない俺は疲れたフリをして目を瞑る……

「お兄さん聞いているのー?」

 俺がいつの間にか目を瞑っている事に気が付いたロピは黙り込むが、時折チョッカイを掛ける様にホッペを突かれたりする。

 自分では疲れが溜まって無いと思っていたが、実際に目を瞑っているといつの間にか寝ていた様で、結局そのままご飯も食べずに次の朝まで寝てしまった。
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